第6話
姿見の鏡はシンゴとリョウヘイが左右から抱え、突き当たりの鏡から3メートルほど手前、階段を挟む位置に置かれ、鏡面同士が対峙した。廊下の照明がそれぞれに反射して若干その空間が明るくなる。
「・・でどうすんだ?」
シンゴの無計画さに少し呆れながらケイタが先を促す。
「・・よし!間に入ってみっか!じゃんけんで負けた奴な!」
また面倒な展開になってきたとケイタは思ったが、まだ自分が一番に入る確定ではないために嫌だとも言えない。
「いくぞ!さ~いしょ~はグー、あ!じゃんけんぽん!」
示し合わせたかのようにケイタはパー、三人はチョキを出し、一瞬で決着がつく。
「やっぱり俺か・・あ~もう。なんでこんな展開になるんだよ・・だいたい誰だよ、怪談やろうなんて言い出したのは・・」
その途端、ケイタを囃し立てていた三人が人形のように動きを止め、彼を見つめた。
「言い出しっぺはケイタだろ・・?」
『そんなはずはない!』
ゲームをしていて自分はその声を聞いている。しかし誰の声だったかはどうしても思い出せない。そう言いたかったが彼らの不安を含んだ疑いの視線を浴び続けることにケイタは耐えられなかった。
「そ、そうだっけか・・」
仕方なく、彼がとぼけてその場を収めると一時停止したような空気が再び流れ出す。
「やるね、ケイタ!」
「成長したな!そういうのをさっき話してたらMVPだったのに。」
「ケイ君すごい~!」
燥ぐ三人を他所にケイタは割りきれない気持ちに満たされた。
気乗りのしないケイタは重い足取りで彼は鏡の間へ向かう。まずは壁面のそれに顔だけを入れると対面の姿見に壁面に映った自分と対面の後頭部を映す姿見が延々と奥になるほど小さく、無限に続いている。ケイタはその時初めて合わせ鏡が魔力的なものとして語られるのか理解した。そしてその幻想的なものに魅入られるように全身を空間に委ねる。
『!』
『・・・カワレ!カワレ!カワレ!カワレカワレ!カワレ!カワレ!カワレ!・・・』
途端に頭の中で急に『カワレ!』の連呼が脳内に反響する。
「どうよ?ケイタ!」
「う~ん、そっち、なんか聞こえる?」
「え、マジで!?なんか聞こえんの!? 」
「きゃ~!」
「お分かりいただけただろうか・・」
盛り上がる彼らに何でもないと告げ、ケイタは頭上を見渡す。
『自分だけなのか?』
当然彼らには聞こえていないようだ。いや、そもそも聞こえているものでもない。声の質もなければ音程も性別すら判らない。
自分が思考するとき、例えば考えて何かを言う時にイメージを作る。個人差はあるだろうが、その時でも一文がはっきりとは頭に文字としては浮かばない。少なくともケイタはそうである。この脳内に反響するものは何なのか、ケイタは自分が生み出した思考なのかと疑いながらそれに問いかける。
『何なんだ?・・一体!? 誰かと?・・何を?俺はそんなこと考えていない!・・だから黙れ!! 』
だが、それは応えはしないし依頼するわけでも脅迫するでもなく、一方的な呪詛のように絶間なく繰り返し、彼の脳内にへばりつく。
訳は分からないが恐怖するほどのものでもない。皆もいるし普通に話もできる。
それならばケイタには自分の脳しか疑うものが無い。
『何なんだ!一体・・』
全く収まる気配のないそれに戸惑いと苛つきが募る。原因が合わせ鏡の間に入ったからだとは思いたくはないが離れればこれは消えるのだろうか・・。
そう思ったとき、シンゴとリョウヘイが
そこに加わってきた。
「おお、なんかすげー!」
「本当!奥行きが無限に見えるね。」
「ほら、男子!なんか楽しそうなかことやって!」
ミカはそこに入らずスマートフォンで彼らを動画撮影している。
それに応対すべく、シンゴの思いつきにより男三人がジェンガのような踊りをしたり、肩を組んで左右に揺れたりのパフォーマンスを繰り広げたが特に異変はなく、何も映りはしなかった。