第21話 許されざる者
「はーっはっは、馬鹿な女だぜっ! 金を払う為にわざわざ遺跡まで鑑定士を呼ぶわけねーだろうが!」
「ふひっ! さーすが兄貴っ! ろくでもねえ輩だっ!」
「こんな下衆な真似、オレじゃあ思いもつかねえよっ!」
「へっ、そう褒めるんじゃねえぜ」
ダリアを突き落した男たちは、階段を見下ろしながら下卑た笑いを浮かべていた。
男たちのリーダー、ボーゲスは手下の言葉に気をよくする。
「う……」
「おっとぉ、まだ息があったか。気絶していれば楽に逝けたのによ!」
男たちがそろそろ去ろうとした時に、階下からうめき声が上がる。最後の力を振り絞って、階段を這い上がろうとするダリアが上げた声であった。
下半身には蜘蛛が群がり、毒を受けたであろうことが見て取れる。
「折角だしこいつも貰っていくか。この片眼鏡は量産品だが買うと20万は下らねえからな!」
「うひゃーっ! 兄貴、息をするように罪を重ねるなんて! 最高だよアンタっ!」
「へっへっへ、手前らもヨイショが上手くなりやがって。よし、おさらばするとするか!」
ボーゲスはダリアの右目から片眼鏡を奪い取ると、手下と共に遺跡の入り口の方へと戻り始めた。
だが、部下の1人が立ち止まり思い出したように言葉を口にする。
「そー言えば、さっきのガキどもはどうしたんすかね?」
「へっ、どうせ蜘蛛の階層を目にして、諦めて逃げ帰ったんだろうぜ! どうせならあいつらからも魔法道具を奪っておきたかったがな。分厚い扉を破った魔法だ、それなりに使えると思ったんだがな」
「さっさと逃げ帰るほど根性なしとは予想外でしたっすね!」
「俺たちが絡んでも抵抗しない臆病者だったからな、当然っちゃ当然よ! はーっはっはっ!」
男たちは高笑いをしながら、ミナトが破った大きな扉をくぐり抜けていく。
その一部始終を陰で見ていたものが1人……いや、1匹いたことには全く気付く様子もなかった。
*
2つの宝箱から魔法道具(?)を手に入れることが出来た俺たちは、遺跡を脱出するために並んで歩いていた。
「この壺、もしかして魔法道具じゃなくて芋虫入れだったのかしら? なんかちょうどいいサイズだし」
「そんなはずないだろ、わざわざ隠してあったんだし。高価なのは間違いない……はず」
俺たちが手に入れたのは、デカい芋虫と、頭が入るくらいの壺。ルリカには価値があると言ってはいるものの、見た目には全く分からない。
「帰り際にさっきの女がいたら鑑定してもらいましょうよ! 早く使い方知りたいし」
「……面倒だな。主に他の男たちが」
はやる気持ちはわかるが、あの男たちの仲間だしな。価値があるとわかったら変ないちゃもんを付けられかねない。
買ったゲームの説明書を帰り道で読むようなはしたない真似は止めて、ちゃんと帰ってから腕利きの鑑定士に見てもらうとしよう。
……しばらく歩いていると、やっと隠し扉の場所までたどり着いた。
オレが開けると同時に、扉の反対側からざらざらと土の落ちる音がした。シルバが言いつけ通り、扉を土で隠してくれていたようだ。
「わん!」
「おお、よしよし。ちゃんと言う事聞けて偉いぞ。帰ったらいい肉をやろう」
「わんわんわん!」
「……?」
俺は足元へ駆け寄ってきた来たシルバを撫でてやる。最初はいつものようにじゃれついてきたのかと思ったが、なんだか様子がおかしいように感じる。
いつもなら俺の言葉に反応して、尻尾を千切れんばかりに振るはずなのだが。
「どうした、何かあったのか?」
「わん!」
……くそ、何言ってるかわからん。この世界にバウリンガルの導入が待たれるな。
「ねえ見て、足跡が増えてるわ。地上の方に向かってるし、もうあいつらも帰ったのかも」
「……なるほど。という事は隠し扉にも気付かれなかったか」
ルリカの言う通り、出口に向かう足跡が新しくできている。蜘蛛のたくさんいる階層で何かを見つけたのか、それとも諦めて帰ったのか……。どちらにせよ顔を合わせなくて済んだのはラッキーだな。
「……わんっ!」
「あ痛ってーっ! し、シルバ、ケツに……!」
出口へ向かう足跡を目で追っていると、唐突にシルバにお尻を噛まれてしまった。そのまま下への階段の方へ、ぐいぐいと引っ張られていく。
「だ、大丈夫……?」
「くうう、これは間違いなく血が出てるぞ。シルバ、いくらお前でも……」
親父にも噛まれたことのないお尻をペットに傷つけられるなんて。これは温厚な俺でも家族会議が必要だな。
「……!? ミナト、階段の下に誰かいるわ!」
「何だと……! だ、ダリア!」
ルリカの声で階段に目を向けると、そこには倒れた先ほどの少女ダリアがいた。うつ伏せに倒れ込み、足には蜘蛛がうじゃうじゃとたかっている。
「うわああっ! まずい、早く助けないと!」
俺は土を蹴り飛ばして蜘蛛を追い払うと、引きずるようにして上まで体を持ち上げる。胸元に耳を近づけるが、まだわずかに息があるな。
「……? 眼鏡がないな」
気付けば彼女は特徴的な片眼鏡をしていない。チェーンが付いていたし、そう簡単には落とさないはずだが。
いや、考えなくても答えはわかる。どう見てもこれは奴らの仕業だ。
「ミナト、これってどういう事!? この子、あいつらの仲間じゃなかったの!?」
「……さあな。何があったかわからない」
俺はカバンの中からポーションを取り出す。彼女の衰弱が毒によるものだとしたら、状態異常を治す『女神の滴』が有効なはずだ。
「ルリカ、『女神の滴』を置いておくからここを頼んだぞ」
「え? ちょっと、どこ行くのよ!」
「あいつらを追いかける!」
俺はバッグから銃とカメラを取り出すと、男たちを追って出口へと走り出した。
*
「……! いたぞ」
地上へと上る階段が見えたところで、ちょうどそこに足をかけ始めた男たちの姿が見えた。
もしかしたら既にもぬけの殻の可能性もあったが、俺の足でも追いつくことが出来た。どうやらさっきの惨状が起きたのは俺たちが隠し扉から出るほんのちょっと前だったらしい。
「止まれ、くそ野郎ども」
「あぁーん?」
俺が威風堂々とした声(当社比)をかけると、3人組は全く同じ速度で振り返る。女の子を置いていくというのにこの様子、やっぱり見捨てたという事で間違いないだろう。
「……おやおや、誰かと思えばさっきのガキじゃねえか。どうした、彼女に振られて慰めて貰いに来たのか?」
「ひゃーっはっは!」
男たちは最初に俺たちに絡んできたときと同じように舐め切った態度だ。こっちは既に臨戦態勢だという事にも気づいていない様だ。
「……お前ら、女の子を裏切ったのか?」
「おっと、あいつを見つけたのか? 現地で100万払うから遺跡探索について来い言っていったらホイホイついてきた世間知らずだからよ、ちょーっとばかし社会の厳しさを教えてやっただけよ。ま、俺も反省してるんだぜ? ちょっと授業料を取り過ぎたかもってな! はっはっはぁ!」
「ひゃーっはっは!」
……やれやれ。俺はただ、平和に長生きだけできればよかったんだがな。だから異世界では他人の争いごとにもできるだけ関わらないようにしようと思ったが。
それでも、裏切りやだまし討ちだけは見逃すわけにはいけないよな。
俺は『スライム銃』を男たちに向けて構えた。




