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ある夏の彼の覚醒と遺された道標  作者: 富士江 三蔵
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第16話

「ケイタ!ケイタ!」

頬の痛みが、その声がだんだん大きくなっていく。

目を覚ますと自分の顔がべちゃべちゃに濡れていた。


「ケイタ、分かる?」


「あぁ、母さん・・」


虚ろだったケイタの目が徐々に生気を取り戻してゆく。


「戻って・・これたんだ・・あぁ・・」


彼はソファーに座り直し、こうべを垂れてさめざめと泣いた。


「 ・・彼はあんな暗い世界で生きていたんだ・・その世界を・・見せられたんだ・・ 俺がだらしないから・・母さん、みんな、迷惑ばかりかけてごめんね。・・俺、もう弱音を吐かないようにするよ。約束したんだ‥もう一人の自分と。」



それからのケイタはその言葉を実践している。

今の彼のアパートには仏壇がありその中にはカイトの位牌が置かれ、一冊の絵本が添えられている。それは今回の騒動の後に麗美が描いた物である。


― 鏡の中のカイト ―


カイト君はいたずらが大好きでいつもお母さんをこまらせていました。


お母さんはカイト君をしかります。


でもカイト君はいつも同じいいわけをします。


「ぼくじゃないよ。もうひとりのぼくがやったんだ。」


「その子はどこにいるの?」


カイト君はトイレのかがみのなかをゆびさしました。


お母さんはあきれてしまいましたがそれでもカイト君がいい子になると信じてがまんしていました。

でもカイト君のいたずらは止まりません。


ある日、カイト君はお母さんのけいたい電話を電子レンジに入れてこわしてしまいました。

お母さんはおこりました。おしごとに使うだいじなものだからです。


カイト君はいつもと同じいいわけをしました。


「ぼくじゃないよ、もうひとりのぼくがやったんだよ!」


「それならその子をここへよんできてあやまらせて。」


お母さんはいつもとちがってとてもおこっています。


「あぁ、どうしよう。」


カイト君はこまりました。いたずらはぜんぶ自分のしわざなのですから。


「こまっているのかい?たすけてあげようか?」


そのとき、かがみのなかのカイト君がはなしかけてきました。カイト君はうそが本当になっておどろきましたがその子にお母さんがよんでいるとだけいいました。


「じゃあ、ぼくとすこしのあいだ入れかわろう。」


おこられずにすむならとカイト君はよろこびました。


かがみのなかのカイト君はお母さんにあやまりました。しばらくおこっていたお母さんもすぐにやさしいお母さんにもどりました。


かがみのなかでまっていたカイト君の前に入れかわったカイト君がやってきました。


「じゃあ、もとにもどろう。」


カイト君がいいましたが入れかわったカイト君はくびをよこにふりました。


「ウソつきカイト君、きみがしているのはこういうことなんだよ。」



― 了 ―

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