第7話
深夜にトイレに起きたケイタが階段を下りると廊下からの灯りに気づく。訝しく思いながら一階に降りると彼に集中した視線が注がれていた。
「ちょっと待て!動くな!」
『なんだ、みんな起きてたのか・・』
そう言おうとする前にシンゴがケイタを
制する。何かの悪ふざけかと疑ったがどうも雰囲気はそれに似つかわしくない。
「どうしたよ?」
不安げな彼らを前にケイタはそれに応じて問う。彼ら三人の今の不安と疑いが混じったような表情を見るのは初めてだった。それが自分に向けられる意味が分からず、ケイタにも戸惑いが伝播する。
「お前、本当にケイタか?」
「?・・何言ってんの。100%俺じゃん!ちがうやつに見える?」
「いや、だってお前は外に出てったはず・・」
「・・はぁ!?上でずっと寝てたんですけど。」
「いやいや、そんなわけないだろ。俺とリョウヘイの名前を呼びながらドアをノックしてたじゃないか。」
「なにそれ・・?そんなことしてねぇよ。」
ケイタの返事に澱みはない。それを感じとり、シンゴはリョウヘイを見る。
途端にリョウヘイは上目に軽く首を左に傾けたあと、静かに口を開く。
「上に居たんだよな・・?」
「あぁ、間違いなく。・・で今降りてきた。二人とも寝惚けたんじゃねぇの?」
リョウヘイの確認に詰まることなくケイタは答えているだけなのだが、自分と三人の空気が明らかにちがう。まるで酒を飲んで他人に無礼を働き、翌日に記憶のない行動を咎められているような、そんな状況に似ている。
「いや、二人ともが聞き違うことはないよ。それどころか・・」
「あ、ミカちんは!?それ、聞いてんの?」
その先を聞くのが怖くなったケイタはリョウヘイを遮って話をミカに振る。
「あたしはそれ、聞いてないの。爆睡してたからかもだけど・・でも自分の部屋のドアノブがガチャガチャ回ったのは聞いたよ。てっきりシンゴがふざけてると思ったから無視して寝てたけど・・」
「みんな、単に寝惚けただけじゃねぇの?」
「いや、確かにケイタの声だった。な、リョウヘイ。」
「ああ。そもそも俺ら以外に男はケイタしかいないじゃないか。百歩譲ってそれが間違いだとしてもそのあとドアが開いたんだ。他に誰がいるんだよ?」
「え!?いや、待て待て。俺は今まで部屋から出てないよ。大体俺を見たのか?」
「いや・・見てない。でもいつまでも入ってこないと思って部屋を出たらリビングと玄関のドアが開いたままになっててさ、外に行ったと思ってた。」
「?・・じゃあなんで俺が今ここにいるんだよ?」
「それはこっちが聞きたいよ。玄関開けっ放しだし。てっきり眠れなくてコンビニに誘いにきたのかと思ってた。“今から行くか“なんてとリョウヘイと話してたんだけどミカ一人置いとくのもなんだし、それでミカを起こしたんだけどケイタ以外家の鍵を持ってないのに気づいて出られなかったんだ。」
『そんな馬鹿な・・』
そう思いながら足早にケイタは玄関に向かう。遠目にそう見えたように、やはり解錠されている。すぐに土間に目を向けて履き物を調べる。自分のサンダルは・・ある。
すぐにそれを履き、外に出た。潮気と湿度を含んだ生ぬるい空気が体に纏わりつく。煌々としていた満月は地平線に近くにあり、変わらず不気味な赤みを帯びていて、その明かりを頼りに周囲に目を配る。やはり人気はない。
「ケイタ。どうよ。誰もいないだろ?」
『な、聞き間違いじゃないだろ。』
そう言いたげにシンゴが
後ろから出てきてミカ、リョウヘイが後に続く。
「何だったんだ、一体・・」
「まあいいじゃないか。生きてりゃ不思議なこともあるって!」
痼のように不安を抱えるケイタをリョウヘイが宥める。
「起きたついでだから皆でコンビニに行こうか?」
「そうだな。ケイタは皆を無理矢理起こしたからなんか奢れよ。」
「なんでそうなるんだよ!?大体俺じゃねぇし!」
ミカの提案にシンゴが乗っかり再び明るい雰囲気が四人を包んだ。