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第23話 奴隷ダリア

「どうだ、目が覚めたか?」


 コーヒー1杯で1時間しっかり時間を潰した俺は、改めてダリアの下を訪れていた。

 個室では無いいくつものベッドが並んだ部屋の隅で、彼女は顔をあげてオレたちを迎え入れる。


「あなた方は……」


「そう言えばちゃんと名乗ってなかったな。俺はミナト、こっちのかっこかわいい犬はシルバ、この女はルリカだ」


「なんで私の紹介がシルバの後なのよ」


 俺は簡単に名前を名乗ると、遺跡であったことの顛末を説明することにした。

 俺とルリカで蜘蛛を追い払い解毒をしたこと、男たちから奪われたものを取り返したこと、病院まで連れてきてやったこと……。

 俺たちのおかげという事を特に強調して伝えておいた。別に恩を売ろうなんて思ったわけでは無い。思ったわけでは無いがとりあえず強調はしておいたのだ。


「……そうですか。わざわざありがとうございました」


 彼女はあまり表情を変えずに頭を下げる。感情をあまり表に出さないタイプなのだろうか。ちゃんと俺の気持ちは伝わったのか。


「そうだ、あいつらから取り返したものを返さないとな。ほら、片眼鏡と宝石だ」


 俺はバッグからそれらを取り出し、ベッドの上に投げ渡す。


「確かに、この片眼鏡は私のです。ですが宝石は私のものではありません。遺跡の蜘蛛がいる階層で見つけた物ですよ」


「え、そうなの? つまり私たちが貰っても良いってことじゃない!」


 どんな理論かは不明だが、ルリカは嬉しそうに赤い宝石を奪い返した。まあ、俺たちにくだらないケンカを吹っ掛けた慰謝料ってことにしとくか。


「あのー、ミナトさん?」


「ん? ああ、どうしたんですか、シスター」


 俺はこの教会に勤めるシスターに声をかけられる。何か用事だろうか。


「彼女の容体は安定しました。ここは恵まれない者は誰でも受け入れる場所ではありますが、あまり占有されると……」


 どうやら、はよ退院しろという事らしい。確かに他のベッドはボロボロの服を着た老人や子供たちばかりだ。あまりベッド自体の空きもなさそうだし、素直に出るとするか。


「ありがとうございました、シスター。ではまたいつの日か」


「支払いの方は……」


「ぐっ! いえ、忘れていたわけじゃないんですが……。ちなみにおいくらほど?」


「35万イェンです」


 たっか。恵まれない者を受け入れるとは言ったが、タダで受け入れるとは言ってないってことかよ。

 俺は一旦ルリカに立て替えてもらい、場所を移すことにした。


*


「さてと。この辺で話の続きをしようか」


 俺たちは、朝時間を潰した場所とは別の店に入り、飲み物を飲みながら話の続きをすることにした。

 まずはダリアに現状を把握してもらうため、白紙の『封印のカード』を何枚か彼女に渡す。


「これは何でしょうか?」


「俺の持ってる魔法道具なんだが、弱った生き物を封印することが出来るんだ。その、毒で君が弱ってたから、一度このカードに君を封印したんだ。今君は俺の支配下って事になってる」


「……」


 結構重たい話をしたつもりだったんだが、彼女は表情を変えない。上手く伝わってないのだろうか。


「……俺の話、理解できてるかな?」


「はい、十分に。私はあなたの性奴隷という事ですよね」


「せい……!?」


 いやいや、何を言ってるんだこいつは。支配下イコール性奴隷って、俺はそこまで下半身と脳が直結しているつもりは無いんだが。


「ミナト、あんたってやつは……!」


「いやいや、誤解ですから。俺がそのつもりならお前を襲ってるから!」


「な……! あんた、私をそんな目で見てたの!? 変態! もう二度と同じベッドでは寝ないわよ!」


 くそ、墓穴を掘ったか。釈明のつもりが更にルリカにドン引きされてしまう。やめてくれ、俺は紳士だというのに。


「なるほど、性奴隷の務めはベッドで添い寝すること、と……」


「メモを取るな! ちゃんと別々のベッドで寝れるからご安心しろ!」


 まったく、ただのおとなしい女の子かと思ったらとんだ食わせ物だ。こいつらが大騒ぎするせいでどこか周囲の視線もこちらに向けられているような気がする。


「まったくもう、話が進まないから静かにしてろ」


「むぐっ! ぐぐぐ……」


 俺はルリカを一旦黙らせると話を続けることにする。唸りながらこちらを睨みつけるルリカを無視して、改めてダリアの方に向きを正す。


「まずはこのカードを鑑定してほしい。使い方は知ってるけど解除方法は知らないんだ。鑑定士なら道具の詳しい効果もわかるんだろ?」


「やってみましょう」


 彼女は片目をつぶり、片眼鏡越しにカードをじろじろと眺める。俺には何をやってるかわからないが、ひっくり返したり光にすかしたり、これでもかと眺め続けた。


 ……やがてふうっと一呼吸着くと、カードを俺の手元に返す。


「鑑定した結果、この魔法道具自体には解除方法は無いようですね」


「な、なんですってーっ!?」


 ダリアの言葉に、黙っていたルリカが声を上げる。俺の命令を貫通するとは何という意志の強さだ。


「そ、それじゃあ私は一生こいつの奴隷ってこと……!?」


「その通りです。性奴隷同士、これから仲良くやっていきましょう」


「嫌ぁーっ!」


 ルリカは頭を押さえて悲しみの声をあげている。まあ、やむを得ずカードに封印したダリアと違ってこいつは現行犯逮捕したわけだから解放するつもりは元から無い訳だが。


「ちょっと待ってくれ。さっき、この魔法道具自体には解除方法が無いって言ったよな? それはつまり、他に方法があるってことか?」


「……可能性ですが。魔法道具には"解除"の効果を持った物があると言います。例えるならば毒に対する解毒剤のようなものでしょうか」


「なるほどな。他の魔法道具に頼るってことか」


「はい、私も見たことはありませんが……」


 確かに彼女のいう事は一理あるな。"解除"の魔法道具、彼女の為にも探してみるとするか。


「仕方ないな。俺はダリアに無理やり命令するつもりはないから、このまま日常に戻ると良い」


「ミナト、全然私の時と態度が違くないかしら?」


 ……そりゃそうだろ。


 それはともかく、結論として俺はダリアに何も命令せず解放することにした。たとえ強制的に従わせる力があっても、命令さえしなければ何も変わりは無いはずだ。


 だが、ダリアは首を横に振る。


「それは難しいかもしれません。このカードには有効距離も設定されているようです。1000歩ほど離れると強制的にカードに戻ってしまいます」


「……! そうか、それは残念だな」


 1000歩がどれぐらいかわからんが、500メートルぐらいか? 多少誤差はあるかもしれないが、結構厳しい制限だ。

 つまりはある程度一緒に行動しなければならないってことか。彼女の命を救うためとはいえ、早まった事をしたかもしれない。


「僭越ながら卑しい奴隷の私からも質問よろしいですか?」


「卑しくも奴隷でもないけど、どうぞ」


「ミナト殿……いえ、御主人様と呼ぶべきでしょうか。見たところ冒険者のようですが、これからも旅を続けるつもりですか?」


「ミナトで良いよ。そうだな、これからか……」


 ダリアに質問されて、俺は腕組みして考える。

 今まではなんとなく生き残るために過ごしてきたが、よく考えれば目的というものが無いな。

 金を稼いでるのも安定した生活を手に入れるためだしな……。


「そんなの決まってるじゃない! 私たちは"解除"の魔法道具を見つけるために旅を続けるのよ! そして私たちを解放する! ……そうでしょ?」


「いや、お前は反省するまで開放しないが」


「な、何でよ!」


 俺はルリカに反論するが、まあ彼女の発言にも頷けるものはあるな。

 先の事ばかり考えてもしょうがない、まずは目の前にある問題を一つ一つ解決していかないとな。そのうちにこの異世界で俺がやりたいことも見つかるかもしれない。


「……まあ、そうだな。まずは魔法道具を見つけるために旅を続けよう。ダリア、悪いけどしばらく付き合ってくれるか?」


「はい。全力でご奉仕させていただきます、ミナト様」


 ……なんか微妙にずれてるような気がしないでもないが、俺はダリアも仲間に入れ旅を続けることにしたのだった。


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