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第51話 足元固め

 お金を借りに行ったはずがルリカをこき下ろされただけで終わってしまった俺たちは、ひとまず近くのカフェで今後について話し合うことにした。


「……! ここのコーヒー美味しいわ。王都なだけあって素材も良いって事かしら」


 くそ扱いされたルリカは運ばれてきたコーヒーに舌鼓を打っている。立ち直りの速さは素晴らしい。


「それで、今後はどうしてくれるんだ。有望株のミナト君よ?」


 レオニックは麦酒の入った瓶をグラスに注ぎながら俺に問いかけてくる。人形がお酒飲んで大丈夫なのかという疑問が湧いたがそれを振り払い、問いかけに応える。


「そうだな……。地道な動きになるけど、休憩が終わったらもう一度ギルドに行って今度は依頼を探そうかって考えてる」


 結局のところ、問題は金だからな。頑張って稼ぐしかない。

 ……もしかしたらお嬢様を救出した時のようにいい仕事が舞い込んでくる可能性もあるしな。


「ではしばらくはホテル暮らしという訳ですね。節約の為に部屋は1つが良いかと」


 俺の言葉を聞いてダリアが口を挟む。ダリアはサラダを注文していたようで、あまりおいしくなさそうな緑一色のそれをフォークで口に運んでいる。


「……部屋の数はともかく、しばらくはそうなりそうだな」


「ちっ、当てが外れたぜ。これじゃあ研究もままならねーな。まあ馬車は途中じゃ降りられないし、力を貸してやるぜ」


「悪い、ありがとう。レオニック」


 レオニックはやれやれといった表情でグラスの麦酒をあおっている。流石は100年生きているだけあって、なんだかんだ面倒見が良いようだ。


「ミナト様、私も自分にできる仕事を探してみます」


「ダリアもありがとう。助かるよ」


 ダリアも巻き込まれているだけの身分だというのに、健気に手助けを申し出てくれる。有難い話だけどまずは口から飛び出したレタスっぽいものをちゃんと飲み込んでくれ。


 拠点を手に入れるのは計画通りとはいかなかったが、なんだか結束は強まった気がする。

 何というか、いい気分だ。暖かい気持ちになる。支えてくれる人がいるのだから、頑張らなくてはという気持ちになってしまうな。

 悩んでばかりはいられない、俺も一応はリーダーなんだし気を取り直して頑張るとしよう。


「ふーん、じゃあ私は魔法道具店巡りでもしようかしら」


「なんでだよ! お前も働かんかい!」


 せっかくいい雰囲気なっていたのに、ガクッと来てしまった。そんなんだからくそ扱いされてしまうんだぞ。


「じょ、冗談よ……。私もちゃんと稼いで、くそランクからかすランクに上がって見せるわよ」


 良かった、流石に悪いジョークだったか。目標は低いがルリカもちゃんと働く意志があったようだ。

 よし、そうと決まれば善は急げ。再びギルドホームに戻ろう。


 俺は何故か一番最後に運ばれてきたアイスコーヒーを一気飲みすると、バッと席を立った。


*


 本日2度目のギルドホーム。時間は昼下がりだが相変わらず人は多いようだ。

 俺たちは今度は受付ではなく、依頼が掲載されている掲示板の方へと足を運ぶ。やはり大都市は依頼の数も多い。


「……気合を入れてきたのはいいけど、そう言えば受けられる依頼もランクで決まってくるんだったよな」


 俺は一番最初の村のことを思い出す。あの時は単純に報酬額で仕事を選ぼうとしたがダメだと言われていた。

 あれから俺も「駆け出し」から「有望株」に成長してはいるけれど、大差はないだろう。


「……俺が受けられるのはこの辺に張られてある奴だけみたいだな」


「ちっ、しょっぱい仕事ばかりだぜ。依頼を出すほど困ってるくせにどいつもこいつも金はケチりやがる」


 レオニックは『王都周辺のゴブリン討伐! 1匹当たり500イェン!』という依頼書を見て顔をしかめている。

 その依頼書以外にも、基本は単価は1000イェン以下の採集依頼や討伐依頼ばかり。デジャブというか、どこの街でも結局このありさまのようだ。


「ミナト様、一番単価が高いのはこれのようです」


「どれどれ……貴族の娘の1日奴隷、10万イェン!?」


「ははっ! いいじゃねえか!」


 ダリアから受け取った依頼書は金持ちの醜さが垣間見えるとんでもない内容だった。肩の上のレオニックが腹を抱えて大笑いし、踵でバシバシと俺の胸筋あたりをドラミングする。


「……遊んでないで真面目に探してくれよ」


「くっくっく、悪いな……」


「私は真面目でしたが」


 さっきカフェで気持ちを新たにしたというのに、何だこの状況は。

 やっぱりやる気なんて出すもんじゃないな。結局はいつも通りというか、いつも以上に空回りというか……。


 俺はダリアの持ってきた依頼書をそのまま突き返すと、再び掲示板に目をやる。


「はあ……あれ? そう言えばルリカはどこに行った?」


「あん? 確かに見えねえな、あのうるさい小娘……ランクが低すぎて受けられる仕事がねーんじゃねえか? はーっはっは!」


 レオニックは俺の肩の上で、自分の言葉に1人で大うけしている。

 ダメだこの人形。とりあえずは放っておいてルリカを探そう。俺は低ランク向けの掲示板の側を一旦離れることにした。


「ミナト様、いましたよ。くそランクのルリカが」


「こら! そんなチクチク言葉を使っちゃあいけません! ……おーい、どした? そんな隅っこで?」


 ルリカは依頼が掲載されているエリアの一番隅で一生懸命依頼書を見比べていた。

 俺たちが調べていた掲示板から見てちょうど対極に位置する場所。普通に考えれば高ランク向けの依頼が掲載されている場所だと思うのだが……。


「ミナト、これに決めたわ!」


 ルリカは俺に気付くと目の前に依頼書を突きつける。そこには『アーマードラゴン討伐』と記載されていた。


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