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神と聖女のフライパン  作者: 愛知幸
5/5

5話


 ところ変わってここは街から離れた森の中。


 ミスターXに連れられた俺たちは森の中を歩いていた。何やら勇者…もとい聖女としてやっていくことで確認したいことがあるということらしい。この森はミラノが聖水を作るための水を汲む湖があるところらしいが、聖水でも造ってもらうというのだろうか?

「それにしてもミラノ。お前そんな装備で大丈夫か?」

「カミヤさんには言われたくないんですが。」

 俺の装備はシャツと短パン、あとはチェルシーが落としていったショートソードとなっている。それに対しミラノの装備は修道服と…背中に背負ったフライパン。

「なんでフライパン持って来てんの?バカなの?」

「愛用のバットも無いですし、護身用程度ならこれでいいかと。ミスターも推奨されていましたし。」

「そうだぞカミヤ。素晴らしい装備ではないか。」

 ミラノの肩に止まったミスターXがニヤニヤしているのが分かる声で続ける

 コイツはは装備を持たずに出ようとした俺たちに護身用程度に装備をしろと言ってきたのだが、フライパンを持ったミラノに対して素晴らしい装備だと褒めちぎっていたのだ。絶対バカにしていると思うのだが。


「まあいいや。そういえば、この世界の魔王ってどんな奴なんだ?えらい討伐に自信ありげだったじゃないか?」

「知らないで私に魔王討伐の依頼をしたんですか?」

「おう。俺あまり知らないんだ。教えてくれ。」

 ミラノの目がまた冷たくなった気がする。肩に留まっているXもこちらを見て肩を竦めた。器用な奴だ。

「とは言っても私も名前は知らないです。聞いた話をそのまま言うと第189代目魔王は昨年行われた魔王統一センキョで4期続いた先代魔王を破り見事当選。魔界支持率も70パーセントを超えているそうですよ。」

「ちょっと待て。今選挙って言ったか?」

「ええ。魔界では私たちの国々と違ってセンキョという方法で王様を決めているみたいなんですよ。センキョというものがどういうものか私たちは分からないんですけど。決闘かなにか何でしょうか?」

 選挙制なのか。魔王…。

 民主的な魔界事情に軽く驚きを覚える。

「で、その189代目の魔王が今人間界に侵略してきているというわけか。」

「どうなんでしょう?王都はともかくこちらの方ではあまり魔物も活発では無いので。王都の方での発表では今代の魔王は人間界侵略をマニュフェスト?に掲げていたらしいです。それを受けて王都からは騎士が派遣されて緊張状態だとか。」

「ほうほう。」

「でも魔王側の方からは一向に侵略する様子が見られないらしく、何かの罠ではないかと警戒していると街の騎士の方が言ってました。」

「それって口だけ政策掲げて当選したけど本当は戦争なんて全然する気は無いとかじゃないよな?」

 そんな中に勇者だかがちょっかいかけて開戦。とかならないよな?

「さあ?よく分からないですね。王族貴族からの情報も入ってこないですし。」

 情報統制か。仕方がないことだがこちらが動く上での安全は欲しいな。ミラノは討伐に自信があるようだったが倒してから問題が起きないとも限らないし。


「そう。それでミラノ。魔王討伐に考えがあるって言っていたがどういうことなんだ?」

「それについては私から教えてやろう。」

 黙って聞いていたXが口を開く。こいつは俺と違ってよくこの世界を見てたようだから事情にも詳しいのだろう。

「まずお前はこの世界の魔王討伐っていうのは何なのか分かって無いようだが、古来から魔王討伐というのは魔王をその立場から失脚させることにあるのだよ。過去には文字通り魔王を倒して討伐を行った冒険者もいるが、伝説の盗賊が魔王の不倫スキャンダルを世界に公表して討伐したこともある。」

「不倫情報で討伐される魔王とか情けなさすぎるだろ。」

「そして、先程のミラノお嬢さんの口ぶりからするとただ倒すのではない策があるという感じなのかな?」

「その通りです。ミスター。」

 そういうことか。ミラノが神のスイングを用いて愛用のバットで魔物を駆逐していくわけではないんだな。そうなるとミラノの策というのは何なのかが気になる。よく知らない魔王の秘密を握っているとでもいうのだろうか? 

 …何か嫌な予感がする。

「…で、お前の考えってのは何なんだ?」


「私の狙いは一つです。神に認められし聖女ミラノの名を世界に轟かせ、その威光で魔王を失脚させます。そうすれば戦わずして目的を達成できると思うのですがいかがでしょう。」

「お前やっぱり天然バカだろ。」

「フハハハハハハ!なんて面白い!素晴らしい考えだ!だがミラノお嬢さん。その達成のためには名声が必要になると思わないかね?」

「ん?」「え?」

「知っているかね?この森には最近、畑や家畜を荒らし商隊を襲うコボルト達がたむろしているのだよ。」

「え、ええ。騎士団の方からちらりと噂は聞きましたが…。この森だったんですね。」

「その通りだ。そんな魔物を追い出すことができれば聖女としてのデビューとして申し分ないだろう?では、聖女ミラノよ!この森に巣食うコボルト達を見事打ち倒して見せてくれ!」

「ええ!?私は神様が2人もいるから安心してついてきたんですが!?」

「おー。そうか、がんばれ聖女ミラノ。」

「カミヤさん!?私たち友達ですよね!?」

「神に友達とは無礼な。っていうよりお前今日の朝俺を見捨てたことを忘れてないからな。」

「いや、あれは助けるつもりでしたよ。ホントですって…。」

 その後もしばらくゴネていたミラノだったが諦めたのか俺たちの方を見てフライパンを掲げて宣言した。

「お、覚悟を決めたか。」

「ふっ。いや、コボルト達といえども言葉は通じるのです。見事彼らを説き伏せて聖女ミラノの名を轟かせる始まりとして見せましょう!」

 堂々と言い放ち歩を進めるミラノ。よし俺はミラノの説得が失敗してもすぐ逃げられるよう距離をとっておこう。

 Xのやつが普段ほかの神をイジメているときはこのような気分なんだろうか。これは面白いことになりそうだ。


◇◇


 森の中をミラノが独り、フライパンを片手に歩いていく。俺はというとミラノから十分に距離をとって後ろから姿を眺めているところだ。ミスターXもミラノの肩から俺の頭にポジションを移して傍観する構えを見せている。

「で?何でミラノ一人にコボルトを任せるんだ?」

「何だ?お嬢さんが心配なのかね?」

「まさか。ただお前の性格的にただミラノがコボルトに泣かされるのを見たいってわけじゃあないと思ってな。」

「よくわかってるじゃないか。まあ見てろ。面白いことが…。お、カミヤ、隠れろ。」

 どうやらミラノがコボルトと出会ったようだ。コボルトは1匹、見張りだろうか?物陰に身を隠し耳を澄ませる。ミラノはチラリとこちらの方を振り向き、俺たち姿が見えないことが分かると鬼の形相をする。コボルトAは何かを感じ取ったのか一瞬ビクリと体を竦ませるがミラノに声をかけるようだ。

「どうしたお嬢ちゃん?こんな森の中に一人で来たら危ないぜ?」

「こんにちは。私は近くの街でプリーストをしておりますミラノと言います。どうかお見知りおきを。」

 無難な立ち上がりだ。どう展開していくつもりなのか。

「お、おう。そうか。ミラノちゃんか。何しにこんなところに。その手のモノは何なんだ?」

「私は貴方達とお話をしようかと思いまして。こちらは山で採れたキノコをその場で調理しようかと思いまして。」

 それは便利そうだな。

 ミラノの答えに困惑するコボルトA。と、奥の方からさらに2匹のコボルトがやってきた。コボルトAは助けを求めるように後から来た2匹を見る。

「どうした?何だその娘。」

「サボってナンパなんてしてんじゃねーぞ。」

「違う!ただの迷子だ!なあ、お嬢ちゃん?」


「そうですね。この方とは丁度今出会ったところです。それにしても聞いていた噂とは違うのですね。女子供と見たら襲い掛かってくるかと。」

「イヤ、女子供を襲ったなんてことになったら騎士団も本腰入れて討伐に来ちまうしな。ちょっとここらで暇をつぶしているだけだよ。まあしかし、ナイスバディーの姉ちゃんが来たってんなら襲っちまうかもしれねえがな!」

 そう言って豪快に笑うコボルトA。つられて2匹のコボルトも笑う。

 …ミラノは笑っていない。

「まあ、それでしたら私も危ないではないですか。清き私に欲情するのはやめてくださいよ?」

「はっはっは。何を言ってるんだ冗談はその胸だけにしてく…」ガンッッ!

 笑いながらミラノの肩に手を置いた瞬間、右手に持ったフライパンがコボルトAの顔面に吸い込まれた。突如行われたミラノの凶行にコボルトAは一撃で沈む。

「なっ…!そんな本当のことを言われたからって…グフッ!!「次。」

 続けてコボルトBが倒れる。残り1匹のコボルトはミラノの豹変に呆然としていたが、一歩前に進むミラノをみて後ずさりながら武器を構える。

「ど、どういうつもりだ!」

「私は話し合いに来たのです。私の話、聞いてくれませんか?」

「いきなり2人も殴り倒しておいて話し合いって何だ!?」

 俺もそう思う。しかしそれより気になることが。

「おい!何だ今の!明らかにおかしい動きだっただろ!」

 今の一連のミラノの動きは明らかにおかしかった。急に切れたのは最近の若者だからだと納得ができるが、フライパンを放った動きが速すぎだ。しかも凶器であるフライパンは赤く光を放っているようだ。どういうことかとXを見上げるが、当のXは愉快そうに羽ばたきながらミラノを見ている。

「見たかカミヤあの鉄槌を!まさしく神の一撃!素晴らしい!」

 本当に愉しそうだ。やっぱりこいつ何か知ってるな。

「おい、お前何を知ってるんだ。」

「カミヤ、お前の目は本当に節穴だな。あの神器の力だよ。」

 神器だと?確かに聖剣や神剣、聖凱といった神器の類には持ち主の身体能力を著しく上げるものがあるが、神のフライパンなんて聞いたことがない。

「あんな神器なんて知らんぞ。どういう…。」

「カミヤさんどうしました?そんな茂みに隠れて。乙女の前でトイレですか?」

 目の前にはミラノ。そしてその手にはさらに強い光を放つフライパン。先ほどミラノがいた場所を見るとコボルトCも伸びている。急に姿を消したことに大層お怒りのようだ。目まで赤く光ってらっしゃる。


「ふっ。聖女ミラノよ。神の試練をよくぞ突破した!褒めて遣わ…ぐへっ!」

 突っ込みのスピードが早くなったな…。2日続けての一撃を食らった俺はこの場に放置されないことを祈りながら意識を失っていった。





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