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ある夏の彼の覚醒と遺された道標  作者: 富士江 三蔵
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第11話

幼いケイタが廊下で熱心にブロック遊びに興じている。本人には心に決めた作りたいものがあるのだろうが組み立てられつつあるものからそれを読み取るのは不可能に近い。


「何を作ってるの?」


「ヘリコプター。」


幼いケイタは振り向きもせずに答える。


「ブロック・・好きなんだね。」


「君は誰?」


ケイタの質問には答えず、彼は闇雲にブロックを繋げながら質問を返す。


「ケイタって言うんだ。」


「ケイタは僕だよ。」


「僕もケイタなんだ。」


それに反応して彼は手を止め、座ったままケイタを見上げる。


「へんなの。」


彼はケイタを一瞥いちべつしながらも驚かず、人見知りな様子でまたブロックを触りだした。


「ケイタは寂しくないの?」


「・・別に・・」


「いつも一人でお留守番なんて偉いね。」


「そうかな。・・ケイタはどこの子?」


「この家・・かな。」


「じゃあ、お兄ちゃん!?」


兄弟が欲しかった彼は、期待に満ちた瞳で再びケイタを凝視する。


「いや、そういうわけでも・・」


「ちがうの?」


「ちがくないけど違うかな・・」


「なにそれ!へんなの。」


そう言って彼は笑った。久しぶりに母親以外と話したせいか、ブロック遊びでの没頭するようでありながらも曇っていた表情は無邪気なものへと一変した。


「ただいま~!」


その声に彼は振り向き、全てを忘れたかのように一直線に声の元へと走り出す。


「ただいま、ケイタ。いい子にしてた?すぐご飯にするからね。」


買い物袋を両手に下げた母の下腹部に頭をうづめ、彼は彼女の腿を抱きしめた。


「あら、ケイちゃん、今日は甘えん坊さんね。寂しかった?」


「ううん、ケイタがいたから寂しくなかったよ!」


途端に麗美が小首をかしげる。


「誰か入ってきたの?」


「ううん、そこにいるよ、ほら!」


訝し気にこちらを見る麗美の視線がそれを捜し、ふとケイタと目が合った。


『あ、あの僕・・』


怪しいものではないと伝えたいが声が出ない。


しばらく視線を固めていた麗美の視線が外れ眼球が忙しく動く。どうやら自分は見えていないようだ。


「ケイタ、リビングに行きなさい。」


返事をすると彼は元気に駆け出した。


麗美はその場に残り、慣れた様子でブロックを容器に片付けてゆく。

それを終えた後ろ姿の麗美が急に振り向いた。


「ケイタと遊んでくれてありがとう。でもね、ここはあなたの居ていい所じゃないの。帰りなさい。」


今まで麗美のこれほど冷たい表情を見たことはない。


『ちがうんです!俺は・・』




それが言葉になってケイタは目を覚ました。


「大丈夫か?ケイタ。うなされてたみたいだけど・・」


「お、起きたか!」


「ケイタ、調子はどう?」


リョウヘイの声に反応してシンゴとミカがゲームを中断してケイタの元へと集まる。


「・・夢を・・見てた。小さい時の俺に会ったんだ・・親がさ、俺に帰れって・・」


妙にリアルな夢にショックを受けたのか、寝惚けているかのようにその内容を訥々(とつとつ)と述懐じゅっかいするケイタは無理に作った笑みを浮かべた。


「嫌な夢だったのか?ケイタ、大丈夫。夢だよ、ただの夢。昨日は長時間運転もしてるし疲れてただけだ。気分変えてゲームしようぜ。」


「なんか、昔・・一人で遊んでた時にもう一人の自分と話したような気がする。・・ずっと忘れてたけど、今、思い出した・・」


シンゴの言葉が耳に届かない様子で、ケイタは続けた。


「ずっと昔のことだから夢の記憶なのかもしれない。人間の記憶なんて曖昧なもんだよ。」


「今ここにいるケイタが存在してるからそれでいいじゃん。もう、ケイ君寝過ぎ~。みんなで遊ぼ。もう7時だよ。陽も暮れちゃったよ~。」


起ききれていない彼はリョウヘイの見解とミカの誘いに生返事で答える。


「ごめん、すごく眠いんだ・・」


「分かった。じゃあ9時に飯にするからそれまでに起きなかったらその時に起こすよ。今夜はミカちんが料理がんばるってさ。・・明日は俺とシンゴが運転するから今夜は少し飲めよ。」


「ありがとう・・」


呟くように言うと彼は座っていたソファーで横になり、再び意識を失った。

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