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第33話 森の探索

「よーし、行くわよ! いざ、前人未踏の深き森へ!」


「……街の横の森だけどな」


 翌朝、バッチリ準備を整えた俺たちは森の入り口へ来ていた。

 昨日は徹夜だったが今朝はしっかり睡眠をとれたので気分は悪くない。こんな近所の森じゃお宝があるかはわからないけど、大自然の中の散歩だと思えばおしゃれだとも思えてくる。


「さあミナト、先陣お願いね!」


「結局こうなるわけね」


 俺たちはドラクエよろしく縦列になり森の中へと入っていく。足を踏み入れるとすぐに背の高い草木が足を阻み始め、早速おしゃれな散歩とは言い難い雰囲気になってきた。


「イイ感じの雰囲気ね。こんなに歩きにくいならお宝を隠すのに持って来いだわ」


「大事なお宝なら手元に置いておくと思うけどな」


「まあ凡人ならそう考えるかもしれないわね。でも非凡な思考にならないと裏をかけないわよ」


 ……誰の裏をかくんだよ。


*


「ふう、疲れたな」


「情けないわね、まだ1時間も経ってないわよ!」


 森の中に入ってしばらく。インドア派の俺は既に疲れを感じ始めていた。


 ……なんというか。俺は木漏れ日の中、鳥たちの鳴き声を聞きながしマイナスイオンを感じながらの清々しい散歩を期待していたのだが。


 現実は違う。腰までの高さの雑草。遠くから聞こえる謎の獣の唸り声。日を通さない深く暗い森。

 もはや冒険というより遭難なのである。先に進みたいという気持ちよりも帰りたいという気持ちが勝って当然だ。


「私も疲れた……もとい、飽き始めてきました。そろそろ帰りませんか?」


「わん!」


「ほら、シルバも帰りたいって言ってるぞ」


 どうやら皆俺と同じ気持ちらしい。そりゃそうだ、自称冒険者は彼女だけなのだから。他の人間は森に興味なしだ。


「もう、何でこんなに協調性がないのよ!」


「反ルリカで協調しているとも言えますね」


「ぐぬ、わかったわよ! どこか休憩できそうな場所を探しましょ! 休憩しながら今後について改めて相談よ!」


 そう言ってルリカは俺を追い抜き、ずんずんと前へ進み始めた。

 ……休憩したいんじゃなくて帰りたいんだけどな。


 そうは言っても放っておくわけにはいかない。やれやれと後を追う事にする。


「……! あ、あれ!」


「お、おい! ルリカ!?」


 再び歩き始めて数分、ルリカが何かを発見したようで急に走り出す。

 慌てて俺も走り出すと、少し開けた場所でルリカに追いついた。


「ふっふっふ、流石は私! まさかすぐにこんな立派なものを見つけるなんてね!」


「これは家……か?」


 開けた場所の真ん中には、どう見ても人工的な木造の家が建っていた。

 屋根もドアも窓もあり、まあ普通の民家だ。


「いいえ! この年季の入り様、もはやダンジョンよ!」


「いや、ボロ屋でも家は家だろ……」


 確かにルリカの言う通り、かなりの年季が入っている。窓ガラスは真っ黒に汚れ中の様子は見えず、壁には一面蔦が這っている。伸びきった蔦は窓や入り口の扉をも浸食しており、年単位で誰も出入りしていないのは間違いない。


「まったく、ミナトってば法律知らず? ダリア、ダンジョンの定義を言ってみなさい!」


「命令に従う気はありませんが、ミナト様の為にお教えしましょう。ダンジョンとは、放棄されて100年以上経過した、所有者のいない建造物のことです。そこで発見したお宝は第一発見者のモノになりますよ」


「なんだその冒険者有利なルール……」


「ちなみに所有者のいる建造物は、許可を得ない限り中のお宝もその人のモノよ。この前行った洞窟は所有者に金を払ったからセーフってことね!」


「ダンジョンは危険ですからね。お宝という見返りの代わりに調査や危険の排除を行うのが冒険者の仕事です」


 また無駄知識が増えてしまった。それよりもルリカにも遵法意識があったとは驚きだったけど。


「はあ、つまり無人のこのボロ屋の中を好き勝手荒らしていいってことか?」


「端的に言うとそういうことね。よし、早速荒らすわよ!」


 どう聞いても無法者の発言だが、ルールが良しとしているなら俺も良しとしよう。それが法治国家日本の出身者である俺のあるべき姿だ。


「それで、どう入るんだ? 壁に穴でもあけるのか?」


「中のお宝に被害があったら困るわ、正攻法で正面玄関から攻めましょ」


 そう言ってルリカは扉に伸びた蔦をはがし始める。べりべりと引きはがした蔦と一緒に、扉も音をたてながら開いた。どうやら鍵がかかってないどころか、老朽化しているせいで自然に開いてしまうようだ。


「もう完全に私を誘っているわね……! よーし、侵入よ!」


 中は真っ暗で、汚れた窓から差し込む光がわずかに足元を照らしているだけだ。

 ルリカはごくりと唾をのむと、抜き足差し足忍び足でゆっくりと入っていく。


 ……やれやれ、まるで肝試しだ。何も起きなければいいけど。

 俺は念のため銃を手に持ったまま、同じように家へと侵入することにした。


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