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ある夏の彼の覚醒と遺された道標  作者: 富士江 三蔵
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第12話

気がつくとケイタは四つん這いで暗い廊下の突き当たりである鏡の前にいた。

リョウヘイの提案で覆われていたタオルケットは無く、不意に額の当たるような距離で相対する鏡に映ったケイタは自分同様にこちらを見つめている。ソファーで寝るまでの記憶しかない彼は喫驚して尻餅をつく。


『あれ?確かソファーで寝てたはず・・』


訝しく思いながら立ち上がると合わせ鏡の時同様の声なき声が頭に流れ込む。


『オマエヲツレテイッテヤル』


合わせ鏡の時より強く、重いそれは距離感などなく脳内から放たれたようにケイタの全身に響く。


『ひっ!』


悲鳴を発することもできず、彼は本能のまま逃げ出そうと振り返ったが足が動かず、そのままケイタは突っ伏したように倒れた。見えないが、いや見たくはないが何者かが自分の両足首を強い力で掴み、足元へと引っ張り、彼はなすすべもなく鏡の中に引き込まれていった。



再び気がつくと闇ではなかった。

目の前には酔って顔を紅潮させた目の座った自分がいる。じっとこちらを見る彼から目を逸らすことも自分の意思で動くこともできない。正しくはケイタは対面している自分と同じ動作しか出来ないのだ。


『おい、なんだよこれ!?』


眼球さえ思うままに動かせないが雰囲気で自分のアパートであることは理解できる。しかしそれは今までに見たことのない角度からの、鏡から見た構図だった。



「なんだよ、全く!くだらねーことばっかだな!これから楽しいことなんてあんのか?・・生きてて何の意味があるってんだ・・」


ケイタは正気を失い、喚き散らしてもおかしくない状況だったが対面する自分に操られるようにその動作を同時に真似ることしかできず、当然発せられる言葉は誓約するように同時復唱させられる。


「冴えねー奴だな・・お前、俺と代わってやろうか?」


そのとき、ケイタはやっと思い至った。対面しているのは振られて飲んだ日の自分なのだ。


“ ケイタは普段からネガティブな発言が多いだろ?“もう死ぬ”とか“やってられない”とか“どうせ俺なんて”とか・・それが積もって自分への呪いみたいな作用が働いて、合わせ鏡をきっかけにそいつが具現化したんじゃないかと俺は思ってる ”


囁くようにリョウヘイの言葉が頭をよぎる。


『そうだ。これが原因だったんだ。俺の言ったことが実現してしまったんだ・・』


対面する自分は歪な笑みを浮かべ、背を向けた。ケイタもそれに従う。


「なーんてな。」


『待て!待ってくれ!冗談だ!口が滑っただけなんだ!頼む!助けて!助けて!』


口を開くこともできず、涙も流せず彼は懇願するがそれも虚しく照明のスイッチの音が再びケイタを闇の中へと連れ去った。


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