第40話 いざ救出へ(2回目)
伯爵令嬢救出の任を請け負った俺たちは早速馬車に乗り込み、目的地へと向かっていた。
説明は道中で、という事らしい。前回と一緒だな。
「それで、今回はどこの誰に攫われたんだ?」
「はい、相手はこの近くの盗賊でございます。一度も落とされたことのないという難攻不落の要塞、ヴァグナハル城を根城にしております」
……とんでもない所に住んでんな。ただの賊の癖に。
「なんで城に盗賊が住んでんだよ? 戦略上重要なところなんて兵士を付けとくべきだろーが。戦争が終わって間抜けしか生き残らなかったのか?」
俺の横にちょこんと座っているレオニックが当然と言えば当然の質問を投げかける。相変わらずお口が悪いことで。
「に、人形が喋りましたぞ!?」
「あー、その説明はまた今度落ち着いてからで。それで、何で山賊が?」
お嬢様が攫われたという一大事の最中にお人形さんについて語っている暇はない。俺は執事さんに先を促す。
「あ、はい、そうですな。実はその要塞のある場所は土地が痩せており、井戸もほとんど枯れてしまった場所なのです。維持費が勿体ないので捨ててしまえと侯爵様が……」
「それで、廃墟になったところに住み着いたわけか」
「その通りでございます。大軍は駐留できませんが、少人数であれば問題なく過ごせるほどの水は湧きますので」
つまり相手はそんなに多くないという事か。城に侵入さえできれば弾に制限のある俺の銃でもなんとかなりそうかな。
「そんな少ない人数に攫われるなんて、間抜けというか不用心よね~」
「おい、ルリカ」
お口の悪い奴2号が口を開く。まったく、俺たちは侯爵家に恩と媚びを売って金を得ないといけないというのに、こんなところで心証を悪くするんじゃありませんよ。
「面目ございません。お嬢様がどうしても街の外の景色が見たいと仰られるので、少人数でこの辺りを……。最近はどうも冒険者への憧れが強くなりすぎているようで、よく外に出たがるのでございます」
「……俺のせいじゃないからこっちを見るな」
ルリカがジト目でこちらを見ているが、俺には何の責任もない。そもそも盗賊がいなけりゃ攫われなかったのだからな、俺は無罪です。
「ミナト様、何か見えてきましたよ」
「ん? どれどれ……」
我関せずといった感じで話に参加していなかったダリアが外を見て声を上げる。俺も小さな窓に顔を近づけると、確かに城壁が見え始めた。
街の周囲にあるものとは様子が違い、高くそびえたっている。しかもネズミ返しのように張り出しが付いており、まさに防衛用に作られた強固な壁といった感じだ。
だけど、大きさというか面積はそれほどでもなさそうだ。見た感じ小学校ぐらいしかない。
「結構立派だし、頑丈そうだけどセンスがないわ。住むにはちょっと……て感じね」
「無造作に岩の積み上げられた城壁が良くないですね。グリーンカーテンにすると多少は圧迫感が無くなると思いますが」
「……何の所感だよ」
三者三様の感想を抱きつつ、ついに俺たちは要塞へと到着したのだった。
*
「では、私は近くに馬車を隠して待機しております。どうかお気をつけて」
「ああ、お嬢様は必ず助け出す」
俺たちは近くで馬車を下ろしてもらい、執事と別れることとなった。
今はまだお昼前。さっさと解決してしまいたいところだ。
「さて、カッコよく決めたはいいけど、どうやって潜入するか……」
俺は城壁に障れる距離まで近づくと、石をペチペチと叩いてみる。……当然だが動く気配はない。
上を見上げると、近くにいるせいかとてつもなく高く見える。普通の元高校生の俺では漏らしながら滑落死するのがオチだ。
「銃で壁を破っていけばいいじゃない」
「まあそれも1つの手だけど、弾数に制限があるからな」
何度も言うようだけど、俺の銃は6発しかない。当たれば一撃必殺でも7人以上に襲われたらひとたまりもないのである。
その貴重な弾を、ただの壁抜けの為に使うなんて勿体なさ過ぎる。ここは慎重を期すべきだろう。
「少人数って言ってたしきっと何とかなるわよ!」
「その根拠のない感じで中に突っ込んでいきたくないんだけど……」
「おいおいお前ら、オレを忘れちゃいねーか? 支援者を求める身として、お嬢様救出に手を貸すのもやぶさかじゃないぜ?」
「レオニック! 協力してくれるのか?」
馬車を降りいつの間にかまた肩の上に座っていたレオニックが声を上げる。もしや四次元ポケットから発破とか出してくれるというのか。
「これを使いな。オレの産み出した剣、ありとあらゆるものの境界を断ち切る、その名も『解体剣オーバ・ホール』」
そう言ってレオニックが自身の服をめくると、お腹に空いたブラックホールから剣の柄が出てくる。
俺がそれを握り引き出すと、やや小ぶりの片手剣が出てきた。
「これは、ルリカの首を叩き落した剣か……」
「ちょっと、振り回さないでよ!」
見た目は重たそうなイメージだったが意外と軽く、帰宅部の俺でも容易に振り回せる。
片手に銃、もう片手に剣……。うーん、悪くない。
「見たから分かると思うが、切れ味も最高だ。この剣は物質を斬るのではなく、物質の存在する空間を斬る。だからどんなものでも抵抗すら感じない。試してみな」
レオニックは剣を眺める俺を見て、ふふんと鼻を鳴らし解説を続ける。
物は試しだ。俺はその辺に落ちている石を見つけると、まずは切れ味を確かめることにした。




