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第10話 憧れのド派手魔法

 廊下の角で隠れている俺のすぐそこまで、盗賊共の足跡が聞こえている。

 よし、もうそろそろだろう。3、2……今だ!


「喰らえ、『スライム銃』!」


「なっ!? あへぇ……」


「んひぃ……」


 俺はバッと影から飛び出し、面食らった盗賊たちに向かって銃を発射した。

 連続で2発、油断していた盗賊たちの額にしっかり命中する。


「よし、先に進もう」


「……! ミナト!」


「な、何だてめえは! おれ達の仲間に何しやがった! 許さねーっ!」


「くっ、もう一人いたのか!」


 もう終わったと思い銃をベルトに挟んだところで、何ともう1人の盗賊が現れる。

 完全に油断していたため、再び銃を取り出す前に男が目の前に接近してくる。


「わおんっ!」


「うわっ、何だこの狼は!」


「シルバ! よくやったぞ!」


 相手が掴みかかる前に脇からシルバが飛び出し、そのまま男を押し倒す。ふう、本当に助かった。

 しかも生け捕りにしてくれたことで、このまま尋問できそうだ。シルバを必死に振り払おうとする男の額に銃を突きつける。


「動くな、この銃はお前の仲間をドロドロにした魔法道具だ。お前もドロリッチになりたくなければ質問に答えてもらうぞ」


「ひ、ひい!」


「仲間はあと何人ぐらいいる? 火の玉を飛ばしてきた魔法道具はどこにあるんだ?」


「もう他にはお頭だけだ! お頭は魔法道具があるからって仲間は最小限にしてんだよ! その魔法道具もいつも肌身離さず持ってんだ!」


 どうやらお頭は人を信じないタイプらしい。おかげで部下の口も堅くはないようだ。


「そうか。そのお頭とやらはどこだ? あと捕まえた貴族の娘もいるだろう」


「1階の赤い扉の中だ! そこだけしっかり施錠されてるからわかるはずだっ! 多分娘もその部屋だよっ!」


「そうか、よくわかった。ありがと……よっ!」


「ぐはっ……」


 俺は銃の角で殴り、男を気絶させる。欲しい情報は得られたし、早速次の行動に移ろうか。

 適当に気絶した男を縛り付けると1階に向かうことにした。


*


 適当に盗賊のアジトをぶらついていると、ついに赤い扉を見つけることが出来た。なんとも悪趣味な扉だ。


「よし、この中に魔法道具がありそうだな」


「完全に目的を間違ってるじゃない。私たちの目的は150万よ」


「その言い方もどうかと思うが……」


 扉の前で漫才をやっている場合じゃない。早く突入しよう。

 情報通り施錠されているようだが、ここは城門と違って壁も薄いので『スライム銃』で突破できるだろう。扉の鍵の辺りに発射すると、まだ溶け切らない扉を足で勢いよく蹴破った。


「うおっ、何だてめえらびっくりさせやがって! 入るときはノックしやがれ!」


「そんな悠長なことを言っている場合か? 寄こせ、魔法道具と娘を!」


 部屋の中は奥に長く、恐らく昔は謁見の間だったのであろう事が分かる。そして一番奥には、豪華な椅子の上で男が踏ん反り返っていた。

 手には小さな赤い杖を持っている。あれが目的の品その1だな。


「あん? てめえら、まさか救助に来た奴の生き残りか? おれの『爆炎杖インフェルノスフィア』で纏めて消し飛ばしたつもりだったんだがな」


 ……なんて格好いい魔法道具の名だ。いかにもファンタジーって感じがビンビンしている。

 決めた、必ずあれを奪うぞ。そしてド派手魔法使いライフが始まるのだ。


「盗賊ごときに慈悲は無い、喰らえ、『スライム銃』!」


「はん、返り討ちだ! この炎で燃え尽きろ!」


 俺が銃を構えると、引き金を引くより早く巨大な炎の塊が出現する。俺はお構いなしに盗賊に向けて発射した。


「そんな小便みたいな魔法、効く訳ねえだろうがーっ!!」


「……! くそっ」


 俺がびゅっと発射した液体は、炎に当たると一瞬で蒸発したかのように掻き消えてしまった。流石に炎には効果が無かったか。

 そして炎はそのまま俺たちに向かってくる。俺とルリカは離れるように両側に飛び退いた。


「熱っ! 近づくだけでも恐ろしい熱さだわ!」


「はっはぁーっ! この圧倒的火力、まさに俺は最強だぁーっ! たまたま拾った杖がこんなに素晴らしいものだとは、小汚ねぇからと燃えるゴミに出さなくて正解だったぜーっ!」


 男は俺たちの様子を見て高笑いする。俺の攻撃が通用しなかったのを見て勝利を確信したってところか。

 だけどそこに隙が生まれた。俺はこのチャンスを逃さない!


「ふん、油断したな。この銃はただの小便発射機じゃない、連射式だ!」


「な、なにっ!?」


 俺は言葉を終えるよりも早く引き金を引く。これにてジ・エンドってね。

 ……カチ。


「……あれ?」


 カチカチカチ。おかしいな、引き金を引いてもいつもみたいにびゅびゅッと発射されないぞ。


「……くくく、はーはっは! こいつは飛んだ間抜けがいたもんだぜ! まさかこんな時に弾切れを起こすなんてよぉーっ!」


「しまった、もう既に6発撃ち尽くしていたのか……!」


 俺は記憶を遡る。馬車から脱出するときに1発、城門で無駄撃ち1発、盗賊の部下どもに2発。そしてこの部屋にはいる時と、さっきので計6発。くそ、残弾数のことを完全に失念していた!


「今のはちょっとばかりひやっとしたぜぇー? この杖の唯一の弱点は発射に20秒程度のインターバルが必要なことだからなぁ! だがもう既に20秒経っている! 次の魔法で火葬してやるぜ!」


 詳しい説明サンクスって感じだが、それを聞いてももはやどうしようもない。

 男は再び杖を掲げると、炎の玉を生み出す。そしてその火球を俺ではなく、ルリカに向けて放った。


「え? きゃああーっ!」


「へっ、おれのポリシーは弱い奴から狙う事だぜ。少々もったいねーが燃え尽きな!」


「戻れ、ルリカ!」


 俺はカードを取り出し、ルリカを呼ぶ。火球が命中するよりも早く、ギリギリで救出することが出来たようだ。


「……!? 消えた……?」


「ルリカを狙ったのは間違いだったな! これで再び隙が出来た! 行けシルバ、時間稼ぎを頼む!」


「わおんっ!」


 俺から男までの距離は約30メートル。俺の体力では距離を詰められても、杖を奪うところまでは難しそうだ。

 だが狼ならどうだ? 素早く接近し、盗賊に攻撃できるはずだ。


「うお、何だこの狼は!?」


「ぐるるるるっ!」


 シルバは一瞬で間合いを詰め、男ののど元に飛び掛かる。だが……。


「きゃいんっ!」


「ふん、てめえ盗賊を舐めてんじゃねーのか! おれが他に武器を持ってねーはずないだろうが! こんな犬っころで俺が殺れると思うな!」


「……ナイフか!」


 男は飛び掛かるシルバにナイフで応戦したようだ。傷は軽いみたいだが、シルバは怯み距離を取っている。

 ……だがそれで十分だ。俺がシルバにした命令は男を倒すことではなく、時間稼ぎなんだからな。


「次の炎が出せるようになるまであと5秒ってところか? その時がてめえの死ぬ時だ」


「5秒あれば十分だ、くらえっ!」


 俺はそう言うと『スライム銃』を男に向けて投げ飛ばす。だが頭を狙ったそれは、ひょいと首を傾けて回避されてしまった。

 落下した銃が男の後ろで虚しく音をたてる。


「武器を手放すとはもう勝ちを捨てたみてえだな! いいぜ、てめえの魔法道具は俺が引き継いでやるよ、だから安心して燃え尽きな!」


「いや、もう既に俺の勝ちだ。出てこいルリカ!」


「……まったく、作戦があるなら先に私に教えなさいよね」


 俺が声を上げると、どこからかルリカの返事が聞こえる。いや、どこからか、ではない。男の背後だ。


「な、なんだとぉぉぉーっ!? てめえは、さっき消えた小娘ぇ! いつの間にぃっ!」


 男の後ろにはルリカが立っており、俺の投げた『スライム銃』を男の後頭部に付きつけている。


 俺が咄嗟の行動、それはカードに戻したルリカを銃に挟み、一緒に投げつけたのだ。あとは相手が油断した時に再びルリカを召喚すればいいだけだ。

 シルバもよく働いてくれた。一瞬相手が目をそらしたすきに銃の準備ができたのだからな。


 やれやれ、弾切れの時はどうなるかと思ったが、今度こそオレたちの勝利だな。


※ドロリッチ…ゼリー状のコーヒーが入った言うほどドロドロはしていない飲料。量の増減を繰り返しつつ、2019年に販売終了した。

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