第41話 お嬢様奪還作戦
俺は地面に落ちている石に向かって、レオニックから借りた剣、オーバ・ホールを上段に構えそのまま振り下ろした。
「……!? うわわ、地面まで!」
俺が振り下ろした剣はレオニックの言った通り、全く抵抗を感じさせずに地面まで埋まり込んだ。まさに空を切る、といった感じだ。
そして石は完全に真っ二つになり、ぱっかりと両側に分かれる。驚いた、なんて切れ味だ。
「うお、凄い! 石がきれいに……」
「さっきも言ったがその石そのものが切れたわけじゃねえ、空間が分かれただけだ。切断面を合わせれば元通り、繋いだ跡すら存在しないぜ?」
言われた通り石を重ねると、ぴったりくっつく。再び手で引きはがそうとしても全く微動だにしない。完全に元通りだ。
ルリカが首を落とされていても生きていたのはこいつのお蔭か。原理はわからないが、凄い魔法道具だ。
「いいなこれ、めちゃくちゃ凄い! 本当に使ってもいいのか?」
「そんな素直に称賛されると悪い気はしねーな。……しょうがねーな、しばらくは貸しといてやるぜ」
なんてこった、こんなにあっさり凄い武器が手に入るなんて。なんでも切れるとか主婦が喜ぶどころの騒ぎじゃないぞ、舞台が変われば神器だろ、これ。
こいつは何としてもレオニックに気に入られないとな。しっかりお嬢様を救出して、お金がっぽり。そしてその金でレオニックの機嫌を取るとしよう。よし、凄い武器を手にして俄然やる気が湧いてきた。
「ね、ね、ね、レオニック様ー? 私には何かないの?」
俺が気合を入れていると、ルリカがニコニコとしながら俺の肩に近づいてきた。
……こいつ、レオニックに媚びを売ってやがる。様付けとか、多分今までの人生で一度もしたことないだろ。
「……オレは下品でうるさい女は嫌いだ。品のない女に貸す道具はねーな」
「なっ! いうに事欠いて、私を下品ですってぇ!? ミナト、今すぐその剣でこの生意気な人形の首を叩き落して!」
「……なんでだよ。俺はこの場でルリカかレオニックのどちらに味方すればいいか聞かれたら、迷いなくレオニックを選ぶ」
「んななっ! 付き合いの長い私を差し置いて、新しい女と……!」
ルリカは予想できなかったといった表情でショックを受けている。
下品でうるさい女は放っておいて、俺は改めて要塞に目を向ける。この剣で穴をあけて、こっそり潜入するとしよう。
「ふーんだ。いいわよ、私にはライト代わりになるナイフが有るもの」
ぶつぶつ言っているのは無視しつつ、俺は壁に剣を突き立てる。そのままぐるっと剣で円を描くと、その形に添って壁が抜け、きれいな穴が開いた。
頑丈そうに見える城壁も意外と厚みはなかったようだ。そうは言っても50センチはあるが。中はもう城内のようで、石の廊下が左右に広がっている。
中はやや暗く、耳を澄ましても音は聞こえない。潜入は無事成功って感じだな。
「よしシルバ、先行を頼む。人の匂いがしたら教えてくれ」
「わん!」
剣と銃を持ち直し、シルバに命令する。いくら武器が凄くても使い手は一般人。勝つには有利な状態での戦闘、つまりは奇襲がベストだ。
シルバに頼りきりにせず、俺も一応周囲を警戒しながら歩みを進めていく。
「……! 人の声が……」
廊下をずっと進んでいると、1つの部屋から声が漏れ出していることに気付いた。ゆらゆらと揺れる明かりも外に漏れており、中で何かやっているのは間違いないな。
そっと近づき、耳を澄ましてみる。
「まったく、間抜けな女だぜ! ぶらぶらとこの辺りを散歩なんてよ!」
「ぎゃはは、だがそのおかげでおれ達もお金持ちだぜ、たっぷり身代金をせしめてやる」
声を聞く限り、中にいるのは盗賊たちで間違いないな。呑気にバカ騒ぎしているのを聞くと、まだ俺たちに気付いてなさそうだ。
だが、中の様子が見えないせいで何人いるかがまだわかっていない。頭を出して覗くのも危険だしな……。
「ルリカ、何か鏡とか反射するもの持ってないか? こっそり部屋の中を確認したい」
「え? ナイフならあるけど」
「よし、貸してくれ」
後ろ手でルリカからナイフを受け取ると、それを扉の近くに持っていく。こいつの反射で人数を確かめたら突入だ。
「ん? お頭ぁっ! 何か扉の外に光ってるモノがありますぜぇ!」
「な、なんだありゃあ!? 侵入者か!」
「え、何ですぐバレて……って、うわああぁ、これ光る奴っ!」
何という事だ、俺が受け取ったナイフは先端がピカピカと光り輝いていた。こっそり中を覗くつもりが、懐中電灯で中を照らしているのも一緒じゃないか。
「なんでわざわざ光るナイフを渡すんだよ!」
「反射するものなら何でもいいって言ったじゃない!」
「何でもいいとは言ってない!」
「そこにいるのは誰だ!? 出てきやがれ!」
ルリカと言い争いをしたことで完全に俺たちの存在がばれ、外に向かって怒声が聞こえてきた。
くそ、こうなったら覚悟を決めるしかない。俺は剣と銃を構えると中に突っ込んでいった。