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第7話 初仕事を終えて

「うーん、どうしたものか……」


 無事狼を捕まえることが出来た俺は、ルリカの石像の前で腕を組み思案していた。


 以前ルリカをスライム化したときは、カードに入れて出し直せばもとに姿に戻った。だがどうやら石化はそういう訳ではないらしく、再び召喚しても石化したままであった。

 戦闘終了しても治る状態異常と治らない状態異常があるものだが、石化は後者だったという事か。


「仕方ない、『女神の滴』を使うか」


 誤射とはいえ今回ばかりは俺が全面的に悪い。ここは惜しみなく使って素直に謝ろう。

 俺はバッグから小さな瓶を取り出すと、その中身をルリカの頭にかけ始めた。


「きゃああー……って、あれ? 狼は?」


「お、復活したか。良かった良かった」


「復活? ……って、なにこれ!? 髪がびしょびしょじゃない!」


「いま『女神の滴』をかけたとこだ。悪いな、間違ってお前を石化させちゃった」


「あ、あんたって人は……! うう、はした金に釣られて動けなくされた挙句、頭に液体をぶっかけられる羽目になるなんて。本当最悪だわ……」


「……誤解を生む表現は止めろ」


 何はともあれ、狼を捕らえることには成功した。ちゃんと謝罪もしたしまずは一安心だな。


*


「よし、じゃあ早速狼を召喚してみるか」


 俺は先ほど狼を封印したカードを確認する。そこには『シルバーウルフ』と名前が刻まれていた。


「出てこい、シルバーウルフ!」


 俺がカードを掲げ名を呼ぶと、先ほどの狼が現れた。スライム化はちゃんと治っている。


「おっと、俺に飛び掛かるなよ! ほら、お腹が空いているんだろう? ソーセージをやろう」


「……なんでソーセージを持っているのよ」


 男というのは常にソーセージを携えているものだ。という冗談は置いておいて、これは非常食としてこっそり買っていた奴だ。お値段何と100イェン、お買い得ですな。


「よーしよし、いい子だ。こうして襲われる心配がなくなると可愛いもんだな」


 漢のソーセージ作戦が功を奏し、狼は尻尾を振っている。首元をわしゃわしゃしてやると、意外とやわらかい毛並みだ。


「……ちょっと、私にもモフらせなさいよ」


「先に仕事を終えてからだ」


 狼を捕まえたのはあくまで目的ではなく手段なのだ。俺はバッグに手を突っ込み、おばあさんに借りていた宝石の無いブローチを取り出す。


「これと同じ匂いの奴を探してくれ。出来るか?」


 狼は鼻をクンクンと動かし、ブローチの臭いをかいでいる。やがて、わんと一声吠えると、地面の臭いを嗅ぎながら移動を始めた。


「早速何か嗅ぎつけたみたいだな」


 狼の後を追っていくと、5分ほど歩いたところで歩みを止めた。再びわんと一声吠えると、その場でお座りする。


「……! あった、あったわ! 見て、赤い宝石!」


 ルリカが草を掻き分け、何かを拾い上げる。その手には赤く輝く丸い宝石が握られていた。


「おお、間違いない! ちゃんとブローチに形が合うぞ! これが探していた宝石だ!」


「やったわね! これで5万イェンゲットよ!」


 ついに俺たちはやり遂げた。決して見つからないだろうと思われた宝石を見事さがし終えたのだ。


*


 村に戻った俺たちは早速依頼主の下へ戻っていた。


「まあ、まさか1日で探し当てるなんて! もう一生帰ってこないかと思ったわ!」


「ふふん、私の手にかかれば当然よ!」


 宝石を受け取ったおばあさんは昇天せんばかりに大喜びし、何故かルリカが鼻高々にどや顔をしている。

 まあ、実際に彼女がMVPなので好きにさせてあげよう。


 俺たちは報酬を受け取るとその場を後にすることにした。いつの間にか辺りは暗くなり始めている。


「ふふふ、5万イェン……! 今日はこれで美味しいものでも食べましょ! ほとんど私のお金なんだからいいでしょ!」


「そうするか。俺も大分お腹が空いてるし」


「何にしようかしら? いつもホットドッグばっかりだし、たまにはサラダでも食べたいわね。メインディッシュは……」


 報酬の入った袋を抱え嬉しそうに歩くルリカを見ながら、俺もゆっくり後をついて行く。


 ……あんまり使い過ぎると結局何の意味もないわけだがまあいいか。俺にとっても初仕事でやり切った感があるし。

 そう考え、今夜はルリカに付き合うことにした。


***


 ……俺が初仕事を終えてから、1週間ほど経った。

 貧乏暇なしという言葉があるが、それを実際に自分で体験することほど悲しいことは無いのではないだろうか。


 何が言いたいかというと、俺はいまだにギルドカードを作れず、労働基準法を違反しながらブラック依頼をこなしているのだという事だ。


「はい、薬草採集の依頼お疲れ様です! こちらが報酬の500イェンでーす!」


「どうも。ちなみに、少し多くとってきたけどボーナスとかは……」


「ありませーん♪」


 くっ、今日もこれっぽっちの稼ぎか。午前中はネズミ駆除で2300イェン稼いだから、夕食代ぐらいにはなりそうだけど。

 俺は軽すぎる報酬を受け取ると、ホテルに戻ることにした。


「あ、ミナト。仕事終わったの? 私も今終わったところだから今日はギルド内の酒場で食事を済ませましょ」


 ギルドから出ようとしたところで、ばったりルリカと出くわした。今はとにかく金が欲しいので、別行動でそれぞれ仕事をこなしている。


「ふふん、本日の稼ぎ9000イェン。やっぱり私って優秀ね。客にも元気があって良いって言われちゃうしね」


 ルリカは1日中、カフェの店員として働いている。ギルドカードさえあればこういった安定した仕事も受けられるってことだな。


「それはいいけど、だんだんトレジャーハンターとしての気概を失ってないか?」


「な、何言ってんのよ! まだ私のハートは熱いままよ!」


 席についた俺はルリカからお金を受け取る。これで今の所持金は約7万。総合的には黒字だが、安定とは程遠い。


「ねえ、そろそろ本格的に動くべきじゃない? まさかこうやって日雇い労働者を続けるつもりじゃないでしょ」


「ああ、そのつもりは無いけど……。具体的な案はあるのか?」


「私たちみたいな底辺がここから抜け出すには賭けに出るしかないわ! 道具を買い込んで、近くの遺跡にトレジャーハントよ!」


「……刹那的な生き方だな」


 だけど、覚悟を決めるしかないのか? せっかく魔法道具があるのに、それを腐らせておくべきではない。地味だけど有効活用すれば、きっと飯のタネになるはずなんだ。


「……ん?」


 2人で話し込んでいると、突然ギルドの入り口がバンッと開け放たれた。執事服を着た男が入ってくると、どこか慌てた様子で受付に向かっていく。


「あの男、どう思う? あの慌てっぷり、私の予測だと奥さんとの不倫がバレて旦那様に追われてるってところかしら」


「どんな発想だよ。普通に何か緊急の用事があるとかじゃないのか?」


「だからその緊急の用事が不倫じゃないのって話よ」


 ……もうやめよう、この不毛な会話は。決して答えはでない。


 俺たちは執事の様子をしばらく眺める。大分話し込んでいるし、受付の顔もやや緊張が見え始めた。相当な緊急事態なのだろうか。


「あっ! きっとあの受付嬢と(ねんご)ろなんだわ!」


「もうその話は終わったから」


「みなさーん! 緊急! 緊急ミッションです! 手の空いているものは力を貸してください!」


 ルリカを適当にあしらっていると、突如受付がこちらに向かって声をあげた。俺ではなく、酒場でたむろしている者全員に向けて言っているのだろう。


「人数は問いません! 報酬は150万イェン! ぜひ手助けをお願いします!」


 緊急ミッションってなんだろなという俺の思考は、次の言葉で一瞬でかき消された。

 150万イェン? ……乗るしかないだろ、このビッグウェーブに。


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