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第8話 一攫千金を目指して

 突然降って湧いた、150万もの報酬が得られる依頼。人数不問だというのであれば参加しない手は無いな。


「済みません、誰でも参加可能なんですか?」


「はい、これは一刻を争う緊急事態。ギルドカードさえあればだれでも参加可能です!」


「……ギルドカードがいるのか」


 5万イェンで発行できるギルドカード、実はまだ俺は手に入れていない。だってお高いんだもん。

 全財産は現時点で7万イェン、今までの稼ぎを犠牲にする勇気は無かった。


「ちょっとミナト!? これはチャンスなのよ! 何諦めた顔してるのよ!」


「いや、ギルドカードないし……。金も無いからな……」


「5万払うだけで150万得られるのよ! こんなお得な話そうそうないわよ! これを不意にしていいの!? 他の人はみーんな参加してるわよ!」


 ルリカは俺に、どう聞いても詐欺師の勧誘にしか聞こえない言葉を投げかけてくる。

 だが、このままだと勝手に参加しそうな勢いだ。正直俺の方が今までの稼ぎは少ないし、ここは覚悟を決めるしかない様だ。


「……わかったよ、ギルドカードを発行してもらう事にする」


「よし、そう来なくっちゃね!」


 こうして俺は、ルリカと共に依頼を受けることにしたのであった。


*


 俺とルリカはは他の冒険者たちと共に馬車へと乗り込んでいた。詳しい説明は中で、という事らしい。

 依頼を受けたのは俺たちを含め計9人。夕方にしては集まった方だと言える。


「それで、執事さんよぉ! そろそろ説明してくれや! この馬車はどこに向かって、オレたちは何をすりゃいいんだ?」


 参加者の一人である筋肉だるま(仮称)が執事に向けて声をかける。俺もそろそろ気になっていたところだ。


「……では説明いたしましょう。我々は今、近くの古城を根城にしている盗賊の下へ向かっています」


「盗賊討伐の依頼って事かしら? 周りは強そうなやつばっかりだし彼らに任せれば楽勝ね」


「しっ。まだ続きがあるみたいだぞ」


 ルリカが俺の耳元で囁くが、本当にそうだろうか。わざわざ討伐依頼を緊急でやって貰う必要があるとは思えない。


「今回の依頼は1つ。盗賊たちに攫われたお嬢様……。クレイボーン家の御令嬢フェルナ様の救出です。いつも通り、ただ領内を周遊、していただけなのに……!」


 執事は途中で何かが込み上げてきたのだろうか、発言の最後には少し嗚咽が混じっている。


「クレイボーン家って言えばこの辺り一帯を支配する伯爵家の事じゃねーか!」


「四郡二市の領土を支配する伯爵家の娘。そんな方が攫われるとは……!」


「伯爵様はたった一人の娘を溺愛してるって聞くぜぇー! そんな娘を奪うなんて許せねーな、俺の筋肉で何とかしてやるっ!」


 執事の言葉を補足するように筋肉だるまたちが言葉を続ける。詳しい説明サンクス。


「皆様、有難うございます……! 総額たったの150万の報酬ですが、そのような力強い言葉が聞けて感謝の言葉もございません……!」


 ……え? 総額? 総額ってことは山分けってことか?

 もしそうだとすると参加者9人で割って……約16万! これは完全にやられた! ……いや、稼ぎとしては十分なのだが、落差による精神的ダメージが大きいな。


「気にすんじゃねーよ! 金の問題じゃねぇさ!」


「その通りだ。俺たちゃただの冒険者だが、領主様にちょっかい出されて黙ってられるか!」


「たとえ我々は報酬が0であっても行動しただろう。それが正しい行いなのだからな」


「有難うございます、有難うございます……!」


 俺が報酬の少なさを嘆いている間に、他の奴らは口々に執事を励ます。

 くそ、こいつら生粋の陽キャか? やめてくれ、俺が醜い奴みたいじゃないか。


「ちょっと、今の聞いた!? 総額ってどういう事よ! くっ、他の奴ら、突然腹痛とかで退場しないかしら」


 ……ここにも醜い心の持ち主がいたか。仲間がいたようでちょっと安心した。悲しい話だが。


*


 馬車が進み続けること約1時間。しばらく口を閉ざしていた執事が、再び口を開いた。


「皆様、間もなく盗賊共の根城が見えてきます! お気を付けください、奴らは護衛を倒してお嬢様を奪った奴らです。戦闘能力があることは間違いありません!」


 その言葉に皆、武器を取り出したり体を伸ばしたりして戦闘準備を始める。俺も『スライム銃』を出しておくか。


「ねえミナト。私良いこと思いついたんだけど……。途中でこっそりこいつらを気絶させちゃいましょうよ」


 ルリカは俺の耳元で小さく囁く。どう聞いても良くないことなんですがそれは。


「悪いけど俺はそこまで堕ちちゃいない。彼らの言う通り、まずはお嬢様奪還を優先しよう」


「……仕方ないわね」


「お前も戦えた方が良いだろうから、"カメラ"を渡しておく。いざ! というときに使ってくれ」


 俺はルリカに『メデューサ印の撮像機』を渡す。俺たちの戦闘準備はこれぐらいしかできないな。


「お! 見えてきたぜ、あれが噂の古城だな!」


 男の1人が馬車から顔を出して声を上げる。周囲は暗くなっているが、遠くに小さなかがり火が見えている。


「……ん? かがり火がどんどん大きくなってるぞ」


 遠くにあるかがり火は、次第に大きくなっている。ただのオレンジ色の点だったものが、炎だとしっかりわかるほどに激しく燃え上がり始めた。


「……! 違う、あれは火が大きくなってるんじゃない! 近づいて来ているんだ!」


「て、敵の魔法攻撃だああぁーっ! 馬車を止めろぉぉぉ!」


 かがり火だと思ったもの。それはこちらへ発射された巨大な炎の球体であった。

 ファイヤーボールなんてレベルじゃない。近付いてきたそれは、家一軒は余裕で包み込んでしまいそうなサイズだ。


 馬車が急停止し、勢いで前のめりになる。その馬車のたった1つの扉に冒険者たちが殺到するが、たった9人だというのに大渋滞を起こしもたついている。


「ミナト、まずいわ! 私たちも早く脱出しないと!」


「もう間に合わない、後ろから出るぞ! 『スライム銃』!」


 俺は扉からの脱出は不可能と判断し、馬車の後方の壁に銃を放つ。どろりと溶け落ちた壁の隙間から地面へと飛び降りた。


「うわぁぁぁっ!」


「……馬車が!」


 2人で脱出した瞬間、馬車に炎の弾が命中したようで大炎上する。まさに間一髪。

 だが、他の奴らは逃げ遅れてしまったようだ。このままでは冒険者たちが危ない。


「ルリカ、まだ炎が飛んでこないか確認を頼む! 俺は救助に移る!」


「わ、わかったわ! ……大丈夫、今のところ次のは飛んできていないみたい」


 俺は引き続きルリカに監視を頼みつつ、燃え盛る馬車から人を引きずりだす。

 炎とその衝撃でダメージが大きい。だけどまだ皆、息があるようだ。


「よし、とりあえず炎からは助け出したぞ。ルリカ、そこの岩陰にこいつらを移動しよう」


 たまたま近くに十分に身は隠せそうな岩陰があり、そこに怪我人を運び込むことにする。もし次の攻撃が来ても直撃は避けられるだろう。

 怪我人たちは筋肉もりもりのせいで2人でも運ぶのは重労働だ。元帰宅部の俺は息が上がってしまう。


「ふう、運び終わったわよ。それにして、盗賊の奴ら! 遠距離から攻撃なんてやってくれるじゃない! 絶対に許さないわ!」


 どうやらルリカは怒り心頭のようだ。自分に被害が発生したことでボルテージがマックスになったようだな。

 だが、俺も同じ気持ちだ。こいつらは俺たちの報酬を減らす存在だが、悪い奴らではなかった。それをこんな卑怯な攻撃で……。


「ルリカ、行くぞ。盗賊は俺たちが倒す」


 俺は依頼を継続し、2人だけで盗賊たちの根城へ向かうことにした。


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