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第六話。暑い時には氷を食べよう。 パート1。

「暑いですわねぇ」

「そりゃ、夏場にぬいぐるみ抱きかかえてたらな」

 的撃ちを終えた俺達は、マリーお嬢様が気になったところで立ち止まりつつ、

 夏フェスタを見て回っている。倹約家なのか、気になって店を見てはいるものの、

 あれもほしいこれもほしいとはなっていない。

 

 もっと手あたり次第にお小遣いを乱用すると思ってたから、

 ものすごく意外だ。それを言ったら、淑女の慎みですわ、とのことで。

 俺にはその理由はよくわからなかったが、

 本人が浪費するつもりがないなら、無理強いする必要もないだろう。

 

 ちなみにあの後、うちのパーティことエイダーズ・クロスの

 女子メンバーへの土産を狙っての射撃は、一個だけ入手することができた。

 

 

「アリーナに渡すなりしろって言うのに、強情だよな お前」

「だって、せっかくジョセさまがとってくださった物ですもん。

手放してしまうのが惜しいのですわ」

「そうか」

 なんだかくすぐったい理由だ。

 

 とはいえ護衛を兼ねてるこちらとしては、対象の両腕が塞がってるのは

 瞬時に手を掴んで走るなど、早く動く状況が発生した場合を考えると

 けっこう迷惑なんだがな。

 

「で、自分から暑いめにあってるお嬢様。冷たいもんでも食べるか?」

「冷たい食べ物、ですか? 飲み物ではなくて?」

「ああ。アイスダストって言うんだけどな、

でっかい氷を削ってそれを食べるんだ、

好みのシロップをかけてな」

 

「氷を、ですか?」

 訝しむお嬢様。どうやらエンダイヤ家ではアイスダストを食べないらしい。

「なかなかいいもんだぞ。味や食感もさることながら、作るところがまたな」

 

「ジョセさまがそうまで言うのでしたら、一度見てみるのも

悪くないかもしれませんわね。行きましょう」

「よし」

 いまいち乗りきじゃなさげだが、乗ってはくれたのでアイスダストの出店を探す。

 

「えっ?」

「なにびっくりしてるんだ?」

 

「だっどぅだだって いきなり腕を掴むんですもんっ」

「そりゃ掴むだろう。はぐれたら困るからな」

「ジョセさま……っ!」

 

「どうした、顔真っ赤だけど。やっぱ熱いんじゃないのか?

ぬいぐるみ、アリーナにでも渡した方が」

 

「っ、いえっ、なんでもないですわっ。

だいじょうぶですからいきましょうっ」

「ん、あ……ああ。わかった」

 言葉にすごい勢いで割り込んでこられて、ちょっとたじろいでしまった。

 

「なにを慌ててるんだかなぁ?」

 よくわからない依頼主さまだぜ。

「お、少し先だな」

「なんですの? この威勢のいい掛け声は」

 

「ほんと、子供らしくない言葉遣いするよなぁ。

この声こそ、アイスダストを作ってる声なんだ」

「まるで、なにか 武器でも振り回しているような、そんな声ですが……」

「うん、間違ってない」

 

「いったい、なんなんですのアイスダストって……」

 マリーの顔が引きつった。たしかに、初めて触れるんだし

 意味わかんないのも無理はないだろう。

 

「ううむ。こりゃ、順番になるまでお嬢様の背丈じゃ見えないなぁ」

 店の前についたはいいが、みんな考えることは同じ。

 なかなかの盛況っぷりである。

 

「あの、ジョセさま?」

「なんだ?」

 列の横から様子を見ているらしく、

 ちょっと列の右に体を傾けては元に戻す、と言う行動を繰り返している。

 

「見た ところ、氷 なんて 見えません、けれど?」

 そんな動きをしながら話すもんだから、

 軽く吹き出してしまった。

「ああ。なんせ氷は、その都度魔法で作り出してるからな」

 

「そうなんですの?」

 びよんびよん、とでも言えばいいのか

 横に体を軽く倒しては戻る動きをやめて、

 普通に問いかけて来たお嬢様である。

 

「ああ。こんな暑いさなかに氷なんて表に出してたら

溶けちまうだろ?」

「言われてみれば……たしかに、そうですわね」

 

 しかし。

 こんなに長いことぬいぐるみを両腕で抱きしめてるにもかかわらず、

 ぬいぐるみが一度も落ちる気配を見せないのはすごい。

 執念なのか意地なのか。

 

「なにか、店員さんが、ぶつぶつ言っていますけれど?」

 店を出してる人を店員って言うのに、若干の違和感はあるものの

 間違ってるわけではないので、そのまま疑問に答える。

「呪文の詠唱中なんだろう。その間かけるシロップを選ぶ人もいれば、

魔法の完成を眺める人間もいる。俺は見る側だな」

 

「わたくしもそうですわね」

「後三人ぐらいか、楽しみにしてるといいぜ」

「ええ」

 静かに歓声が上がった。氷が出たらしい。

 

 続けて刃物を持ったようなカチャリと言う小さな音、

 その後に「それでは、舞いります」と言う店員 ーー この言い方を使わせてもらおう ーー の声。

 

 そして、シャリシャリと言う氷を削る絶え間ない音と同時に、

 短い掛け声がこれまた僅かな隙間を置いて連打される。

 これがアイスダスト作り一番の見せ場、だが今は

 きっちりとは見えないのでお預けである。

 

「これです、これですわよ今さっきわたくしが聞いた声はっ!」

 謎が解けたすっきり感とでも言うのか、嬉しそうなマリーの声、

 そんな声を出しながら何度も頷くマリー。

 

「音聞いてるだけでも涼しくならないか?」

 そんなお嬢様を微笑で見つつ、俺は問いかけてみた。

「ええ、そうですわね。たしかに、このシャリシャリと言う音、

聞いてるだけで涼しい感じがします」

 

「な? だろ?」

 思わず嬉しくなってしまい、軽くマリーの左肩を叩いてしまった。

「ふふふ。ジョセさまって、思ってたより子供っぽいんですわね」

 俺の行動に、マリーは迷惑がるでもなく、

 逆に嬉しそうにそう言った。

 

「そこまで大きく、お前さんと年離れてるわけでもないだろうからな」

 見た目の推測で言っただけだが、

「レディの年を言うだなんて、失礼ですわよ」

 と頬をふくらませるマリー嬢。ハハハと乾いた笑いで切り返す。

 

 お互いに年齢に関して、しっかりとした情報は持ってない

 ーー 俺の年は必要ないと思ったから明かしていない ーー ため、

 いささか空回りっぽい会話になってる自覚があるからだ。

 

 

 そうこうしているうちに俺達の番になっていた。

 並んでテーブルの前に立ってから、マリーが二人分の代金を渡すと

 店員の青年 ーー 俺よりは上だが的撃ちのオッサンよりは若く見える ーー は頷くと、

 二つコップを俺達の前に、それぞれ一個ずつ置いた。

 

「食べ終わったら返してくださいね。

お嬢さん、そんないやそうな顔しないでって、大丈夫。

返してもらったら水魔法でちゃんと洗ってるから」

「そう……ですか? いまいち納得できませんけれど……」

 

「そうむくれるなって、的撃ちんとこといっしょだよ。

お客全員分のコップなんて用意したら、

荷物もコップ揃える資金も大変だろ?」

 

「それは、まあ……そうですが。わかりました、

納得しておきますわ」

 店の運営って話を持ち出すと、素直に納得してくれる辺りは

 言いくるめるのが楽でいい。流石町一番の商人の娘だ。

 

 そういう、金回りについては教わってるんだな。

 

 

「話の限がよくなったようだし、アイスダスト、作らせてもらいますよ」

 俺達は店員の言葉に頷く。

 すると店員はテーブルから平たい箱を引き出し、

 一つ大きく呼吸を一回し、そしてから呪文の詠唱を始めた。

 

「雲海を踏み歩く者。北天に居たりしその息吹にて、

雲の涙を束ねて我が元に。アイシクルクレスト」

 世界に響く声で紡がれた言葉、それが終わった直後。

 

「きゃっ?!」

 魔法を見たことがないのか、マリーは軽く飛び上がるほど驚いている。

 呪文詠唱が終わった直後、虚空からさっき引き出した平たい箱に、

 四角くてでかい氷の固まりが降って来たのである。

 

「じ じょせさまは驚かないんですのね?」

「ああ、これぐらいのことは魔法じゃわりとよくあることだからな」

「そ……そうなんですか。すごいんですのね、魔法って」

「たしかに、見たことない人にとってはすごいんだろうな」

 

 

 

 ーーだが、アイスダスト作りの見どころはこの後だ。

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