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第11話 お嬢様、奪還

 俺の作戦により盗賊のお頭を追い詰めることに成功した。ルリカに銃を突き付けられている男は全く身動きできてない。


「あんたさっき、弱い奴から狙うって言っていたわよね。奇遇なことに私も同じ考えよ。この場で一番弱い卑怯者はあんただったみたいだけど」


「……ふ。ふふふ、それで勝ったつもりか? どうやら勝利の女神はまだおれに微笑んでいるみたいだぜ。てめーが俺の後頭部に付きつけている銃、さっき弾切れだったやつだな? どうした、撃ってみろよ。弾がねえんだろ、それが分かったらてめえにすぐナイフを突き立ててやる!」


「う……。み、ミナト~!」


 ルリカはそのことを思い出したようで、俺の顔を心配そうな目で見てくる。だけどそこも既に解決済みだ。


「心配するな、撃て、ルリカ!」


「わ、わかったわよ! 喰らいなさい!」


 ……びちゃ。


「はっはっは、やっぱり弾が……え? そ、そんなばかにゃぁ……」


 弾は男の頭に命中した。情けない声とともにどろりと溶けてしまう。


「や、やったわ! でもなんで弾が……? さっきは確かに弾切れしてたはずよ」


 ルリカは不思議そうな顔で俺に近づいてくる。俺は銃を返してもらい、説明してやることにした。


「……俺はゲームとか買った時しっかり説明書を読まずに始めちゃうタイプだったけど、ちゃんと確認することの大切さを学んだよ。銃の説明書にはちゃんと書いてあったんだ、銃の再装填について」


「……! 最初の発砲から1時間経ってたのね」


 俺たちが馬車から脱出するときに使ってから、既に大分時間が経っていた。最初に弾切れを起こした時は焦ったが、もうすぐ1時間経つことにすぐに気付けたのだ。だから時間を稼ぎ、この勝利につながったという訳だ。


「とにかく、私たちの勝ちね! イエーイ♪」


「……何、その手は」


「何って、ハイタッチよ! ほら、イエーイ♪」


「い、いえーい……」


 なんだこのノリ。俺は笑顔につられてハイタッチをしてしまう。これが有無を言わせぬプレッシャーってやつか。


「くうん……」


「おっとそうだった。お前にもお礼を言わないとな。帰ったらソーセージを3本ぐらいあげようか」


「……たまには他のを食べさせた方が良いんじゃない?」


 俺は足元に寄ってきたシルバの首元をわしゃわしゃして褒めてやる。さっき傷つけられたところを確認するが幸い浅かったようで、血も既に止まっていた。


「はっ! こんなことしている場合じゃないわ! 早く150万を助け出さないと!」


「そうだな。いや、その前に魔法道具を……」


 戦いが終わったからと言ってほんわかしている場合ではなかった。早く目的のもの2つを回収するとしよう。

 ふっふっふ、これで俺も魔法使いらしい魔法使いが始められるな。炎を操る魔法使い、とても格好良くて素晴らしいじゃないか。


 俺はドロドロに溶けた盗賊の側に寄る。この辺りに魔法道具も落ちているはずだ。


「お、あったあった……って、折れている! 真っ二つに!」


 小さな赤い杖は真ん中からぽっきりと折れていた。2つに増えてラッキーなんて言っている場合じゃない、ちゃんと使えるのか?

 試しに拾って『炎よ出てこい』と念じても、さっきのような火球は現れなかった。


「な、なあ。魔法道具って修理できるのか?」


「……難しいわね。強い魔法ってのは大体高名な職人の手作りだから。作った人間じゃないと直せないかも……」


 なんてこった、これは正真正銘燃えるゴミになってしまったってことか。やれやれ、ド派手魔法使いライフはしばらくお預けだな。


「それは諦めて、150万を探しましょう」


「……ああ、そうだな」


 俺はゴミをポイ捨てすると、ルリカと共に奥の扉へ入っていくことにした。


*


「お嬢様ー? どこにいるのー? 助けに来たわよー!」


 扉は地下への入り口だったらしく、俺とルリカは足元に注意しながら下へと降りていく。

 さっきの部屋にあった松明で明るく照らしてはいるが、こんな小さな光では見通しが悪すぎるな。


「どうだシルバ、お嬢様の匂いはしないか?」


「くうん……」


 嗅覚が優れていてもさすがに嗅いだことのない匂いは探せないか。諦めて少しずつ探すとしよう。


 周りを見ながら歩くと、鉄格子や錆び付いた拷問道具などがちらほらと見える。昔はそう言う事の為に使われていた場所なのだろう。


「……もしかしてもう殺されてたりしてね。その辺にある拷問道具とかでズタズタに、とか」


「怖いこと言うなよ。俺、グロいのだけはダメなんだよ」


「……! わん、わん!」


 どんどん奥に向かって歩いていくと、突如シルバが暗闇に向かって吠え始めた。何かに気付いたに違いない。


「きっとお嬢様ね! おーい! 助けに来たわよー!」


「あ、待て! くっ、覚悟を決めるか」


 どうかグロくありませんように! 俺は走り出したルリカを追いかけ、シルバの吠えたところへ向かう。


「きゃあっ! ど、どなたですか……!」


「よ、よかった、無事か……。俺たちは冒険者だ、助けに来たぞ!」


 一番奥にあった鉄格子を松明で照らすと、中には縛られた女の子が怯えた表情でこちらを見上げている。

 やや汚れているが上質そうなドレスにサラサラの髪。目的のお嬢様で間違いないな。


 俺は鉄格子の鍵を銃で溶かすと、縄をほどいてやる。

 まだ捕まって1日も経っていないはずだが、目は真っ赤に腫れている。相当怖かったのだろう。


「よし、これで自由に……って、うわあ!」


「うわあああ~ん! 怖かった、本当に怖かったよぉ~!」


 縄がほどけた瞬間、お嬢様は俺に抱き着いてくる。ふわりとした髪から何とも言えない良い匂いが漂ってきた。

 くっ、俺はこんな女の子らしい女の子に耐性が無いんだ。勘弁してくれ。


「ちょっともう、こんなところで何おっぱじめてんのよ!」


「いや、その……。あの、お嬢様、先に脱出しませんか?」


「あ……! わ、私としたことがお恥ずかしい……! 申し訳ございません」


「いえ、寧ろありがとうですよ。さあ、ここから脱出しよう」


 可能な限り紳士を装うと、彼女の手を取り地下室から脱出することにした。


*


 俺たちは階段を上り、地上へと向かっているのだが。


「あの、お嬢様? 非常に動きにくいのですが……?」


 俺の左手には松明、そして右手には先ほどのお嬢様が絡みついていた。頭をこちらに傾け完全密着状態だ。

 あまりにも近すぎてドキドキしてしまう。……俺、汗臭くないよな?


「あっ御免なさい、私ったら。……あの、名前をお聞きしていませんでした。もしよろしければお教えいただけませんか?」


「おっと、そう言えば名乗ってなかったな。俺はミナト。こっちはルリカだ」


「まあ、ミナト様。聞きなれない響きですが、素敵なお名前ですね」


「そ、そうか。お嬢様の名前はたしか、フェルナ様だっけ? 執事さんが言ってた気がする」


「私の名前まで覚えてくださっているなんて……!」


 彼女は俺の言葉を聞いて、嬉しそうに腕の力を強める。困った、体制が無さ過ぎてどう行動すればいいのかわからない。

 騙されるなミナト、これはただのスキンシップなんだ。俺に惚れてんだろ? ……とか考えたら勘違い野郎の完成だ。


「けっ。なーに鼻の下伸ばしちゃってんだか!」


「……伸ばしてない」


 俺の背中にはルリカの冷たい視線が突き刺さる。俺は紳士だ、決してこちらからは怪しい行動はしていない……はず。


「お嬢様ーっ!」


「ん、誰か人の気配が……」


「爺や!」


 1階まで登ると、何やら騒がしい。扉を開けるとそこには、執事と他の冒険者たちが集まっていた。

 皆一様に包帯を巻いて痛々しい姿をしている。恐らく一旦治療を受けたけど、再びお嬢様奪還のため舞い戻ったって感じだな。見上げた忠誠心だ。


「お嬢様、御無事で……!」


「こちらの冒険者様に助けていただきました。怪我もありません、ご心配かけて申し訳ありませんでした」


「いえ、我々が不甲斐ないばかりに……」


 お嬢様は執事の下に駆け寄り、執事はその姿を見てむせび泣き始めた。

 ……ふう、これで今回の仕事は終わりだな。


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