第12話 田舎の村にさようなら
俺たちは馬車に乗り、奪還したお嬢様たちと共に村へと向かっていた。
この馬車もきっと新しいのを急遽準備したのだろう。やっぱり金持ちって凄い。
「お前ら、見直したぜ! ただのひょろガキどもにしか見えなかったのにお嬢様を助け出すなんてなぁ!」
「その勇気と行動力、尊敬に値する。君たちの存在はこの国の誇りだよ」
「それにしても、どうやってあの魔法を突破したってんだ! あの恐ろしい火の魔法、思い出しただけでもブルッちまうぜ」
「ふふん、そこはルリカ様の機転ってやつよね? あいつの魔法が連射できないことを一瞬で見抜いて接近戦に持ち込んだわけ。一瞬で詰め寄り、相手の頭に銃を突き付けてこう言ってやったわ、『私に勝つなんて100年早かったわね』ってね」
……言ってねえだろ、そんなこと。
ルリカは完全に調子に乗っている。他の冒険者たちも素直に『おお~!』とか言っているからたちが悪い。やめろ、そいつを調子に乗らせるんじゃない。
それにしても元気な奴だ。今はもうすっかり暗くなっており、完全に真夜中だというのに。
「ミナト様、と申しましたかな? この度はお嬢様を助けていただき、感謝の言葉もございません」
「ん? ああ、気にしないでくれ。俺たちは金に釣られて行動しただけだしな」
呆れながらルリカの様子を見ていると、執事が話しかけてきた。深々と頭を下げてくるが、あまり畏まられると何とも照れ臭い。
「御謙遜を……。貴方は若いのに立派な方でございますな。約束通り、謝礼は全額あなた方に支払わせていただきます、他の冒険者も異論はないでしょう」
「……ありがとうございます」
俺はクールを装いお礼を言う。……本当は飛び上がりたいぐらいだが。
150万なんて大金、嬉しいに決まっている。これでネズミ駆除や薬草集めの仕事から解放されそうだ。
……そう言えば大半をルリカに渡す約束していたような気がするが、まあ共有財産ってやつだろう。
「あの、ミナト様。ミナト様は近くの村に住んでらっしゃるのですか?」
今度は救出したばかりのフェルナお嬢様から質問が飛んでくる。執事と合流したことで俺にべったりくっつくことは無くなったが、馬車に乗っている間もずっと視線を感じて居心地が悪かったところだ。
「まあ、仮住まいってところかな。お金が貯まるまで拠点にしてるって感じだ。今回の報酬でやっと離れられそうだけど」
「そうですか。あの、もし行く当てがなければ、その、私と……」
「ん? なんだって?」
お嬢様はごにょごにょもじもじしていて、よく言葉が聞き取れない。聞き返すが、なかなか言い直してくれないな。
「いえ、その、郡都に私のお屋敷があります。もし差し支えなければ部屋ぐらいなら提供したいと……」
「ほ、本当か!? 有難い申し出だ」
俺のこの世界での目標は安定した生活だ。今はホテル暮らしなんていう無駄にブルジョワジーな暮らしをしているが、安定した住まいが欲しいと思っていたところだ。
「ちょっと、聞こえたわよ! 何1人で話を決めてんのよ、パートナーたる私にも相談しなさい!」
「いつパートナーになったんだよ……。というか、さっきまで冒険者たちと話してただろ」
俺がお嬢様の言葉に二つ返事で了承しようとしたところで、ルリカが割り込んでくる。
田舎じゃ仕事が無いとか言ってたし、都会に行くのは賛成だと思ってたんだが。
「いい? 私たちはトレジャーハンターなのよ! まとまったお金が手に入った以上、道具を揃えて旅に出るのが筋ってもんでしょ!」
「いや、トレジャーハンターはお前だけだから……」
「そうですか、残念でございます……。冒険の旅、どうかお気をつけてください」
「あ、いや、その、ちょっと……!」
「はい、決定ね」
くそ、何なんだ一体。俺の望む平穏ライフを邪魔しやがって。
ルリカは俺の気も知らずに、いつの間にか真横に座ってニコニコしている。……やれやれ、怒る気力も失せるな。
*
翌日。俺たちは早速報酬を受け取るためギルドを訪れていた。
「やったー! 150万イェン! これでしばらくは安泰ね♪ ……はっ! 今の言葉聞かれてなかったかしら! こんなか弱い娘が大金を持っているなんて知られたら暴漢に襲われるわ!」
「……1人で何やってんだ、お前」
ルリカは報酬の入った袋を持ち上げ大喜びしたかと思うと、それをすぐに両手で大事そうに抱え周囲を警戒する。
幸い、変な奴だなという視線を向けられてはいるが聞かれてはいないみたいだな。
「ふう、大丈夫みたいね。じゃあはい、あんたの取り分の15万イェンよ」
「はいはい、どうも」
俺は約束通り、1割だけを受け取る。ギルドカードも手に入れたし、これで他にもいろいろ買って村を出るとするか。
「ほらほらー、見てこれ! 1枚で10万イェンの価値がある白金貨♪ こんなにあるなんて、夢みたい」
「嬉しいからってコインにキスするなよ。ばっちいぞ」
気持ちはわかるが鬱陶しい奴だな。お金を取り出しキスまでしてしまっている。硬貨ってのは意外と汚いんだぞ。
まあ相手にしていたら時間がいくらあっても足りないな。用事も終わったことだし、俺はギルドを出ていくことにした。
「あ、待ってよ。どこに行くつもり?」
「今回はシルバも大分頑張ってくれたからな。奮発して肉でも買ってやろうと思って」
俺は足元にいるシルバを軽く撫でる。一応怪我したところには包帯を巻いているが、あまり意味は無かったかもな。
シルバは俺の言葉に尻尾をぶんぶん振っている。完全に野生を失っている気がしないでもない。
「ふーん、じゃあ私も半額出してあげる。その子も頑張ってたしね。その後は早速旅の道具を買い込みましょ!」
「お、おい……」
ルリカは俺に追いつくと、腕に手を絡めてきた。そのまま腕を引っ張り村をずんずんと歩いていく。
「こっちに新鮮さが売りのお肉屋さんがあるわ、たまにはいいのを食べさせないと可哀想よ」
「……俺はそんなに金が無いんだけどな」
「まあまあ、仲間は労るべきよ。その後は何を買おうかしら? テントは絶対いるし、枕も買わなくっちゃ! 私、枕はいい奴じゃないとよく眠れないのよね」
「それはお前の金で買うんだろ?」
「何言ってんのよ、テントは共有なんだから2人で出すのが当然でしょ! あと食べ物も数日分は買っといた方が良いわね、ていうか今日の昼食も考えておかなくっちゃ。もちろん食事は割り勘よ♪ 安心して、私が食べるデザートぐらいは自分で払ってあげるから」
全く、まだ俺に払わせるつもりか。この女というやつはお嬢様と違って女らしくもないしおしとやかでもないし……。
だけど、何というか。
「ほら、歩くのが遅いわよ! 早くしないとお昼時になってしまうわ、お店が混んできたら面倒よ!」
「わかったわかった」
ルリカは俺の気も知らずに笑顔で腕をがんがん引っ張っていく。
何というか、こういうところが強みなんだろうな。いつもニコニコ笑ってるやつは得だよな、ほんと。怒る気力もなくなるからな。
「よし、俺も覚悟を決めたぞ! 豪華な肉と高級な昼食を取って、さっさと旅の準備をしよう」
「お、乗ってきたわね! よーし、そうと決まればゴーゴーよ!」
俺も気合を入れると、恐らく今日が最後になるであろう田舎の村で豪遊することにしたのだった。
これで序章終了です。
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明日からは毎日1話投稿予定です。