貴女の瞳に私の愛をうつして
前作、『悪役令嬢は真実の愛を手にいれる』のヒーロー視点です!
私、ジルベルト・リン・ラピスラズリには、かわいくて、優しくて、頑張り屋さんな婚約者がいる。彼女はいつも、どこか寂しそうで儚げで、目を離してはいけない様な気がする。いつか、貴女のその瞳に私の愛をうつしてほしい。
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彼女はいつも無理をしている。人前では取り繕っている様だけど、人がいなくなると辛そうに、まるで自分は孤独だという様な顔をしている。私はいつか、花のように咲う貴女の笑顔を見てみたい。
今日は久しぶりにシルヴィに会える日だ。最近国王である父上に頼み込んで城の庭の一部を私に譲ってもらえた。なので今日はシルヴィにこの庭の案内をしたいと思う。彼女に少しでも喜んで欲しくて彼女に似合いそうな可憐な花をたくさん植えたけど気に入ってもらえるかな?
「どうだい?シルヴィ。ここは私が管理している庭なんだ。気に入ってもらえたかな?」
「はい、とても美しいですわ。まるで妖精の国ですわね。ジルベルト殿下はとてもセンスがおありなのですね。」
その庭の入り口にはやわらかな青や黄色、ピンク、紫などの花からできたアーチがある。奥にはガゼボがあり雨除けができるようになっている。庭を囲むのは婚約者の髪の色である、紫がかった白い花だ。
「貴女に気に入ってもらえてよかった。ここにはいつでもきていいよ。貴女と私の秘密の場所にしよう。」
「まぁ、ありがとうございます、殿下。嬉しいですわ。」
彼女はそう言って笑ったけどやっぱりまだ、少し取り繕っていそう。私は彼女をガゼボまでエスコートした。やっぱりこの庭は本当に彼女に似合っていて、まるで妖精のようだった。
「シルヴィはまるで妖精のようだね。とてもかわいい。私は貴女の婚約者になれて幸せだ。愛してるよ、私の妖精。」
そういうと、彼女は頰を真っ赤に染めた。その様子はとてもかわいらしくてたまらない。でも、どこかまだ寂しそうだ。
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学園に入学したらなかなかシルヴィに会えなくなった。ふと遠くから彼女を見つけると、大抵私に気付かず寂しそうな顔をしている。
だから私は決めた。いつも我慢して頑張っている彼女を、なんとしてでも笑わせてみせる‼︎と。
しかし、そう考えてもいい案はなかなか浮かばない。そんな時、たまたま読んだ小説に悪役令嬢というものが出てきた。その物語は、天真爛漫な少女がいじめられながらも頑張って、最後には王子様と結ばれるという話だった。その物語の悪役令嬢は王子様の婚約者で主人公をいじめていた。そして、最後には婚約破棄そして、断罪をされていた。その時にいつも表では取り繕っている悪役令嬢は本性を現すのだ。
彼女はいつも本音を隠して、気をはっている。そんな彼女の取り繕わない本音を聞きたい、私はそう思ってこの小説の王子のように振る舞おうとした。幸い、身分を気にしない馬鹿な令嬢がいたのでそいつを利用した。
シルヴィを放ってあいつといるのは心苦しかった。彼女は優しいからあの馬鹿をいじめたりもしなかったし、それどころか、私や、あの馬鹿にも頑張って注意してくれていた。あの馬鹿はシルヴィの注意を聞かず、彼女にいじめられていると私に告げてきた。何を言ってるんだ、と冷たい目で見てしまうがこいつは気づかない。まぁ、扱いやすくてラクなんだけど。
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ついに卒業パーティーの日がやってきた。作戦はなかなかうまくいっていると思う。さっき、シルヴィには今日はエスコートできないといってきたし。でも、その時の彼女の表情を思い出すと辛くなってしまう。彼女のためだと言っているが結局は自分のためだ。彼女の笑顔が見たい、私の自分勝手な作戦。でも、きっと今日は彼女の本当の笑顔が見れる、そんな予感がした。
「シルヴェーヌ・フォン・アインツベルン、貴女と婚約破棄させていただく。」
馬鹿は私の後ろに隠れ泣きそうな顔で震えている。だが、どうせ演技だろう。シルヴィにいじめられていると言った時もこいつは泣いていた。これが本当の涙だったら、なんて安い涙なのだろう。虫唾が走る。
「貴女はマリアリエに嫉妬しているからといって、きつく当たっていたんだって?私の婚約者でありながら、随分私に恥を書かせてくれたねぇ?どういうつもり?」
あの馬鹿の名前を口にするだけで吐き気がする。でも、それ以上に、彼女を悪くいう私が許せなくてイライラする。早く終わらせたい。
「ジルベルト殿下。私はそんなことなどしてはおりません。確かに行き過ぎた行為には注意をしておりましたが、それは当たり前のことを言ったまでです。」
彼女は私の言葉に冷静に答えてくれた。さすがだ。
「それは嘘です!確かに注意もありましたけど、呼び出されて大人数で詰め寄られたり、教科書をダメにされたり、わ…たし……ほんとにこわくて………。」
馬鹿が甲高い、耳に痛い声で叫んだ。聞き苦しいし、気持ち悪いが無理やり同情の顔を作り、大丈夫と言いながら馬鹿の頭に触った。
「マリアリエはこう言っているのだがどうなのかな、シルヴィ?」
馬鹿のことは全く信用していないがそういうと、
「そのような事実はございません。第1、証拠はあるのでしょうか?」
彼女はこんなときまで冷静だ。
「証拠はないね。あくまでも証言だけだ。しかし、私はどうでもいいんだよね。」
彼女は不思議そうな顔をした。
「どうでもいい?どういうことでしょうか?」
「私は貴女がマリアリエを虐めていようとなかろうとどうでもいいんだ。どちらにせよ、私はシルヴィと婚約を破棄し、マリアリエと婚約する。」
偽りでもあの馬鹿と婚約すると言うなんて本当に気分が悪い。
「ジル様……!」
彼女は辛そうに顔を歪ませた。こんな時まで我慢しないで、大丈夫だから、ごめん。罪悪感に胸が押し潰されそうになる。でも彼女はまだ本音を言わない。
「お言葉ですがジルベルト殿下、このことについて、国王陛下や王妃様はご存知なのでしょうか?」
「あぁ、陛下達には伝えてないよ。でも、この私がそんなことも考えてないと思うの?それに、陛下達は恋愛結婚なんだ。この意味、分かるよね?」
もちろん伝えるつもりもないし、考えてもいない。陛下、というか父上達が恋愛結婚というのは事実で、私にもそうしてほしいと思っているのもまた事実であるが、父上達は、私がシルヴィのことを愛していると知っている。それに母上にいたっては、彼女が義娘になるのを楽しみにしているから婚約破棄なんてできないだろうし、するつもりもない。
しかし、この言葉で彼女はやっと言ってくれた。
「聞いてくださいジルベルト殿下!私は殿下と婚約破棄なんていやです‼︎ずっとずっと貴方を愛していた‼︎貴方がいたから辛いことも頑張ってきました‼︎これが押し付けだとわかってはいます。でも、それでも貴方を愛していた!貴方のサラサラの金の髪も、ペリドットの様に綺麗な瞳も、理性的で誰にでも平等なところも全部全部大好きなのっ!確かに始まりは、洗脳の様な形だったかもしれない…………。でも!」
「本当に………心の底から、愛していたの。」
そう言うと彼女は俯いてしまった。でも、嬉しくてたまらない。いつも何があっても耐え続けていた彼女が本音を吐き出し、さらに私を愛しているとまで言ってくれたんだ。
早く彼女のそばに行きたくて私にしがみついた馬鹿の手を振り払うと、早足で彼女の元まで行き、抱きしめたいのを我慢して、頭を撫でた。そうすると、彼女は驚いたように顔をあげた。それがかわいくて、つい抱きしめてしまった。そして言った。
「シルヴィ、貴女は我慢しすぎだったんだよ。たまには吐き出さないと壊れてしまう。私は貴方に甘えて欲しかったんだ。でも、貴女は何でも溜め込んで頑張ってしまうから………私には、甘えていいんだよ。」
彼女は何かに耐えるように言った。
「……!でもっ、王太子殿下の婚約者である私が感情的になってしまったらダメだから。」
「うん、だから私の前だけでは甘えて?ね?」
「…………いい……の、ですか?」
「大丈夫だよ。」
私は彼女の耳元にそっと、囁いた。
「私も、シルヴィのことを、心から愛しているよ。」
そう言うと、彼女は期待を孕んだ目で私を見つめた。
「では、婚約破棄は、しなくていいの?」
「そうだよ。もともとは貴女に感情を出して欲しくてしたことだから。」
「よかった…!」
「怒らないの?私は貴女に、とてもひどいことを言ったよ?」
「そうだとしても、それは心からではなかったのですよね?それよりも、ジルベルト殿下、貴方の愛を得られたことが、嬉しくて…!」
私の愛がそんなに嬉しいなんて。少し驚いてしまった。彼女は本当にかわいくて優しい。私の自分勝手な行為がこうも簡単に許してくれるなんて。
「は?どういうこと?」
いい気分だったのにあの馬鹿はまたやってくれる。私に無断で触れ、あまつさえ引っ張ってきたのだ。
「ジル様は私を愛してるんです‼︎シルヴェーヌ様!ジル様を離してあげてください‼︎」
勝手に愛称で呼びやがって、最悪だ。
「マリアリエ様!殿下に無断で触れてはなりません!離しなさい‼︎」
彼女はこんな時も私を思ってくれるのか。それなのにこの馬鹿は。
「またそうやって睨む!私と殿下が愛し合っているからって意地悪するんだわ‼︎」
私がお前を愛しているなんてあり得るわけがないだろう。こいつはどこまで馬鹿なんだ。それに、今のはどう見てもお前に非があるに決まっているだろう。
「離せ。」
「私はお前なんか愛していない。勝手なことは言わないでくれるかなぁ?」
目が笑っていない笑顔で告げた。だが、馬鹿はまだ気づかない。
「ジル様!ジル様はシルヴェーヌ様に騙されているんです‼︎早くこっちに来てください‼︎」
「誰か、こいつをここから出しておけ。」
「かしこまりました。」
警備の者がそう言って馬鹿の手を後ろにやり、会場の外に連れ出そうとすると、
「離しなさい!汚い手で触らないで‼︎ジル様!助けてください‼︎」
まだこいつは気付かないのか、私の目が冷めきっていることに。
「早く連れていけ。」
「ジル様‼︎何で!ジル様は私を愛してるはずなのに‼︎意味わかんない!私はヒロインなのに‼︎シルヴェーヌは悪役令嬢なのに虐めてこないし、ジル様は私を睨んでくるし、なんなの?離して!離しなさい‼︎」
そう言って馬鹿は連れていかれた。馬鹿は最後まで馬鹿だった。でも、これで彼女と話せる。
「もう大丈夫だよ、シルヴィ。さて、それでは皆の者!パーティーを再開しよう‼︎」
私がそういうと固まっていたものがほどけ明るい空気に満ちた。皆が笑顔になり、ダンスを始めた。
「シルヴィ、私達も踊ろうか。」
「はいっ!」
私はシルヴィの腰を、力強く、でも、出来るだけ優しく抱き寄せた。するとシルヴィは、嬉しそうだけど困惑したような顔をしていた。
「シルヴィ、どうしたの?」
「いえ…、なんでもないのです。……ただ、殿下が私を愛してくれていると思うと嬉しいのですが、とても恥ずかしくて、でも、幸せで。どうしたらいいのかわからなくなってしまって。」
「〜〜〜っ!かわいいことを言ってくれるね。顔、赤くなってる。」
自然とやわらかで幸せに満ちた空気の中でそろそろ曲の終わりが近づいてきたようだ。
「そろそろ曲が終わる。外に出ようか。」
私は彼女の腰を抱きながらバルコニーへ向かった。
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「シルヴィ」
甘く彼女の名前を呼ぶ。
「はいっ!ジルベルト殿下!」
「ふふっ、緊張しすぎ。もっと力をぬいて。」
彼女はとても初心なようだ。かわいくてたまらない。
私は彼女の背中をそっと撫でた。
「んっ!……殿下、あのっ!」
「ジル」
「殿下?」
「ジルって呼んで。早く貴女の声で私の名前を聞きたい。」
早く愛しい彼女に呼んでほしくて。
「ジ、ル…さま?」
「もう一回。」
「ジル…さま」
それは思った以上に嬉しくてたまらなかった。思わず口元を手で覆うと彼女は上目遣いで私のことを見てきた。。
「ジル様?」
彼女は赤くなっている私を見て照れてしまった。甘い沈黙が続く中、幾分か落ち着いてきた。
「シルヴィ、おいで?」
そう呼ぶと、私は彼女を包み込む様に力強く抱きしめた。そうすると彼女は恥ずかしがって、目を固く瞑ってしまった。その顔がまるでキスをねだっているみたいで。彼女に顔を近づけ、
「その顔、まるでキスをねだっているみたい。」
そう言って口付けをした。彼女が赤くなって混乱している様子がかわいくて思わず笑ってしまった。すると彼女も一緒になって笑う。
「愛している、シルヴィ。」
「私も愛しています、ジル様。」
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あれから私達は結婚した。深く愛し合い、仲はとてもいい。彼女は今では花のように咲い、かわいらしさに加え、大人の色気が出てきている。
他の男共は今更彼女の魅力に気付いたようで気が気でない。早く彼女の子どもが欲しい。彼女の子ならいくらでも愛せる。狂おしいほど愛おしい彼女。早く貴女との子どもが欲しいなぁ。
私の愛を瞳にうつす愛おしい婚約者。彼女の花のような笑顔を得た少年は今日も彼女を咲わせる。
読んでくださりありがとうございます!
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