第18話 損得勘定
遅れてやってきた荒くれ者風の男たちは、やはりというか荒らすように周囲を探索し始めた。
足元に散らばる石の破片や木くずなどを蹴り飛ばすようにして周囲を探索し始める。
「ちっ、しけてやがんな。昨日の奴らは何も持ってなかったから金目のものが見つかると思ったんだがよ」
「兄貴、きっと隠してあるんですぜ。ハンマーを持って来やしたから辺り一帯粉々にしちまえばなんか見つかるかもしれねえっすよ」
腰巾着の1人がそう言って、壁や床を殴り始める。探索というより墓荒らしや破壊活動の方が表現としては正しいかもしれない。
「……ミナト、どうする?」
「ほっとけ、弾が勿体ない」
面倒なのでそいつらから離れるようにして奥へ奥へと探索を続ける。しかし、なかなか目ぼしいは見つからないな。
「ちょっとそこの2人組さんよ~。なんかいいものは見つかったかい?」
「良かったらおっちゃんたちにも見せてくれよ~」
……はあ、嫌な予感が当たったな。探索にも飽きたのか腰巾着共が絡んできた。きっとリーダー風の男の差し金だろう。
ルリカは目だけで「どうするの?」と聞いてきたが、小さく首を振って無視を決め込む。男たちの方には一切視線を向けず、壁や床に目をやり続ける。
「おいおい、無視なんてマナーがなってねーんじゃねーのか?」
「そうだぜ~、挨拶をしたら挨拶を返すってのが冒険者のマナーだろ~?」
「ほら、おっちゃんがマナーを教えてやるぜ」
「ちょ、ちょっと! 何触ってんのよっ!」
男たちはついに言葉だけでなく直接こちらへと干渉してきた。ルリカの腕を取り引き寄せようとする。
仕方ない、弾が勿体ないがここまでされては無視も出来ないな。
「おい、手を放せ」
「おっとっと、冗談だぜ。まったく最近のガキは冗談が通じないぜ~」
「こんなのスキンシップだ、いちいち目くじら立てんなっつの」
俺が近寄ると男はすぐに手を放し距離を取る。あくまで嫌がらせだけのつもりのようだ。もしかしたら手を先に出させて因縁をつけるつもりなのかもしれないな。
そのまま男たちはニヤニヤしながら帰っていった。こういうのが一番めんどくさいんだよな。
「ちっ、何なのよあいつら。ミナト、何とかしてよ」
「まあいいじゃないか、帰っていったし。探索を続けようぜ」
「こっちは腕を引っ張られてんのよ! もう、イライラするわ!」
ルリカは足音荒くしながらも、再び探索を始める。何かお宝を見つけたらそれでご機嫌を取らないとな。
「わん、わん!」
「ん、どうした?」
俺も探索を再開しようとしたところで、シルバが何かを咥えながら走り寄ってきた。
「これは棒か? 何か変な模様が入っているけど」
シルバが咥えてきたのは、リレーのバトン程の棒状のものであった。茶色い芯に紐のようなものが巻き付けられており、どこか猫の爪研ぎっぽくも見える。
わざわざ持ってきたので何か特別っぽく見えるが。残念ながら何に使うかわからないな。
「なになに、良いもの見つけたの? ちょっと私にも見せてよ」
ルリカは俺から受け取ったそれを松明の日にかざして観察する。上から横からぐるぐる回しながら見ているが、ルリカにも何かわかってないようだな。
「うーん、魔法道具なのかしら? それともただの飾り? 価値がありそうには見えないけど……」
「一応持って帰ってみるか。折角シルバが見つけたんだし、大した重さでもないしな」
「そうね、街で鑑定士に見せましょうか」
俺はルリカからそれを受け取ろうとしたとき……突如、横から手が伸びてきて、奪い取っていった。
「なんだこりゃぁ? 魔法道具って聞こえたから来てみれば、ゴミにしか見えねぇな!」
「な……!? あんた、何取ってんのよ! 返しなさい!」
どうやらまたさっきの奴らがちょっかいを出してきたようだ。今度はリーダー格の男がいつの間にか近づいており、謎の棒をじろじろと眺めている。
「おいダリア! ようやく鑑定士の初仕事だ、これを調べな!」
「はい、ボーゲス殿」
男はルリカを無視して、少女に俺たちの拾い物を投げ渡す。少女の名前はダリアで、このカス野郎の名前はボーゲスと言うらしい。
少女は受け取ったそれを片眼鏡越しにじっくりと見る。さっき言っていたが、まさかこの少女が本当に鑑定士なのか。
「……これは間違いなく魔法道具ですね」
「な、何だとぉ! へっ、期待してなかったが本当に見つかるとはな」
ダリアの言葉に俺も驚く。俺には全くわからなかったのに。一体何の魔法道具なんだろうか。
「あんたたち、いい加減にしないとそろそろ……!」
「この魔法道具の名称は『かじりん棒』。噛むと永遠に味が染み出してくる棒のようです。価値は……1500イェンといったところでしょうか」
「あん? なんだ、ゴミじゃねーか」
……どうやら大した魔法道具ではなかったようだ。武器とかなら面白かったんだが。
「ちなみに味は塩ササミのようです」
「聞いてねーよ! こんなゴミ、いらねーな」
男はそう言って、こちらを見向きもせずにそれを投げ捨てた。俺はそれを無言で拾う。
「ちょっとミナト! あれだけされて悔しくないの!? とっとと銃をぶっ放してよ!」
「何言ってんだ、むしろラッキーじゃないか。タダで魔法道具の効果が分かったし、ちょっと得したな」
「損得じゃないの、これはプライドの問題よ! ……ふん、もういいわよ!」
ルリカは完全に怒りが有頂天のようだ。まったく感情的な奴だ。
あいつらを撃ったところで1イェンの得にもならないが、こうやって魔法道具を拾えばちゃんと金になる。以前も言ったはずだが、やはり損得で動くべきなのだ。
「シルバ、よくやったな。こいつはお前にあげよう」
俺は『かじりん棒』をシルバに投げ渡すと、嬉しそうに尻尾を振りながらガジガジし始めた。
*
「ふう、一通り目につくところは探したつもりだけど、良さげなものはもう無さそうね」
「この部屋はそうだな。一番奥にあった分厚い扉をそろそろ開けてみようか」
俺たちは荒くれ者たちを避けつつ入り口からローラー作戦でチェックしたわけだが、結果的に『かじりん棒』以外のものは見つからなかった。
だが、この遺跡は一番奥に分厚い鉄の扉があった。最初から気付いてはいたが荒くれ者たちが早い段階で開けようと試行錯誤していたので近寄らないようにしていたのだ。
探索から大分時間が経っており恐らくお昼前になっただろう。今は休憩の為か荒くれ者たちも離れているので、調べる絶好のチャンスだ。
「まったく、なんで私たちの方がこそこそしなきゃいけないのかしら!?」
「さっきから愚痴ばっかだぞ。この扉をとっとと開けて中を先に調査すれば我慢した甲斐もあったってもんだ」
俺とルリカは大きな扉の前に到着していた。まだ開けられたような雰囲気は無い。
「喰らえ、『スライム銃』!」
俺は扉に向かって銃を放つ。以前、複合素材でできた扉は開けられなかったが、鉄の一枚扉ならしっかり魔法が浸食していくようだ。
命中した位置から波紋のようにドロドロと柔らかくなっていき、最後には全てべしゃりと地面にとろけ落ちた。
「こういう時の為に銃を温存してたんだ。我慢しててよかっただろ?」
「一発で済んだじゃない。奴ら3人をドロドロにしても弾は足りたわよ」
「……中でも使うかもしれないだろ?」
俺はルリカをなだめつつ、溶けた扉を踏まないように気を付けながら奥へと進むことにした。