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第七話。簡単に、お昼ご飯を食べましょう。 パート2。

「はい、お待ち同様っす」

 皿に乗せられたオクトパボールの数々。

 今回は皿一枚に纏めて乗っているが、普通の二人分は乗り切らないので

 16個だった場合は皿が二枚になる。

 

「おう」

 俺は片手ずつで皿を下から支えて持ち上げる。

 それぞれに一本ずつフォークが乗ってるので、

 それを落とさないようにしながら。

 

 今回はアイスダストの時とは逆に、俺が先に2セット用意されている

 食べる用のテーブルの一つに向かう。背中に気配を感じたからだ。

 客が後ろに並んでる状態で、あまりもたもたするわけにもいかない。

 

「っくぅぅ……!」

 この、オクトパボールの乗った皿を持ち運ぶ際に、困ることがある。

 それは、皿が熱いことだ。あまり長時間持ってると、

 手が軽く火傷を起こしかねないぐらいの熱さである。

 

 だから今俺は、こうして顔を顰めながら

 慌てたかのように移動している。

「っふうう……」

 無事に皿をテーブルに置いた俺は、マリーお嬢様が来るのを横目で見つつ、

 手を上下に振って熱を逃がしている。

 

 不思議そうにこっちを見ながら、マリーはぬいぐるみを

 俺の正面の席、一番お客から遠い席に座らせる。

 

「いつもの奴っす」

 マリーの状況を見てだろう、店員娘のカノメが

 コップを二つ持って来てテーブルに置いた。

 そしてすぐさま持ち場に戻って行く。

 

「あの、どうされたのですかジョセさま?」

「皿が熱くてな。よし、なんとか収まったか」

 

 

『見てください神尾かみお君っ! たこ焼きですよたこ焼きっ』

 カノメの側から声が聞こえて来た。

 なにやら興奮した様子の女子の声と、

『オクトパボール、なにかと思ったらまさかのたこ焼き』

 驚いたような感心したような男子の声だ。

 

 年のころは俺よりちょっと下ぐらいだろうか?

『ニャんたたちのとこだと、これのことたこ焼きって言うんだ』

 かわった二人称の使い手は、ヨロズヤ仲間で知り合いでもある、

 サン・イラーヌの一人カグヤ・ツクヨミの声だ。

 推測ではあるが、先に喋った二人を連れて来たんだろう。

 

 しかし。

あんたたちのところって、いったいどういうことなんだろうか?

 

『今回は三人分っすね。毎度この時間はカグヤさんが来るっすけど、

もしかして 休憩中なんっすか?』

『うん。他のメンバーは毎度この時間だと手が離せなくてさ』

『なるほど。それでサラちゃんとか、一人ずつバラバラ来るんっすか』

『そういうこと』

 

『アイシアに軽く凍らせてもらえばよかったなぁ、

ちょっと熱くなってきたぜ』

『なんて涼の取り方考えるんですか神尾君っ、

これぐらいは我慢してください。日本の夏に比べれば

湿気がひどくない分さっぱりしてるんですし』

 

『んなむくれるなって。ったって暑いもんは暑いだろう?』

『それはそうですけど、この世界の暑さは我慢できるレベルですっ』

 ニッポンとかこの世界とか。いったいこの男女は、なにものなんだ?

『はいはいわかったよ、もうなにをむっとしてんだかなぁ。

暑さのせいか?』

 

『アクト、暑さから離れなさいよ。アオイがむくれっぱなしになるわよ』

「あの、ジョセさま。食べないんですの?」

「ん? ああ、わるい。ちょっと、あっちの会話が気になってな」

「そうですか」

 なんだか、しょんぼりしている。

 

 ……そういえば、フェイルが言ってたっけ。

 他に気を散らしてるの見ると寂しくなるもんだ、って。

 けど、知り合いが見知らぬなにものかを連れて来てるんだ。気になるだろ。

 

「今オクトパボール買いに来てるのが知り合いなんだ。

だから、気になっちまったんだよ」

「そうでしたの」

 なんだかほっとしている。

 

「もう食べるのか? かなり熱いぞ」

「はい。いただきますわ。ううん、見たところ

熱そうには思えませんけれど……さほど湯気も上がってませんし」

 しげしげとオクトパボールを眺めるマリーに、

 「気を付けろ、それは罠だ」と言い含めるように忠告した。

 「

「フフフ、おおげさですわねぇ罠だなんて」

 結果はこの通り、軽く笑い飛ばされてしまった。

「信じてないな? いいだろう。なら、食べてみるといい」

 俺はオクトパボールを食べる際適温になるまで、フォークでこのまるい物を、

 転がしたりつっついたりして、時間を潰すことにしている。

 

「子供みたいですわね、ジョセさま」

 また、今度はクスクスと楽しげな笑いと共に、

 そんなお言葉をちょうだいした。俺はこのお嬢様に、

 何回子供みたいだって言われるんだろうなぁ……。

 

「ただ冷めるまで待ってるのも間抜けだからな、

少しでも早く適温にする意味もある」

「あら、もしかして猫舌ですの?」

「そうでもないと思うがな」

 

「では、わたくしはお先にいただきますわね」

 はむ、っとかわいらしい声と共にオクトパボールを口に入れたマリー。

 

 

「ふむっ?」

 

 

 目を見開いて声にならない声を上げたかと思うと、

 直後ハフハフ言い始めた。

「ほらな。だから言っただろう、罠だって」

 なにやら音をもごもご発しているが、俺にはなにを言ってるのかは

 まったくわからない。ただ、若干涙目になってることだけは理解している。

 

「オクトパボールの洗礼を受けた感想はどうだ?」

「ふぁ ふぁらふぁわいふぇふらふぁいー(わ、笑わないでください)」

 オクトパボールの熱が引き始めたのか、少しずつ口の動きが

 ゆっくりになって来ている。

 ようやく、味をかみしめることができそうなお嬢様である。

 

「こっちもそろそろ大丈夫か」

 俺もようやく一つ目のオクトパボールに、

 フォークをしっかりと刺し口へと運んだ。

 

「ふ、あふい!」

 

 くそ、まだ熱さましが足りなかったっ!

 しかし、マリー・ゴリオス・エンダイヤほどの惨状ではないっ!

 

 

「そうそう、それが玉に瑕なのよねー、オクトパボールって」

「カグヤ、知り合いか? ずいぶん気安いけど」

「ええ、ヨロズヤ仲間よ」

「カグヤさん、よく熱くないですね、

お皿っ、こんなにっ、あついのにっ」

 

「器用だなぁ稲妻いねつま、皿をひょいひょい

軽く跳ね上げながら運ぶなんて」

「そういうっ 神尾かみお君はっ、よくっ、もってっ、られますねっ」

 

「俺の顔を見てもっ、平気で持ってると、思うのかっ。

ふぅ……熱かった」

 なんて会話をしながら、カグヤたちは俺達の左隣のテーブルについた。

「カグヤは、グローブしてるから便利だよな。

こういう物持つ時」

 

 一つ目を平らげた俺の言葉を、

「まあ、指に触れないようにしないといけないけどね」

 と自慢げに言葉を返して来た。

 

 

「んで? そっちのかわいい女の子と、かわいいぬいぐるみはなに?」

 カグヤの問いには、若干うんざりしながら今日三回目の説明を返した。

「なるほど、あそこんちのお嬢様か。

顔見知りじゃあないけどね、ニャたしたち」

 

「なるほど、その手の仕事ってそういう『おねがい』も

依頼になることあるんだな」

「小説にはあんまりない話ですよね、そういう依頼の話って」

「だな」

 

「なんの話だ? さっきから妙なことを、何度か言ってたけど」

「聞いてたの?」

 不快そうな色の表情と声で、若干睨むように細めた目で

 カグヤが聞いて来た。

 

「予想外にお前がいたんで、気になっちまってな」

「ふぅん。いい耳してるじゃない」

 表情を変えないまま、声色もそのまま返して来た。

 なにを気味悪がってんだ、この猫亜人ケイト・シスは?

 

「って、ことだけど二人、どうする?

このことはニャんたたちのことだから、言う言わないは決めて」

「そうだな。どうすっか? 俺としては、別に

俺達が異世界人って話はしてもかまわないと思うんだけどな」

 

「なに?」

 思わず声が出ていた。異世界人だと?

 

「あの……神尾君?」

「なんだ?」

「今、言っちゃったわよ」

 カグヤに指摘されて、「あ……そうだな」と

 ばつが悪そうに空へと目線をそらした男子。

 

「異世界人って、ほんとなのか?」

「ん? ああ、そうだぜ。ちょっとした事件が春にあって、

それがきっかけで俺とこの稲妻いねつまは、

この世界と俺達が本来いる世界を行き来できるようになったんだ」

 

「うさんくさいな、その話し」

「だろうな。俺だって、同じ立場ならそう思う」

 

「って、神尾君。あの事件を、

『ちょっとしたこと』

で納めないでください。

 

わたし、怖かったんですよ、

神尾君たちが助けに来てくれるまでの間っ」

 

「そういう説明がめんどうになる事柄をはぶくために、

ザックリ言ったんだよ。稲妻の恐怖がいかほどだったのかは、

俺もあの夢で少しはわかってるつもりだけどさ」

「むうう……」

 

 

「おいおい、すっかり囲いの外だな 俺は」

 苦笑いしか出ない。

「まあ、めんどうなことに巻き込まれたのよ、この二人はね。

そのおかげで、ニャたしたちも巻き添え食ったけど」

 

「そうなのか」

「んむう……!」

 恨めしそうな目で、こっちを睨みつけて来るお嬢様。

 それにわかったよとうんざり声で相槌打って、

 カグヤに言葉を再び投げる。

 

「お嬢様がご立腹だ。その話は今度聞かせてもらうとするぜ」

「そうね。ニャたしたち、どうやら『オジャマ』みたいだし」

「なんで語尾を上げたんだ? お邪魔は強調するし……。

さて、二つ目を……って、おい!」

 皿を見て、思わず叫んでしまった。なぜなら。

 

 既に皿の上のオクトパボールの数が、半分程度にまで減っていたからだ。

 

「お前……すっかり虜だな」

 そう苦笑いで言う間にも、お嬢様は更に一つを

 口の中へと放り込んでしまった。

 ちゃんと見たら、今ので残りが六つになった。

 

「なあ、後は俺の分にしてくれないか?」

「……わふぁりまふぃふぁわ(わかりましたわ)」

 お嬢様、表情に不満な色を残してはいるが

 了承してくれてほっとする。

 

 しかし、口に物を入れながら喋るな、と教わってないんだろうか?

 それとも地金では気にしない性格なのか?

「俺たち、これが昼飯なんだぞ。お嬢様の方は充分かもしれないけど、

こっちはそうでもないんだ。あんまりパクつかないでもらいたいぜ」

 こっちは六つどころか八つでも物足りない。

 

 護衛も兼ねてるから、周囲に気を配る必要があって神経使ってて

 ただでさえ腹が減り易いからな今日は。

「さて、最低限数も確保できたことだし。

改めて、いただくとしよう」

 そうして俺 そしてカグヤ達は、オクトパボールを食べるのであった。


 

 

 

 ーー夜まで、体力持てばいいんだがな。

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