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第20話 裏切り

 俺たちはついに念願のものを見つけることが出来た。


「みっみみ、ミナト! 早く、早く鍵開けて! あ、ちょっと待った! 罠がかかってるかも……そーっと、そーっとよ!」


「……動揺しすぎだろ」


「し、仕方ないでしょ! お宝なんて初めて見つけたんだから!」


 あれ、おかしいな。ルリカはトレジャーハンターを名乗っていた気がするんだが。

 それはそれとして、早速宝箱を開けてみよう。立派な錠前が付いているが俺の『スライム銃』の前には無力だな。


「ほいほいっと」


 2つの宝箱に向けて銃を放ち、錠前を溶かす。金色の錠前がどろりと溶け落ちてやや勿体なくも感じるな。


「よし、開いたぞ。弾を温存しといて良かったな」


「……2発で済んだじゃない。あの3人組を撃っても同じだったわよ」


「それは結果論だ。さあ、箱を開けてみようぜ」


「よし、じゃあちっちゃい方から開けるわよ! こういう場合は小さい方が本命って相場は決まってるのよねー」


 彼女はそう言って小さい宝箱に近付く。宝を見つけたことないくせにその発言の根拠はどこからきているのだろうか。


 ぎいっと音をたてながら箱を開けると、2人で中を覗き込む。暗くて見にくいが黒い物体が1つだけ入っていた。

 形状はサツマイモみたいな感じだ。サイズも片手で持てるぐらい。


「何かしら、これ……って、きゃああっ!?」


 ルリカは手の平でそれを持った瞬間、悲鳴を上げて投げ飛ばしてしまった。土の床にそれがべちょっと落ちてしまう。


「どうした、ルリカ! まさか罠か!?」


「いや、何かヌルってした……」


「ぬる……? なんだこれ、芋虫?」


 彼女が投げ飛ばしたそれを拾うと、まさに芋虫としか形容できない物体がそこにあった。形だけでなく触った感じもぶよぶよだ。

 そして確かになんだかぬちょっとしている。粘液を出しているのだろうか。


「嫌あああぁぁぁっ! 気色悪いっ! あんたなんで平気なのよっ!? グロいの苦手とか言ってたじゃない!」


「いや、俺が苦手なのはグロの中でもゴア系だし。虫系は平気って言うか」


 グロテスクにも種類というものがある。一緒にされてもらっては困るな。


 とりあえずうるさいルリカは放置して、俺はその芋虫をまじまじと見つめる。まさにキャタピーといった見た目で、よく見るともぞもぞと動いている。


「ルリカ、魔法道具って生きてるモノもあるのか? なんか動いてるんだけど、どうやって使うんだろうな?」


「無理無理無理無理っ! 近づけないでーっ! それ以上近付いたら、私はこのナイフを首に突き立てるわよ!」


 せっかく待望のものだというのにイメージと違ったらこれですよ。世の中、きれいな物だけが価値のある物ではないんだが。

 仕方ない、折角鑑定士の街があるのだからプロに鑑定してもらうとするか。


「わかった、じゃあこいつはバッグに入れとくよ。もう1つの大きい宝箱も確認しよう」


「ミナト、お願い……。私は精神を削られて動けないわ」


 やれやれ、さっきのテンションはどこへやら。俺は大きい方の箱もくぱぁと開ける。

 そっちに入っていたのは、どう見ても壺だった。


「……こっちは普通だな。壺が1つだけだ」


「壺? どんなの?」


 俺が取り出した壺は、ちょうど人の頭ぐらいのサイズで両側に取っ手が付いている。材質はわからないが金属製だろうか?

 シンプルな見た目で柄とかは入っていない。わざわざ大事に取ってあるのだから価値が無いとは思えないが、見た目ははっきり言ってしょぼいな。


「……これも鑑定しないとわからないわね。でもきっと価値があるわ!」


 やや希望的観測な気もするが、俺も苦労して手に入れた物が無価値だとは思いたくないな。


「よし、じゃあ地上に戻ろうか。街に帰って早く鑑定してもらおう」


「そうね。どうせなら壺の中にさっきの虫を入れておきましょう。ぬるぬるして気持ち悪いし」


 壺の中にポイっと虫を投げ込むと、壺をルリカに渡す。さあ、遺跡を出るとしよう。


*


 ところ変わって、荒くれ者3人とダリアはというと。


「兄貴ー、さっきから視界全てが蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛ばっかりですぜ! 全然前が見えねえよー」


「うるせえ、すっとこどっこい! そんなこたあ見りゃわかんだよ! 脱出したければとっととお宝を探しやがれってんだ!」


 まるで蜘蛛のプールというべき地下を、水のベールを纏いながら進んでいた。その薄いベールは蜘蛛を完全にシャットアウトし、全くの無傷で探索を続けている。


「おいダリア! お前もちゃんと探せよ!」


「なぜ? 私は鑑定士なのですが」


「ちっ、めんどくせえ女だぜ。……痛って! なんか蹴っちまったぞっ!」


 男たちのボス、ボーゲスが何かに躓き顔をしかめる。足が当たったのはよく見ると小さな箱であった。


「あ、兄貴、宝箱ですぜ!」


「馬鹿言うな、こりゃ装飾品とかを入れる木箱だな」


 ボーゲスは蜘蛛を手で追い払い箱を持ち上げると、鍵は掛かっていないその箱を雑に開ける。


「……! 兄貴、宝石ですぜ!」


「さっきからいちいち実況すんじゃねえ! 馬鹿でも宝石だって見りゃわかるだろうが! 肝心なのは、魔法道具かどうか、だ」


 ボーゲスはその宝石を取り出す。手の平に乗せると少しはみ出すほどの大きさで、ただの宝石だとしても高価であることは間違いない。


「ダリア、鑑定してみろ」


「はい。……これは間違いなく魔法道具ですね」


 宝石を受け取って数十秒後、ダリアは鑑定を終える。彼女の発言に男たちは色めき立った。


「本当に魔法道具か!? どんな効果だ、早く言えっ!」


「この魔法道具の名は『サンライトルビー』。光に当てておくとそれを吸収し、暗闇に持っていくと貯めていた光を放ち輝くようです。……今はずっと地下にあったので光っていませんが」


「……なんだそりゃ、ただのランタン替わりじゃねえか。ちっ、やっぱりなかなか役に立つものは見つからねえな」


「でも価値は凄そうですぜ! 馬鹿な貴族どもに売れば高値で買ってくれるかもしれませんぜ!」


「このボーゲス様は金じゃ満足できねえが、こんなくたびれた遺跡じゃこれぐらいが妥当なとこか。てめえら、とっとと帰るぜ!」


 男たちはその宝石である程度納得したようだ。再び蜘蛛を掻き分けながら上への階段へ向かっていく。


「ふうーっ、やっと帰ってこれたぜ! もう蜘蛛を掻き分けて歩くのはこりごりだ」


「全くですぜ! いくら兄貴の『アクアヴェールポット』が防いでくれるからって、目の前にうじゃうじゃいると気分悪い」


「水じゃ視界は防げねえからな。よし、水のヴェールを解除するぞ」


 ボーゲスがそう言って小さなポットを一撫ですると、彼らを覆っていた水が全てそれに吸い込まれていく。


「よし、今日の内に街に帰っちまうとするか!」


「……お待ちください。先に報酬の支払いをお願いします。現地ですぐに100万払うというからわざわざここに赴いたのですが」


 もと来た道を帰り始めた男たちの後ろからダリアが声をかける。ボーゲスは立ち止まると、ゆっくりとダリアの方を振り向いた。


「おっとっと、悪い悪いダリアお嬢ちゃん。忘れていたわけじゃねーんだ、ただちょっと今、手持ちが無くてよー」


「……! それでは、約束が――」


「だからよー、こうすることにしたぜ」


「え?」


 ボーゲスはそう言うと、ダリアを階段の下に突き飛ばしたのだった。


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