第2話 異世界到着
「……ここが異世界か」
扉を潜り抜けた俺は、いつの間にか草原の中心に立っていた。
後ろを振り返るが、通ってきたはずの扉は無い。ここからは本当に自分1人で頑張らないといけないという事か。
「まずは貰ったものを確認したいけど……。先に身を隠すところを探すか」
草原は周囲に木などの遮蔽物は無く、俺の姿は丸見えだ。ピクニックじゃあるまいしこんな草原の真ん中で荷物を広げるのも危険だ。
遠くの方を見渡すと、小さな岩場が見えた。まずはあそこの物陰でゆっくり荷物の確認だ。
「……よし、中身を確認しよう」
岩陰にしっかり身を隠し、バッグを地面に下ろす。ガシャガシャと音がし、中身が1つや2つでなさそうな雰囲気だ。
「まずは……カード?」
バッグに手を突っ込み最初に触れたものを取り出すと、小さめの手帳のようなものが出てきた。
中身はバインダーのようになっており、カードがいくつも保存されている。……だが、カードは白紙でどういう風に使うのか見当がつかない。
「お、説明書がある。……なになに、『封印のカード』は弱った敵を封じ込めることのできる魔法道具。封印された者は貴方の従順な手下となるだろう……か」
つまり、このカードはモン〇ターボールという事か。モンスター……がいるかどうかはわからないけど、カードは数十枚あるし、戦闘要員を捕まえられたら便利そうだ。
……だけど、肝心の弱らせるための武器が無いとな。次の道具を確認してみるか。
「お、この感触は……」
再びバッグに腕を突っ込むと、今度は黒い拳銃が出てきた。銃には丸いシリンダーが付いており、結構ずっしりとしている。
シリンダーを手でくるくる回してみるが銃弾のようなものは見当たらず、代わりにぶよぶよした白い水のようなものが装填されていた。
「これにも説明書があるな。『スライム銃』は命中した対象をスライム状態に変化させる魔法銃。魔法の弾は6発あり、撃ち尽くしても1時間に1つずつ再装填される……」
自動で弾が補充されるなんて、なんだか魔法らしくなってきたな。スライム状態というのがよくわからないが、見た目は拳銃だし護身用に手元に持っておこう。
「これでやっと2つか。この感じだとまだ結構入ってそうだな……」
バッグはまだまだずっしりとしており、揺するとまだガシャガシャと音をたてている。
今の時刻はわからないが、日が暮れる前に移動して村かどこか安全な場所に行った方が良いかもな。宿なんか借りて、夜にゆっくりチェックしよう。
「ちょっと、そこのあんた!」
「え? 俺か?」
とりあえず銃を腰のベルトに挟み、バッグを背負い直したところで女の声が聞こえてきた。
振り向くと気の強そうな女の子がこちらを睨みつけていた。髪は金髪をサイドテールに束ね、目はきれいな碧色。間違いなく日本人じゃないな。
何はともあれ、異世界での第一村人発見といったところか。……いや、村人と決めつけるのはまだ早い、もしかしたら都会出身のシティガールの可能性も捨てきれないぞ。
……そんなことはどうでもいい、折角なので少し話をしてみたいところだな。
「そう、そこのあんたよ! ここでうずくまって何をしてたの!」
「ちょっと荷物の確認を。それよりも、もし良かったら少し話を……」
「……あんた、さては私の探していたお宝を見つけたんじゃないでしょうね!? 他の奴は誤魔化せても、このトレジャーハンター・ルリカの目は誤魔化せないわよ!」
なるほど、名前はルリカというのか。だがこの女は何か勘違いしていそうだ。こっちは歩きスマフォはしても盗みや遺失物横領に手を染めたことは無いのだから。
「何言っているかわからないけど、俺は別に何も取ってないし拾ってもいない」
彼女は俺の返事を聞き、真偽を確かめるかのようにじろじろと上から下まで眺めてくる。
「……ふん、まあいいわ。じゃあそのバッグの中身を全部おいていきなさい、そうしたら見逃してやるわ」
「馬鹿かお前は。知らない奴に荷物を渡すわけないだろ」
しまった、余りに突拍子のない発言につい口が悪くなってしまった。俺の言葉を聞き、ルリカは怒りを露わにする。
「な、馬鹿ですって……! そっちがその気なら、力づくで奪わせてもらうわ!」
彼女はそう言って、腰に下げていた剣を抜いた。すらりとした刀身は1mはありそうだ。
「おい待て、まさかその剣で俺を切るつもりか!」
「それ以外に何があると思ってんの! 覚悟しなさい、私の『てつの剣』の錆にしてあげるわ!」
彼女はそう言って、最初の村とかで売ってそうな武器を振り上げこちらに突進してくる。
くそ、やるしかないのか。俺はさっきベルトに挟んだばかりの銃を取り出し、彼女を狙う。
「喰らえ、『スライム銃』!」
俺は彼女のボディを狙って引き金を引く。その引き金の動きに合わせ、銃はブチュッと白い液体を発射した。……ちょっと予想とは違った発砲ではあったが、液体は狙い通り彼女の胸元へ飛んでいく。
「ふん、こんな水鉄砲で何しようって言うの!」
彼女は剣でその液体を振り払う。銃弾は粘着性があるらしく、剣の一閃で全てべちゃり、と叩き落されてしまった。
「くそ、この銃使えねぇ!」
「悪いわね、喰らいなさい!」
俺がショックを受けている間にも距離を詰められており、彼女は剣を振り上げ今にも俺の脳天に叩きつけようとしている瞬間だ。
異世界に到着して数時間、まさかこんな形で終わってしまうなんて……!
「……?」
「え……あ、あれ?」
目をつぶったオレの頭の上でブンと風を切る音がし、完全に死んだと思ったが何もダメージが無い。
彼女も予想外だったようで、勢い余って体勢を崩している。その隙にかさかさと地面を這いずり距離を取る。
「わ、私の剣が……! 刀身が無いわ!?」
「剣が、ドロドロになって地面に落ちている! これが『スライム銃』の力か!?」
彼女の手には剣の柄の部分しかなく、さっきまでそこにあった刀身はドロドロになって足元に落ちていた。鉄だったとは思えないほどに形を変え、まるで子供が落としたアイスクリームのようだ。
「隙あり、今度こそ『スライム銃』を食らえ!」
俺はこの隙を見逃さず、再び銃で彼女を狙う。今度は防ぐ手立てもなく、彼女の顔に練乳のように白い液体がヒットした。
「きゃあっ! な、なにこれ!? 気持ち悪いっ!」
彼女は地面に尻もちをつき、必死に顔の液体を拭おうとしている。俺の予想が正しければこの後……。
「……! きゃああーーっ!? か、体が……!」
少し眺めていると、彼女も剣のようにドロドロと溶け始め、まさしくスライム状になっていった。武器を持つこともできないようで、手から剣の柄がからんと落ちる。
「こ、このままだと死ぬんじゃあないだろうな?」
彼女は次第に悲鳴もなくなり、人間の形を留めなくなってきていた。ややグロくなってきたので、どうにかしなければ……。
「カードを使ってみるか……」
俺は先ほど確認したもう1つの魔法道具の存在を思い出す。弱らせた相手を封印できるカード。彼女はどう見ても弱っているので、もしかしたら使えるかもしれない。
「『封印のカード』、発動!」
カードを1枚取り出し、彼女に向けて掲げてみる。すると、どろどろの彼女は服と一緒にカードに吸い込まれていった。
カードを見ると、そこには彼女の姿が描かれている。スライム状態ではなく元気だった元の姿だ。
そしてカードの一番上には、『トレジャーハンター・ルリカ』と名前が刻まれている。
……どうやらこれはモンスター〇ールではなく遊☆戯☆王〇ードだったようだ。そう言えばなんか漫画版で人を封印できるカードがあったような気がする。
何はともあれ、まずは一難去ったようだ。地獄行きにならなくて良かった良かった。
※モン〇ターボール…『ポケットモ〇スター』に登場する、モンスターを捕まえることのできる道具。手のひらサイズでありながら巨大なモンスターにも対応した、質量保存の法則を完全無視した一品。
※遊☆戯☆王〇ード…日本で圧倒的人気を誇るカードゲーム。コレクション要素とデュエル要素が混ぜ合わさり、その中毒性で多くの少年を狂わせた。