第9話
釈然としないまま、ケイタが不機嫌さを表情に残し、鍵を回す。
『あれ!?』
解錠の手応えがなく、鍵はするりと回る。
施錠の記憶を手繰るケイタが動きを止めた。
「おい、ケイタ。どうしたよ?」
「シンゴ。俺、鍵閉めたよな?」
「ん!?閉めてたと思うけどどうかしたか?」
「いや、開いてんだよ。なんでだろ?」
「掛け方が甘かったんだろ?いいじゃん、暑いし早く入ろうぜ。」
出ていく時の施錠を逡巡させ、ゆっくり玄関から上がるケイタを押しのけるように三人がなだれ込む。
快適な涼しさに喜ぶ三人とは対称的にケイタの顔が曇る。
「念のためだけどみんな荷物は大丈夫?」
「ケイタ、まだ気にしてんの?心配性だな。」
「いや、やっぱり鍵は掛けたはずなんだ。一応荷物を確認してくれ。」
やれやれといった調子でシンゴとリョウヘイが玄関から手前、ミカがその奥の客間に入る。
リビングルームに荒らされた形跡はない。ということは物盗りが入ったわけではなさそうだったがケイタの胸騒ぎは収まらない。
「俺、他の部屋見てくる。」
飛び出すようにケイタは客間を出た。
「おい!ちょっと、ケイタ!!」
応接室を開ける寸前、シンゴの大声に彼の動きが止まる。
「どうした!?何かなくなってた?」
声を張り上げながらケイタは振り返り、客間へ急ぐ。
「ケイタ・・これ・・」
勢いよく入室したケイタの目に入ったのはシンゴがこちらに画面を向けているスマートフォンだった。
「え、なに・・?」
ケイタは目を細めながらそれに近づき焦点を合わせる。
『!!』
”不在着信 1件 ケイタ“
そしてその上に
“音声 伝言メモ 080~”とケイタの電話番号が記されている。
そんなはずはない。全員が携帯電話は置いて行ったのだ。
「そんな馬鹿な・・」
「なぁに? どうしたの?」
シンゴの声にミカも反応し早足に駆けつける。
「いや、なぜかケイタのスマホから着信が入っててさ・・」
「シンゴ、着信の時間は?」
皆が浮き足立ちそうななか、リョウヘイは冷静さを失っていない。
その一言にはっとしてシンゴがスマートフォンを操作する。
「3時52分。」
そう言って差し出すシンゴのスマートフォンをリョウヘイが覗きこむ。
「今、54分か・・帰ってきた時間とだいたい同じくらいか・・」
「え~!?なにそれ・・怖っ!」
ミカが相対する自分をの二の腕を包むようにして数歩後ずさる。
「とりあえず伝言を聞いてみよう。」
「マジか・・!なんかヤバくないか?」
及び腰な持ち主からスマートフォンを受け取るとリョウヘイは画面をタップして素早くそれに耳をつける。
眉根を寄せて視線を下げるリョウヘイを全員が固唾を飲んで見守る。
「なんて言ってた?」
シンゴが他の二人を代弁して問う。
「分からない。確かに声はケイタっぽいんだけど電波が悪いとこからみたいにノイズが多いし言ってる意味もさっぱりだな・・」
リョウヘイは首を横に振り、直に聞くのが早いとばかりに再び画面を操作してシンゴにスマートフォンを渡す。
「・・なんだこれ!?」
聞き終えるやシンゴは画面の表示に間違いがないかそれをじっと見た。その確認を終えるとスマートフォンはミカへと回る。
「ッ!?なにこれ・・意味わかんない・・」
そしてそれは最後にケイタへと渡る。
怖さはあるが三人の意見が一致している“自分の声”が何を言っているのかの興味のほうが今は勝っている。
【ッエテクサツ!オコヅ!ーオグンイス!オグンイス】
据え置き型の電話での、混線した時のようなノイズの中に聞き慣れない自分の口調らしきものが入っている。それを聞いた瞬間、ケイタの背筋に悪寒が走った。
『俺はここにいる。・・それならこれは誰なんだ!?・・・』