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不可思議な話  作者: 音羽 咲良
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染められたお守り

皆様、いつも読んでいただきありがとうございます。

長らく更新せずに申し訳ありません。


クリスマスを引っ掛けたつもりの怖い話…?です。





   染められたお守り




 不思議な事が多い私の家だが、世間一般に行われる行事は普通に行う事が多かった。


 お正月には親戚一同が集まって新年を祝い、節分には豆まきをし、ひなまつりにはひな壇を飾り、七夕には短冊に願い事を書いて星空を見上げてみた。

 夏には全国的に有名な大きい祭りがあり、夏の暑さと人々の熱気に押されながら祭りを堪能し、お盆にもなると大分涼しげな風が吹く中、お墓参りをした。

 家族の誕生日のお祝いが夏から秋にかけてそれぞれ行われ、十二月にはクリスマスと大晦日で締め括り、そしてまたお正月がやってくる。


 毎年、代わり映えのない行事だったが、それでもその日は楽しんだ記憶がある。


 沢山の行事の中で、私の誕生日は年末に近かった為、誕生日のプレゼントはクリスマスと一緒になることが多かった。

 小さい頃はプレゼントを一つしか貰えない事に不満もあったが、大きくなるにつれ、文句を言うこともなくなっていった。




 ある十二月の事だ。

 私の家に、宅配便で赤と緑の包装紙に包まれた大きな箱が届いた。宅配便の宛名に記載は無い。


 私も両親も該当する大きな物を買った覚えは無かったので、何が入っているのかとおそるおそる中身を開けると、そこにはピンク色をした全長50cm程のクマのぬいぐるみが入っていた。

 ぬいぐるみと一緒に一通の手紙が同封されており、中身を読んでようやく、送り主が私の高校時代の友人だとわかった。誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを兼ねて送ってくれたそうだ。


 送り主である私の友人は、一見すると一般的な女性なのだが、いつも不思議な体験をしている。

先祖である守護霊が強いので、生活でも影響を受けているそうだ。


 その彼女曰く、このクマのぬいぐるみは私の元へ来たいと言っていたようで、即買いしてしまったらしい。後日、同じ売り場に偶然通りかかった時には売り切れていたそうなので、そういうものなのかもしれない。


 正直な所、小学生の頃ならともかく、大学に進学し、大人に近づいた私が今更ぬいぐるみを貰って嬉しいかと言われれば微妙なところだが、単純に友人が誕生日を覚えていて祝ってくれた心遣いが嬉しかったので、私はそのぬいぐるみに「くまー」と名付けて可愛がることにした。


 その「くまー」だが、ピンク色の毛色とふさふさの毛並みが良かったのか、自室でベッドの横に置いて眠ると何となく安心したし、落ち着いてよく眠れた。

 愛着が沸いてペットのように撫でてみたり、抱き締めたり、たまに話しかけてみたり…いい大人が何しているんだろうと思うこともあったが、自室で一人きりの時だけだし、ふさふさの毛並みは抱き心地も良かったので、気にしないことにした。


 大学を卒業して、就職の為に地元を離れる事になった際、真っ先に車に積み込んだのもこの「くまー」だ。

 荷物のように後部座席に載せるのではなく、地元から約900km離れた土地へと向かう際の話し相手兼お守りのつもりで助手席に乗せると、自分の運転で見知らぬ土地へと車を進めたのだった。




 今まで旅行以外で地元より南に進むことは無く、知らない土地に一人で住むのも心細かった為、最初の内は会社で用意した寮に入ることにした。

 寮とは言っても会社が借り上げたアパートで、3LDKの各部屋を個人の部屋とし、台所や浴室、トイレは共同にする、今でいうシェアハウスの形を取っていたので、アパートには私の他に二人の同居人がいた。


 私と同郷の子と、沖縄から来た子。どちらも歳は私より下だったが、二人とも明るくて話しやすい子だったので、部屋割りもすんなり決まり、寮生活は概ね円滑だった。


 そのうち仕事も始まり、生活が順調に進んでいって…二週間くらい経った頃だろうか。


 ――どうも、夜中に台所から人の気配がするのだ。


 最初に決めた三人の部屋割りは、一番広いリビングに沖縄の子、その隣の和室に同郷の子、中心にダイニングキッチンがあり、浴室――ここはユニットバスの為、トイレも浴室にある――の向かい、玄関に程近い洋室に私が入っていた。


どの部屋も個人の部屋を通らずにダイニングキッチンへ行く事ができるから、私ではない他の同居人が夜中にトイレへ向かったり台所を利用したのかもしれない。

それに私も慣れない仕事や生活環境が変わったせいで疲れている。人の気配なんて気のせいだ――。

 そう思い込んで、深く考えずに眠ってしまった。




 それが、気のせいではないと気づいたのは次の週に入ってからだ。


 仕事を終わって疲れ果てていた私は、帰ってからすぐに転寝をしてしまった為、夜中ふと目が覚めたのだ。


 いけない…風呂にも入らず、寝てしまうなんて。

今日の仕事は特に神経を使ったから、疲れていたのかもしれない。


 早くシャワーでも浴びて、さっさと寝なおそう。


 ――そう、思った瞬間に、ギシリと台所から物音がした。


 同居人が起きたのかな、と最初は深く考えなかった。けれどその後に続く物音は無く、気のせいだったと思い直して、私は着替えをまとめて浴室へと向かった。


 温かいお湯を浴びると、冷えていた身体と共に心まで解れていくように感じる。

 本音を言えばお湯を貯めて、ゆっくり湯船に浸かりたいところなのだけれど、時間も時間だし、仕事は朝が早い。

次の週末には温泉にでも足を伸ばしてみようかなぁ…なんて考えながら手早くシャワーを済ませて部屋へ戻る。


 転寝して変な時間にシャワーを浴びたせいで、妙に頭が冴えてしまった。

 眠くなるまで本でも読んでみようかと、手頃な本を漁っていたところでまた台所からギシリと物音が響いた。


 さっきまでと違い、その音はやけに耳に良く響いて、温まったばかりの背筋に寒いものを走らせる。


 気のせいだと思っていたけれど、何だか嫌な感じがする……。


 咄嗟に私は地元から一緒に連れてきた「くまー」を手元に引き寄せ、自分の布団に一緒に寝かせる。そして部屋のドアノブには、いつも京都で買ってから持ち歩くようになっていた有名な神社の白いお守りを掛けて、布団を被ると無理矢理にでも眠りについた。




 ――その夜、私は夢を見た。


 眠った筈の私は、布団の中にいるが目が覚めており、「何か」がドアの向こうから「トン、トン」とノックをしている。


 それは開けたらダメなヤツだ。


 私は返事をしないように口元に手をあてて、必死に息を殺す。

 それに呼応してか、トン、トン…と扉を叩く音はドンドンと大きくなっていく。


 どうしよう。

 一応、お守りはドアに掛けてあるけど、部屋に入られたらどうしよう…。


 私は怖くなって、隣に寝かせてある「くまー」にしがみ付こうとした。

 しかし、その「くまー」は私の恐怖心を他所にひょいっと起き上がって、ノックの鳴り響くドアをドオンと一叩きした。


 すると、それまで響いていた音は一瞬にして掻き消され、「くまー」は私の元にやってくるとぺこりとお辞儀をして、また何事も無かったかのように私の布団に横たわったのだった。




 次の日、目を覚ますと変わらない様子で「くまー」は私の横に寝転んでいた。

 私の寝相が悪かったせいか、布団からはみ出ていたのはご愛嬌だ。


 あー、なんだかおかしな夢を見た気がする。

 変に怖がったからか、「くまー」が私の怖いものを退治してくれたとか。

 可愛がってるけど、この「くまー」にそんなことできる筈が。


 ないよね、と続けようと思った思考は、ドアノブに掛けられていたお守りを見た瞬間に吹き飛んだ。



 ――白かったお守りが、ピンクになってる!?



 まさしく、そのピンク色は「くまー」と同じ色で。

 仕事へ向かう時間も迫っているというのに、しばし呆然としてしまった。



 あれが本当の事だったのか、夢だったのか…未だに判断はつかない。

 けれど仕事から帰ってきた時に、沖縄出身の同居人が呟いた言葉を聞いて更に唖然とさせられた。



「昨日の夜は、随分騒がしい奴が台所に来てたねぇ…お陰で寝不足だよ…」



 結局、私はその家に三ヶ月しか住まず、他県へ移動になった為、引越ししてしまったし、その後、同居人たちもそれぞれ違う場所へ引越ししてしまったようで、あの場所がどうなっているのかもわからない。


 ただ、わかっているのは白いお守りはもうピンクに染まってしまい、元に戻らないという事。


これが「くまー」のせいなのか解明はしていませんが、その後も「くまー」は幾度となく私の命を救ってくれているので、「くまー」を贈ってくれた友人には感謝しかない。


 たかがぬいぐるみ、と侮るなかれ。


 物には命が宿る事もある――私はそう、信じて今も「くまー」を寝室に飾っておいている。





本当に今でもくまーは私を見下ろして守ってくれてる…筈です(笑)

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