表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/58

第15話 初めての遺跡

 俺はあと一歩で『獄炎の杖エンブレイズロッド』を手に入れられそうだったと言うのに、ルリカに邪魔されてしまったのであった。


「おい、何だよ急に。折角2/3の値段で買えそうだったのに」


「お金持ってないんでしょ? それに、あそこのガラスケースに並んでるのは全て詐欺よ。ゴミみたいなやつを高値で売り付けてるの、触れないようにしてどんな魔法道具かわからないようにしてね」


「詐欺? わからないじゃないか、なんたって『獄炎の杖エンブレイズロッド』だぞ?」


「その名前も適当よ。噂だと小指の先程度の炎ぐらいしか出せないって話よ」


 な、なんだと……。俺は100円ライターを80万で買おうとしたって言うのか? 情けない話だ。まあどっちにしろ金が無かったわけだが。


「……そう言えば、お前は何か買ったのか?」


「買ってるわけないでしょ。直接触って確認できるものなら詐欺られる心配ないと思ったけど、値段の割にはゴミばっかりだったし。仕方ないから次のお店に寄りましょ」


「はいはい、付き合いますよ」


 ……結局その後夕方まで5軒ほどハシゴし、最終的に魔法道具ですらない普通のサバイバルナイフを買ってその日は終了した。

 ルリカ曰く、ミナトがいるから魔法道具が無くても助けてもらえるとのことだが、一番助けて欲しいのは俺なんだよなぁ。


*


 翌日。


「ルリカ、俺は今日仕事を探しに行く。止めても無駄だ、泣こうが喚こうが体調を崩して熱が出ようが絶対に行く。行くんだよっ!」


「わ、わかったから発狂しないでよ。私も情報収集したいし付き合うわ」


 今日こそは金策に走らなければならないと俺の本能が言っている。世の中金、それは異世界でも変わらないという事を俺は学んだのだ。

 ルリカの話だと、近くには遺跡がたくさんあるという話だったはずだ。一獲千金を夢見て直接出向いてもいいし、堅実に護衛なんかの仕事で稼ぐこともできるはずだ。


 何はともあれまずは依頼だ。3日目にして初めてこの街のギルドへ出向くとしよう。


 手早く食事を終えて街を行くと、以前の村より立派なギルドの建物を発見した。早速物色するとしよう。


「私はその辺にたむろしてるやつらに話を聞いてみるわ。ミナトは掲示板を確認してらっしゃい」


 一旦二手に分かれ、俺は借金を返すために依頼書を確認していく。


 なるほど、やはり都会は仕事が多いな。心なしか報酬も多い気がする。

 やれやれ、こんなことだから田舎から若者が減り都会に人口が集中するのだ。未来を憂える若者の1人として嘆かわしいよ、まったく。


 そんなこんなで隅から隅まで掲示板を眺めた結果、俺は候補をいくつかに絞った。


「新作ポーションの試飲……飲むだけで10万か」


 これは破格、何と言ってもすぐ終わりそうだからな。だが、過去に見てきたポーションを思い出すと、ろくでもない効果が発動する可能性もあるな。

 これは後でルリカにお勧めしてみよう。奴は変なポーションに耐性があるはずだ。


「もう1つは遺跡探索の手伝い……手に入れた宝の5%の金額が報酬か」


 何も得られないリスクはあるものの、一度で借金を返せる可能性もある。普通に働いていても1週間で40万は稼げないので、どうせどこかで賭けに出なくてはならないのだ。こんな依頼も一考の余地はある。


「ミナト、大変よっ!」


「ああ、確かに大変だ。このままじゃ40万稼げそうにない!」


 掲示板の前で悩んでいると、ルリカが慌てた表情で駆け寄ってきた。俺の深刻な状況が伝わったのだろうか。


「何言ってんのよ、そういう事じゃないの! なんと、昨日新しい遺跡が見つかったらしいのよ! 見つかったばかりだからまだお宝が眠ってる可能性はあるわ!」


「ほ、本当か……!」


 これは確かに大変な情報だ。他人を手伝えば5%の報酬も、自分で手に入れれば100%なのだ。けち臭い依頼なんぞ受ける必要もなくなったな。


「お金を握らせて得た情報よ、きっと間違いないわ! 場所も聞いたわ、早速今から向かいましょう!」


 思い立ったら即行動、俺はルリカと共に一度ペンションに戻り、準備を整えることにした。


*


 俺たちは迅速に準備を整え、馬車の発着場へ来ていた。この街からは少し離れた場所なので、途中まで乗合馬車に乗っていこうという魂胆らしい。


「近くに森……というより林みたいなところがあって、その近くでお爺さんが畑仕事してたら偶然掘り当てたそうよ」


 ルリカは聞いたという情報を俺に伝える。遺跡って畑に埋まってるモノだったんだな、知らなかったよ。


「近々探索の依頼を出そうと思ってるらしいけど、忙しくてまだやれてないんですって。つまり情報は公になってない、数人しか知らないはずよ」


「なるほど……。お金をかけてまで情報を持ってくるなんて流石の行動力だな」


「ふふん、感謝しなさいよね。この情報を元に宿泊代をしっかり稼ぎましょ」


 まさか、俺の為に? ありえない、裏があるのか? ……と思ったがあんまり嘘つけなさそうだし、やっぱりそうなのか?

 ……俺は感動した。ルリカにも人の心、良心というものが存在していたなんて。


 これは俺も気合を入れないとな。


*


 馬車に乗り込み、決戦の時を待つ。場所はここから30分ぐらいの所らしい。

 乗客は俺とルリカ、そして端っこの方にもう1人少女が座っていた。少女と言っても俺やルリカと同年代に見える。


 少女は馬車の中の椅子に背筋をピンと伸ばして座っている。ベレー帽をかぶり、小さなメモ帳らしきものを呼んでいるようだ。

 そして一番気になるのが、左目についている片眼鏡だ。初日の夜から何度も見ているが、老若男女に愛されるアイテムのようだ。


「ミナト~、何他の女の子ばっかみてるわけ?」


「いや、この街に来た時から気になってるけど、片眼鏡をつけてる奴が結構いるなーって思ってな」


「……本当ね。流行ってるのかしら」


 俺と同じような感想を抱くという事は、ルリカも別に理由は知らないってことか。

 ……そんなに流行ってるなら俺も金に余裕が出来たら買ってみようかな。なんか格好いいし。


「気になるからちょっと聞いてみるわ。……ちょっと、そこのあんた!」


 惚れ惚れするほどの行動力。ルリカは立ち上がると、その少女の方へと近寄り話しかけ始めた。


「……誰ですか、あなた」


 少女はメモ帳をぱたんと閉じ、顔を上げる。怪訝そうな表情を浮かべているが、まあ当然の反応だな。


「あんたのそのモノクル、街でも何回か見かけたわよ。流行ってるの?」


 何という圧倒的コミュ力。相手の問い掛けを無かったことにし自分の聞きたいことをごり押しする。俺にはそんな真似無理だな。


「何故無礼な人間の質問に答えなければならないのですか? 私は忙しいので話しかけないでくれませんか?」


「な、な、何ですって! 私が、無礼ですって!?」


 自覚ないんかい。心底ウザそうな感じで話を打ち切られたルリカは怒りの表情を向けているが、俺はむしろ少女の方に同情しているぞ。


「大体誰ですかあなたって、名前が知りたいならあんたが先に名乗るべきじゃない!」


「……」


「無視しないで! こうなったら何としてでもあんたに答えてもらうわよ!」


 やれやれ、さっき少し見直したというのに。こんなくだらないことでヒートアップするなんて。

 馬車が発車して約10分。もう謝罪して、俺たちも遺跡に向かう準備をすべきだと思うんだがな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ