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第17話 面倒な奴ら

「ふう、やっとテントが完成したな」


「もう、時間かかり過ぎよ! 日が暮れ始めちゃったじゃない!」


 まさかテント設営がこんなに重労働だなんてな。キャンプなんて行かないから初めて知ったよ。

 仕方ないので今日はゆっくり休んで明日の朝一から探索開始だな。


「何だあ!? 俺たちのテントがボロボロだ!」


「畜生、誰がこんなことを!」


「……探索をしてた奴らが帰ってきたみたいね」


 明かりを取るためたき火の準備をしていると、少し離れたところで声がする。さっきの態度の悪い奴らの行為に気付き声を荒げているようだ。


「どうする? 野次馬する? 止めに行く?」


「やめとこう、興味ない」


 あの態度の悪い男どもは気に入らないが、それは置いておいて勝手に争ってくれるなら俺にとっては得な話だ。単純にライバルが弱るだけの話だしな。

 行動する理由は善か悪かじゃない、損か得かだ。俺はしばらく金の亡者になるぞ。他人の争いなんてノータッチだ。


「そうね、じゃあほっといて食事の準備でもしましょ。ほらシルバ~、美味しそうなソーセージよー」


「……」


「なんで無視するのよっ!」


 まだ火の通っていないソーセージをシルバに見せびらかすが、そっぽを向かれている。

 それも当然、そのソーセージは俺のバッグから取り出したものだからな。散歩だって俺がいつも連れて行ってるし、そういう日々の積み重ねが絆を生むってことだな。


「ペットと言い争いしてないで早く火を通そう。もう準備できてるぞ」


 俺はルリカのソーセージを奪って火にかけたフライパンに投入する。あとはパンとベーコンも持ってきているが、3日に分けて食べる必要があるので温存しておこう。


「それにしても、ちょっと武器が不安だよな。銃とカメラしかないしな」


 火が通るまでの間に、魔法道具を再確認する。『スライム銃』は6発、『メデューサ印の撮像機』は1発だ。

 そしてポーションは『女神の滴』が2つと、何に使うかわからない『ロリータ・ポーション』……。


 ……ちょっと不安だな。せめてもう1つぐらい武器が欲しい。ポーションだって心許ない数だ。


「一応、ナイフはあるけどね。私も包帯ぐらいなら持ってるし」


「まあ悩んでも仕方ないな。使うべき時を見極めて節約しながら使おう」


 ちょうどソーセージもいい感じになってきたところで話を切り上げ、明日に備えて英気を養うことにした。


*


 翌朝。俺はルリカの無駄に元気な声でたたき起こされた。


「グッドモーニンッ! ミナト、起きなさい! 早起きして他の奴らを出し抜くわよ!」


「……今何時ぐらいだ?」


「さあ? 5時ぐらいじゃない?」


 ……早すぎるだろ。おじいちゃんじゃないんだから。

 無視して二度寝しようとするが、肩をがくがくと揺らし妨害してくる。


「ほら、早く起きてってば! 朝食も準備してやったんだから!」


 確かにかすかにパンが焼けるような匂いがする。畜生、それはベーコンを挟んで食べようと思っていたのに。


「せめてあと3時間……」


「もう、寝ぼけたこと言ってないで! あいつらに負けてもいいわけ!?」


「……!」


 そうだ、俺は奴らよりも早くお宝を見つけて金を稼がなければいけないんだった。武器の少ない俺たちは、作戦で勝たなければならない。

 気合を入れて寝袋からがばっと飛び出す。寝る時間が何だ、早起きこそ3文の得なのだ。


「ルリカ、目が覚めたよ。……2つの意味でな」


「ふん、いいってこと。さあ早く食べて食べて、私はもう食べ終わってるから。あ、準備は私がしたんだから片付けはお願いね」


 ……やれやれ、所詮は昔のことわざか。そう簡単に3文の得とはいかないようだな。


*


「貴重品よし、魔法道具の準備よし! 俺は準備できたぞ」


「ちょっと待って、まだ髪型が上手く決まらないの」


「……なんで俺より早く起きたのに準備が俺より遅いんだよ」


「うるさいわね、美少女にはいろいろあるのよ! それぐらいわかるでしょ!?」


 なぜか俺が悪い風になってしまったが、気を取り直して出発だ。

 遺跡に向かう前にテントの様子を窺うが、まだ寝ているみたいだな。


「あれ? テントは結局1つしか残ってないわね」


「残ってるのはあのめんどくさそうな男たちのやつか。あいつらが他の冒険者に追い返されてたら面白かったんだが」


 昨日の夜に争っているような音が聞こえていたので小競り合いがあったのだろうが、勝者は残念な方だったか。

 確か昨日見た限りでは男が3人と女の子1人だったな。数的には他の冒険者の方が多かっただろうし、何かしら戦闘能力があるとみていいだろう。


 ……まあ、俺は面倒くさいことは御免なので争うつもりは無いが。


 今はそんなことより遺跡ですよ、遺跡。早く金目の物をゲットして帰ろう。

 畑の真ん中に行き遺跡の入り口を探すと、マンホールのような穴がぽっかりと開いているのを見つけた。早速侵入してみよう。


「ふーん。中は意外と広いわね」


「へえ、名駅地下街ぐらいはありそうだな」


「……何よそれ」


 やれやれ、やはり異世界人には伝わらないか。名古屋の地下に広がるショッピング街の大きさぐらい日本人なら誰でも知ってるというのに。


 遺跡内は当然のごとく暗いが、昨日先んじて探索していた冒険者が用意したであろう松明が残っている。火を灯し直し周辺を照らすことにする。


「……生き物はいなさそうね。音もしないし探索に集中できそうよ」


「いや、そういう訳にはいかなさそうだ。上を見てみろ」


「上? ……きゃああっ!」


 俺の言葉に松明を上に掲げたルリカは、そこにへばりついていたものを見て驚きのあまりしりもちをつく。

 天井には大きな蜘蛛がくっついていた。広げた手の平ぐらいのサイズはありそうだ。


「み、ミナトっ! 追い払って!」


「ダメだ、武器がもったいない。別に積極的に襲ってくるわけじゃなさそうだし、警戒しながら探索するしかないな」


 松明を動かして天井全体を見渡すと、1匹だけではなくちらほらと壁や天井にへばりついている。

 噛みつかれるぐらいならまだしも、毒とかがあったら大変だ。『女神の滴』は残り2つ、それ以上喰らったらジエンドだな。


「シルバも気を付けろよ。探索はお前の鼻が頼りなんだからな」


「わおん!」


 シルバは俺の返事に答え、地面をクンクンと嗅ぎ始めた。何か変なものを見つけたら合図をしてくれるだろう。


「ここは昔倉庫だったのかしら。壺の破片とか壊れた木箱が散らばってるわ」


「あまり近づかない方がいいぞ。蜘蛛はそう言う隙間とかにもいるかもしれないから」


 うーむ、これは結構大変だな。目に見える範囲は昨日探索した奴らが確認済みだろうし、かといって目の届いて無さそうなところを調べようとすると蜘蛛に触れるリスクがある。こんなことなら長めの武器とか杖とか準備しておくべきだったな。


 仕方なく足や火のついてない松明でツンツンしながら探索するが、遅々として進まないな。


「……! わん!」


「ん、どうしたシルバ?」


 突如、シルバが入り口の方を見て小さく吠える。俺たちもそちらの方を振り返る。


「おいおい、昨日全員追っ払ったと思ったがまだ冒険者がいるじゃねえか!」


「兄貴、あいつら離れたところにテントを張ってた奴らですぜ」


「きひひ、若い男女2人でこんな暗がりで何やってんだか」


 入ってきたのは昨日も見かけた荒くれ者だった。男3人組に加え、片眼鏡の少女も後ろに控えている。


 ……異世界人は早起きなのか? まだ7時ぐらいのはずだが。

 やれやれ、面倒くさいことにならなければいいが。


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