第52話 王都での初仕事
「アーマードラゴン討伐……?」
「そうよ! この辺にある依頼書で最も確実性のある依頼、それがこれよ!」
俺はルリカの突き出した依頼書を改めてよく見る。アーマードラゴンという生物の鱗は防具を作るのに最適なので、持ってきてくれたらいくらでも買います、という事らしい。鱗1枚につき150万。なるほど報酬は素晴らしいな。
「……そもそもこの辺にある依頼を受けれるのかよ?」
内容はともかく、それよりも先に確認しておくべきことがある。それはこの依頼が俺たちのランクで受諾可能か、という部分だ。
初心者向けの依頼とは全く反対側のエリアに掲載されていた依頼書だ。普通に考えれば上級者向けだろう。
「ちっちっち! この美少女に抜かりはないわよ! この辺の依頼書は誰でも受けられる、いわばフリークエストよ!」
「フリークエスト?」
「そう。期限が設定されてなくて、欲しいものが得られるなら何でもいいよ、っていう依頼の事よ」
俺は掲示板の他の依頼書もチェックしてみる。こんな魔法道具があれば買います、こんな素材が欲しいです、のような依頼ばかりのようだ。
まあ確かに、緊急性がないなら冒険者の質にこだわる必要はないしな。珍しいものを偶然駆け出しの冒険者が手に入れるってことだってあり得るわけだし。
「じゃあこの辺の情報を全てメモしておきましょう。何かのついでにやれる依頼があるかもしれません」
「何言ってるのよ! わざわざ私が1枚依頼書を選んであげてるでしょ!?」
話を聞いていたダリアが紙とペンを取り出しメモを取ろうとするが、ルリカがそれを止めてダリアの顔に依頼書を押し付ける。
「……ですが、それはドラゴンを討伐する必要があるのでしょう? ドラゴンと言えばトカゲ界最強の存在。いくら報酬が良くても積極的に狙うべき依頼ではないかと。それにどこに生息しているかもわかりませんし」
ああ、ドラゴンってトカゲのカテゴリに分類されるのか。
いや、今はそんなことどうでもいいな。確かにダリアのいう事も一理ある。期限が無いという事はそんなすぐに終わる依頼ではないとも読み取れる。たとえ稼ぎが1億だろうと、自給換算で500イェンでは意味がないのだ。
「ふふん、実はもう大体の居場所はわかってるわよ! 金儲けになりそうな情報は何でもメモしてるんだから!」
今度はルリカがメモを取り出すとページをぺらぺらとめくる。年季の入ったそれには所狭しと細かい文字が書き込まれているが、その中の1ページを再びダリアの目前に付きつける。
「王都から東に馬車で1日ほどの場所で、廃坑を根城にしていた盗賊が鎧をまとった生物に襲われたらしい。ざまあ。って書いてるでしょ? この生物がアーマードラゴンって可能性、あるんじゃないかしら?」
……ざまあまで書く必要あったのか?
「うーん、そこまで情報があるならうまい仕事にも思えてきた。今は一攫千金を狙いたいところだし、数日かけて挑戦してみるのもアリかもな」
「さすがミナト♡ そう来なくっちゃ!」
俺が好意的な返事をすると、ルリカが嬉しそうに俺の腕に絡みついてくる。それを見てダリアはやや焦ったような顔で口を開いた。
「お、お待ち下さい、ミナト様。場所の問題が解決しても実際に討伐できるか、という問題が残っています。私たちの貧弱な戦力では危険すぎます。お金では命は買えません、どうかご再考を」
「そうは言っても、正直ドラゴンが強いイメージがないんだよな」
俺が知っているドラゴンは愛知県のドラゴンぐらいだが、その知識で言うとドラゴンは弱いのである。決して恐るるに足らずだ。
「ほほう、言うじゃねーか。まあ別に逃げたきゃいつでも逃げればいいんだからよ。紙を見て怯えてちゃ話にならねーぜ、小娘?」
「……そうですね、わかりました。私もミナト様の奴隷ですし、死地までご一緒いたします」
「まだ死ぬ予定はないけどな」
ダリアもなんとか納得してくれたことだし、方針は決定した。東の廃坑へ向かい、アーマードラゴンとやらを根絶やしにし、鱗をはぎ取って一攫千金だ。心配なのはもはや生態系への影響だけと言っていいな。
「よーし、そうと決まれば準備開始ね! 最高級レストランと最高級ホテルを予約して今夜は英気を養いましょう」
「ではルリカはそれで。私は少しでも仕事が楽になるように傷薬などを探します」
「あ、じゃあ俺も。また数日掛かりになりそうだし、馬車の移動でだいぶ消耗品も減っちゃったしな。無駄遣いしたくないしホテルは普通でいいや」
「ついでにオレに酒も買ってくれ。腹の中に荷物を入れさせてやるからよ」
「ちょ、ちょっとぉ~。仕方ないわね全く~」
俺は既に浮かれているルリカをほっといて、綿密な準備をすることにした。どんな仕事でも油断するわけにはいかないからな。
ダリアと並んで歩き出すと、結局ルリカも追いついてきて再び俺の腕に絡みついてきた。若干体重をかけてくるのでやや重たい。
まあこの程度の重みで負けてちゃいけないなと思い、特に何も言わず街中へと歩き続けた。




