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第30話 森のクマさん

「ふう、満腹だ……!」


 俺たちは街で食事を終えた後、再びボロ屋敷へと戻ってきていた。

 辺りは完全に日が落ちて、街のはずれという事もあって真っ暗闇だ。


「やっぱり都会はいいわね! オシャレなレストランもたくさんあるし」


「だからといって食べ過ぎだと思うけどな」


「何言ってんのよ! 宿をタダで確保できたんだからその分を食費に回しても良いじゃない!」


 まったく、これじゃあ本末転倒だな。お金が一向に貯まらないじゃないか。

 まあ、ルリカの言う通りここは都会だ。きっと稼げそうな依頼もたくさんあるだろう。明日から気合入れて頑張るか。


 ひとまず今日はこの辺にして寝ることにしよう。適当に寝る準備をして、早速寝袋に潜り込む。


「ミナト様、失礼します」


「……YOUは何しに人のベッドへ?」


 俺が寝袋に入り終えると、何故かダリアが俺の真横に寝袋を設置し、同じように潜り込み始めた。


「そろそろ奴隷の務めを果たそうかと」


「な、何言ってるのよ! そんな破廉恥なこと、私の前では許さないわよ!」


 ダリアの言葉に、隣のベッドのルリカが声を荒げる。夜だというのに全く騒がしい。


「ルリカ、静かにしてくれ。俺はシルバと寝るからダリアも自分のベッドに戻りなさい」


 俺がそう言うと、名前を呼ばれたシルバが尻尾を振って俺のベッドに上がり込んできた。毎日ブラッシングしているので素晴らしい毛並み。一緒に寝るのに申し分ない。


「……! 申し訳ございません、私が畜生以下の奴隷だという自覚が足りませんでした」


「畜生て……。まあ、分かってくれるなら何でもいいけど」


 ダリアは頭を下げると、自分のベッドへ戻っていった。ふう、やっと静かに寝れそうだな。


*


「ワン!」


「……ん?」


 今、何時ごろだろうか。まだ寝て数時間も経っていないはずだが、不意にシルバが闇の中で吠え始めた。


「ワン、ワン!」


「ん~……。トイレなら勝手に言ってくれ……。眠いんだ、静かに頼む……」


「ワンワンワン!」


 俺が小声で話しかけるが、シルバはそれを無視して吠え続ける。


「ああもう、うるさ――」


「うっるさいわね! 何よ夜中に! 目が覚めちゃったじゃない!」


 できるだけ小さな声で事を進めようと思ったが、我が家で一番うるさい人間に火がついてしまった。

 まったく、こんな時間になんだ。手探りで明かりを灯し、シルバを見つめる。


「どうしたシルバ、うるさいぞ。人間はもう寝る時間なんだ、静かにしてくれ」


 どこか興奮した様子のシルバに近寄ると、横穴の開いていたところが気になっているようだ。

 もしかして外に出たいのだろうか。だが、ペットというのはこういう時に外に出しても、大体はすぐに部屋に戻りたくなるのである。つまり、ここは心を鬼にして無視だ、無視無視。


「……ちょっと、外からも音が聞こえるわよ。なんなの一体!」


 完全に目が覚めてしまったルリカが声を上げる。確かに、ガサゴソと何かが動いているようだ。


 ……なるほど、野生生物にシルバが反応したってわけだな。やれやれ、人間にとってははた迷惑な話だ。

 まあ、外に出たくないし放置が一番だな。そう思って再び寝ることにする。


「クマアアアッ!」


「うわあっ!? な、なんだ!」


 明りを再び消そうとした瞬間、突如大きな音が響いた。

 横穴を塞いでいた本棚が倒れ込み、そこに黒い影が浮かぶ。


「あ、あれは熊よっ!」


「分かってる!」


 外から聞こえてきた物音の正体、どうやらこの熊だったようだ。元々開いていた横穴とほぼ同じ大きさ、四つん這いの状態でも2メートルほどの巨体だ。

 何故熊が、なんて考えている暇はない。こちらを見つめる目、あれは間違いなく獣の目だ。


「早く銃を! シルバ、時間を稼いでくれ!」


 完全に寝るスタイルだったので、銃の入ったバッグは部屋の隅っこだ。武器を取り出す時間を稼ぐためにシルバに命令を下す。


「クウーン……」


 だが、シルバは命令に従わず部屋の隅っこに逃げ出してしまった。

 くそ、完全に怯えてやがる。尻尾を股に挟んでいる場合じゃないというのに。


 そうしている間に、熊は標的を決めたようだ。一番端のベッドで寝ているダリアにずしずしと近づいていく。……ていうかまだ目が覚めてないのかよ。

 仕方ない、時間稼ぎも退治も俺がすべてやるしかない。寝袋を適当に丸め、熊に目掛けて投げつける。


「クマアアアッ!」


 よし、こっちに注意をそらしたぞ。そしてすでに俺はバッグに右手を突っ込んでいる。

 俺が銃を取り出すと同時に、熊はこちらへと体を向け接近し始めていた。狭い部屋では数秒で接近されてしまうけど、引き金を引くには十分すぎる時間だ。


「こい、玄関マットにしてやるぜ!」


 ずんずんと床を軋ませながら近づく熊は、後ろ足だけで立ち上がった。このまま前に倒れ込みながら俺にベアナックルをお見舞いしようとしているらしい。

 俺は、接近する熊の額に向けてビュッと銃弾を発射した。


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