第26話 次なる街へ
「おっそーい! どこ行ってたのよ」
俺がダリアの両親と話を終え帰ってくると、ルリカも準備を済ませていたようだ。どちらかというと待たされていたのは俺だったはずだが、この異世界ではそんな常識は通用しない。
「ちょっとダリアの両親にご挨拶をな」
「はあ? なんであんたが行く必要あるのよ?」
「それは俺にもわからないと言っておこう」
「まあいいわ、そろそろ出発の時間よ。超高速移動車『バリスタ』のね」
「超高速……」
どうやら移動するための乗り物はバリスタというらしい。高速を名乗るからにはきっととんでもない速さに違いない。
出発場所はこの街を出たところにあるらしいので、早速向かう事にする。ここからは歩いて15分ってところか。
「ねえミナト、私良いこと考えたんだけど聞いてくれる?」
歩いている途中でルリカが俺の横に並び、同じ速さの歩みをしながら話しかけてくる。はっきり言って嫌な予感しかしない。
「本当に良いことなのかという疑問と、車の中でゆっくりと話せばいいんじゃないかという2つの思いがある」
「前者はイエスで後者はノーね。バリスタはほんの数分で目的地についてしまうわ。馬車の速さが『パカラパカラ』だとしたらバリスタは『ビュンッッッ!』って感じよ」
「なるほど」
どうやら話を聞くしかないようだな。俺は適当に相槌をつきつつ先を促す。
「これから行く街はここより大都市だからきっと"魔法技師"がいるわ」
「魔法技師?」
また新しいワードが飛び出したな。鑑定士の次は魔法技師。今回は地球人の俺にとって全くなじみのない言葉だ。
「そ。魔法技師ってのは魔法を直接操れる人の事よ。私たちが遺跡から手に入れた魔法道具も、元はと言えば過去の魔法技師が作ったものなわけ」
確かに魔法道具はどれも人々が使う道具を模したものが多い。自然発生したものではなく誰かが作ったものだったという事か。よく考えれば当たり前なんだが、今聞いて初めて製作者の存在に気付いたのだった。
「それで、その魔法技師がどうしたんだ?」
「もう、にぶちんね。解除の魔法道具は探すんじゃなくて、魔法技師に頼んで作って貰おうって算段よ!」
「おお、賢いな……!」
なんてこった、本当に良い話だぞ。まさかこいつ、ルリカの偽物か?
「ふふん、恐れ入ったかしら? これからは天才美少女ルリカちゃんと呼んでくれてもいいわよ?」
「……それは難しいかと思われます」
ルリカがどや顔をしていると、それまで静かにしていたダリアが会話に加わってくる。まったく喋らないせいで存在を忘れかけていたところだ。
「な、なにが難しいってのよ! 私が天才だと認められないわけ!?」
「そっちではありません、魔法技師の件です。彼らにはそれぞれ専門性があるものです。料理人と大工、両者とも職人と呼ばれますが同じ技術を持っているわけでは無いように」
「つまり、魔法技師と一言で言っても、希望の魔法道具が作れるかどうかは本人の能力次第って言う事か?」
「その通りです。他の魔法道具を解除する魔法など、そう簡単には見つからないかと。私も両親に聞いてみましたが、過去に見たことは無いようでした」
「……ふん! 別にないって決まったわけじゃないわよ!」
まあ、両者の言い分はわかったしどちらも間違っているわけじゃない。行くことは決定しているわけだし、地道に情報集めをしていこう。
「……! 見えてきたわ、バリスタ!」
「おお、あれは……ロケット?」
話しているといつの間にか目的地についていたようだ。
街の出口を示す門を抜けると、そこには……宇宙へ行くためのロケットをそのまま横倒しにしたような形状のものが待ち構えていた。
サイズ的には日本を走る電車1両分ぐらいだろうか。あまり人は乗せることはできなさそうだ。
「これに乗ればいいのか?」
「そうよ。あと10分ほどで出発のはずよ、早く乗り込みましょう」
結構ぎりぎりだったな。駆け込み乗車は危険なので早く乗ってしまおうか。
駅のホームのようなところには人が立っている。彼が車掌的な立場の人だろう。
「こんにちは、皆さま。ご乗車の方ですか? 料金は10万イェンとなっております」
……妙に高いな。電車における新幹線の立場と考えても恐ろしい金額。
まあどこの世界もタイムイズマネーってことか。幸い今は財布に余裕があるので冷静を装いお金を支払うことにする。
「ミナト様、申し訳ありません。今手持ちが……」
「いいよ、俺が払うから」
「あー、何よそれ! なんで私は自分のお金で、そっちはあんたのおごりなのよ!」
「……お前には宝石の売値を山分けしただろ」
俺がダリアの費用も払おうとすると、わがまま娘が声を上げる。
同じ状況ではあるが、そもそもルリカとダリアじゃ経緯が違う。扱いが変わって当然だろう。それに、鑑定通り500万で売れたルビーの金額も半分ずつにしている。自分で払え。
「奴隷差別よ! 不当な差別に私は断固抗議するわ!」
「……妥当だろ」
「あの、お客様……?」
「あー、わかったわかった! はい、3人分の金額30万イェン!」
まったく、何故乗り物に乗るだけでこんなに疲れなきゃいけないのか。
とにかく財布から金をだし、ようやくバリスタに乗り込むことができたのであった。