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第13話 いざ鑑定士の街へ

 俺とルリカは、特に名残惜しくもない村を出発するため広場に来ていた。どうやらここから他の街へのバス……もとい馬車が出るらしい。


「それにしても何で馬車なんだ? 冒険するんじゃなかったのか?」


「何言ってんのよ、冒険者に必要なのは情報よ! こんな田舎じゃ大した情報は得られなかったけど、人の多い都市ならもっとたくさんの情報が集まるはずよ」


 ……それならお嬢様の誘いに乗って、都市に行って部屋を貸してもらえばよかったのに。


「あんたその顔、『お嬢様の誘いに乗って一緒に都市に行けば良かったじゃねーかこの糞アマ!』って考えてるわね?」


「俺、そんな暴言キャラだったっけ?」


 ……まあ暴言を除けば大体合っているけど。


「まあまずは話を聞きなさいよ。今から行く場所はお嬢様の言っていた都市とはまた別よ。この周辺には2つの都市があって、1つは伯爵家の本拠地、そしてこれから向かうのはもう1つの都市、その名も鑑定士の街ヴァレスタよ」


「鑑定士……?」


「そう。鑑定士って言うのは、魔法道具の能力や価値を見抜くことのできる人たち。古い遺跡とかだと魔法道具が見つかっても、どう使えばいいか分からないってことが往々にしてあるのよ。そんな時彼らの出番ってわけ」


 なるほど、この世界にはそんな職業があるのか。日本人的感覚だと『いい仕事してますね~』とか『大事になさってください』なんて言ってるだけのイメージだけど。

 確かに俺の持っている道具も説明書が無ければどんな効果かわからなかっただろうな。その説明をしてくれるのがこの世界の鑑定士ってわけか。


「でも、鑑定してもらう物なんてないじゃないか」


「ちっちっち、本題はここからよ。さっきも言った通り鑑定士の街ってことで、そこには各地から魔法道具が集まってくるのよ。見つけたお宝を鑑定してくれ~ってね。売買も盛んで魔法道具専門店ってのもあるんだから!」


「何……だと……?」


 魔法道具のお店。もしかしたらそこでいい感じのやつが買えるかもしれない。

 盗賊討伐の時は惜しくも魔法道具は得られなかったが、こんどこそド派手な魔法道具をゲットできるかもしれないな。


「どう? 行く気が湧いてきたでしょ?」


「ああ、俄然楽しみになってきた。行くぜ、鑑定士の街ヴァレスタへ!」


 気持ちが高ぶったところで都合よく馬車が来たようだ。待ってろよ、魔法道具たち。


*


 俺たちが乗り込んだ馬車は他に乗客がいないようで、ラッキーなことに2人+1匹で貸し切りだった。

 俺はシルバをブラッシングしながら窓から外を眺めている。天気は快晴、風がなかなか気持ちいい。


 馬車に揺られること既に約5時間。この世界にはラジオもスマホも無いが、日本ではお目にかかれない風景を眺めているだけでもなかなか楽しいものがある。


「……さっきから外ばっかり眺めて。そんなに草原が楽しいの?」


「まあそこそこ。地平線なんてこの世界に来てから初めて見たよ」


 日本って山ばっかりだし平地は全部街だしな。海外旅行も行ったことないし、こんな景色は初めての経験だ。


「この世界……? ねえ、ミナトってどこの出身なの? 地平線を知らないなんて、よっぽどの都会っ子か山育ちよ」


「大体合ってるよ、俺は都会っ子なんだ」


「ふうん。どこの都会? 王都エルドバニア? 商業の街タルタラ? いや、それにしては常識知らずだし……もしかしてこの王国じゃなくて隣の帝国出身だったりして!」


「……悪かったな、常識知らずで」


 ルリカはあれこれ詮索してくるが、地球にある日本って国だよと言っても何のこっちゃだろう。根掘り葉掘り聞かれても困るので適当にあしらう。


「人に質問する前にお前はどうなんだ? あの村には家が無いみたいだし、実家はどこなんだよ?」


「え? あ、あはは、女の子に実家の場所を聞くってそれこそ非常識って言うか……。もう、どうでもいいでしょ、私の事なんて!」


「何だよそれ……」


 俺の問い掛けにルリカは露骨にしどろもどろになり、言葉を濁す。

 やれやれ、人には質問しといて自分はこれですよ。まったく最近の若い子は困ったもんですな。


 正直、魔法道具を使えば強制的に聞き出すことは可能だが俺自身無理に暴くつもりはない。

 自分がされて嫌なことは他人にするのもやめましょう。この教え、大事ね。


「わかったわよ、お互いに過去のことを聞くのは止めましょ。大事なのは過去じゃない、これからよ! そうでしょ?」


「……それで、これからはどうするんだ? まさか新しい街でお店巡りだけで過ごす訳じゃないんだろ?」


 ルリカはそう言うと、ごそごそと地図を取り出し床一面に広げる。馬車が貸し切り状態なのでやりたい放題だ。


「出発した村がここで、目指す街はここ。大体あと2時間もすればつくはずよ。もう夕方になっちゃうし、まずはスムーズに宿と食事の確保がしたいわ」


 うーん、また宿生活か。いろいろ旅の準備に金を使わせられたせいで俺個人の所持金は2万イェン程なのだが。

 まあ今はギルドカードもあるし、新しい街でも依頼をこなしながら過ごすか。


「今回は私が宿を選ばせてもらうわ。お金もあるし、ちゃんと1人1つのフカフカベッドを確保するわよ!」


「俺は一番安い部屋で良いかな。お金ないし」


「何言ってんのよ、2人で1部屋よ! か弱い女の子を1人にして、暴漢に襲われたらどうするのよ!」


 前からしきりに言うその暴漢ってやつを、俺は1度も見たことない。まさかとは思いますが、それはあなたの想像上の存在なのでは?


「後は前も言ったように情報収集ね。実はこの街の近くにはたくさん遺跡があるのよ。……遺跡があるから鑑定士の街が発展したってのが正しいらしいけど」


「遺跡っても、ほとんど調査済みなんじゃないのか? 宝とかもほとんどなさそうだが……」


「それが意外と調査されてないらしいのよ。罠がたくさんあったり、地面を掘ったらまた新しい遺跡が出てきたり……。冒険者はたくさんいるけど、魔法道具を探しに行く魔法道具がない、そんな感じかしら」


 服を買いに行く服が無い的な? だとしたら間抜けばっかりだな。まあでも、一獲千金を夢見る奴は大体そんな感じかもしれないな。


「私たちにはお金も魔法道具もある。これは大きなアドバンテージよ! この街で一気に稼いでやるんだから!」


「……俺はお金ないんだが」


「それも今だけよ。あんたの銃と撮像機があれば余裕余裕。頼りにしてるわよ、ミナト♪」


 さらりと全責任を負わせられた気がしたのだが。本当にルリカの考えに乗って大丈夫なのだろうか。

 だけど、魔法道具が手に入れば生活に安定感が増すのも間違いないだろうし、頑張るしかなさそうだ。


*


「……! 見えてきたわ、あれがヴァレスタよ!」


「おお、城塞都市……!」


 更に馬車に揺られしばらく経つと、ついに目的地が見えてきた。日本ではお目にかかれない立派な城壁が見える。

 盗賊のアジトのようなチンケなものではなく、高さは10mはありそうな立派な城壁が街全体をぐるっと囲んでいるようだ。


 時間は既に夕方ごろだが、夕焼けが城壁を照らしていい感じに美しさを増している。


「凄いな、冒険って感じがしてきた」


「何言ってんのよ? よくある城郭都市じゃない」


 やれやれ、この感動が分からないとは。まったく最近の子は困ったもんですな。


 馬車から見える様子だと、到着まであと10分ってところか。俺は膝で寝ているシルバをポンポンと叩いて起こすと、降りる準備をすることにした。


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