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ある夏の彼の覚醒と遺された道標  作者: 富士江 三蔵
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第14話

コンビニもやはり真っ暗で閉まっていた。当然人気ひとけはない。


『一体どうなってるんだ?これからどうすりゃいいんだ・・』


途方に暮れるケイタの目に更なる異変が飛び込む。遠方だが、空と地面の境界がなくなっていてそれがじわりとこちらへ迫っているように感じた。


“闇が総てを呑み込もうとしている”


直感的にそう思うと同時に彼はそれから逃げるように全速で家に戻った。慌てていて先程は見ていなかったがアロワナも姿を消している。どう考えても明らかに自分は生き物の気配のない、異質な世界にいる。最後の頼みの綱だった“悪夢”ではない。コンビニ前でそう推理したが目は覚めず、右側頭部を掌底で殴打してもくぐもった鈍い音だけが頭に響き、成果は得られなかった。


『助けて!誰か・・』


彼は思い立ち、自室へ急ぐ。そしてスマートフォンを手に取ると一縷いちるの望みを託して シンゴへと発信した。


『つながった!』


その画面を見て、ケイタは辛うじて希望を保つと同時に暗闇を僅かに照らす自分のスマートフォンだけがこの異質な世界と元の世界を繋いでいる、そんな感覚を覚えた。


『頼む!出ろ!出てくれ!』


音が分からないため、画面をじっと見つめる。だが、彼は出ない。


「シンゴ!シンゴ!どこ!助けて!」


留守番電話に接続されているかもしれないが耳でそれを確認できないケイタはひたすら繰り返し叫んだ。

やがて画面の光は消え、彼は再び真の静寂に包まれる。


『もう一度!』


そう思ってスマートフォンを操作するが死んでしまったようにそれはもう反応しない。


「・・母さん、助けて・・!」


半泣きになり、そう呟く。


その途端に玄関のドアが開いた。


願いが叶ったかのようなタイミングの良さに一瞬、彼は喜びかけたが次の瞬間にはそれが期待とは真逆の者であることを認識する。侵入者は暗がりの中にあって尚、黒い輪郭をはっきりとさせた、自分と同じようなシルエットを持った立体的な影のように映った。言葉を失いおののくケイタにそれはゆっくりと音もなく近づく。


『来るな!こっちへ来るな!!』


そう思っても声も出ない。

無意識に後ずさっていたケイタは壁面の鏡に右足が当たったことで追い詰められたことを知る。本能が自然に低めの体勢をとり頭を庇うように両手が前に出た。


やがてそれはケイタと50㎝ほどの距離まで来ると動きを止める。


「ジカンダ。カワレ。」


影は唸るように言うとさらに一歩ケイタの目前に迫る。


『ひっ!』


声なき悲鳴をあげ、ケイタは廊下の端へ向きを変え後ずさった。


「今日から俺がケイタだ。」


怖いながらも、いや、だからこそ目線の切れないその存在は腕の隙間の狭いアングルで影から実体へと変化を遂げてゆく。それは十秒ほどで完全に自分と瓜二つの容姿に完成した。


『!?』


その時ケイタは自分の異変に気づく。体の前面に出した自分の両手が影のように黒い輪郭を作っていたのだ。


『あああああ!!・・・・俺の体が!?・・』


「じゃあな。」


実体と成った影はすり抜けるように鏡の中へと消えて行った。


「待て!待って!!・・」


やっと体の自由を取り戻したケイタも後へと続こうとするが彼は鏡の中に受け入れてもらえなかった。


「誰か・・誰か助けて・・!」


泣きながらケイタはその場にくずおれた。


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