クーレム・シュトフの魔法
その青年の年はリターと同じくらいだが、リターの身長が172cmなのに対し、彼は185cmとかなり高めだ。そのサラサラな金髪は男にしては少し長い。容姿端麗で頭脳明晰、運動能力も高い。村中の女の子を独り占め出来る程のスペックがあるが、常に人を見下しており、また影から人を動かすような性格をしているためモテることはない。だが、リターは彼と仲良くしている。なぜなら、彼が悪人ではないことはリターの人を見る目が自信を持って頷いているからである。
「リター、エレナさんは?どこか知らないか?」
「いんやぁ、知らんけども?…エレナに何かあったのか?」
少しの間の後ガラッと空気が変わる。
「おいジード…そいつぁどういうことだぁ?」
「クールスターを訪ねたのだがいなかったから聞いたんだ。」
「んだと?」
短く言ってクールスターに向かい、全速力で走っていく。30秒としないうちにクールスターについた。そこにあるものは異様で禍々しいものだった。木製の扉がそのまま炭になり崩れている。その奥に人の形をした炭が落ちていた。サイズは、まるでエレナと同じくらいだ。よくみると体型もそうだ。だが、リターは信じていた。信じようとした。そうしないと生きることすらできなくなるから。『エレナは誰かに拐われてしまった。』と自分に言い聞かせた。
「リター!これは俺が来た時にはなかった!一体これはなんだ⁉︎」
「なに!」
後ろから駆け付けたジードのその発言によりリターは確信できた『エレナは生きている』と。
コトッ
ジードの後ろに杖の音ともに人が1人現れる。
「どおォォも今日は。わたあァァしの名前は『クーレム・シュトフ』。以後お見知り置きを。」
クーレム・シュトフと名乗る男は、シルクハットにタキシード姿で、中世ヨーロッパ貴族風の、目の周りだけ隠れる派手な仮面をつけている。そして気になるのが、やたらとダイヤモンドの装飾された杖と、両手の人差し指と中指にそれぞれ二つずつはめられたダイヤモンドの指輪だ。金持ちなのが一眼でわかる。と、クーレムはしゃがんで木の床に手をつける。すると床がみるみる炭になっていく。床の炭化はどんどんと床全体を蝕んで、終いにはリターとジードの周りを囲む形になった。クーレムは立ち上がると、ニヤリと口角を歪ませて右手をジードに向けて伸ばし、指をパチンと鳴らす。
ザクンッ‼︎
「クヌッ!」
炭化した床が変化しキラキラと光る綺麗な宝石のような刃になり、ジードの右手、肘から下を切断した。
「これだけ見せられれば分かる、貴様の魔法がなんなのかね!」
腕を切られているにも関わらず自信げなジードにクーレムは驚く。
「腕を切られてなぜ⁉︎なあァァんでそんなに冷静なんだ?」
「俺も、魔法が使えるからだ…」
すると、ジードの切れた腕の断面と断面に鈍い光の糸のようなものがバチバチ音を立てて繋がる。その糸のようなものは縮んで腕の断面と断面を繋げる。
「俺の魔法【結び】は二つのものをくっつけて一つにする魔法だ!」
「だあァァからと言ってこの私に勝てるわけじゃないね」
「あぁ、そうだな。おれの魔法はどちらかといえばヒーラー向き…でもないんだな。」
ジードはしゃがんで炭化した床に右の拳をつける。
バチバチッ
鈍い光とともにジードの右手は炭化した床と結び付く。それを見るクーレムは両手を目一杯広げ少し仰け反り、思いっきり嘲笑う。
「はあァァァァァァハッハッハッヒッヒッ」
そして、ジードを指差して顎を突き出して言う。
「自らの動きを封じるとはお前バァァカなのか?」
ドゴボッ
ダイヤモンドの拳がクーレムの顎を突き上げぶっ飛ばす。空中で一回転し、石畳みの道に額を叩きつけ仮面が割れる。
「ウルュルュルュルッルッルュラリラリリリ」
クーレムはブツブツと呟くように奇声を発する。それに向かいジードが胸を張り左手を腰に当てて、右手でクーレムを指差し上から目線で言う。
「俺と床を結んだと言うことは、床も俺の体の一部なんだぞ?自分の体なら動かせる!」
ジードが笑いながらクーレムに歩み寄る。クーレムは拳をダイヤモンドに変えて構える。それに合わせてジードも構える。と、クーレムはクルリと方向転換し走り去って行く。ジードが追いかけて走り出す。リターはポカンとしていた。が、すぐに町の地図を出した。
「クールスターはここ!んで、さっきの悪魔を陽動と考えて…広場はここ、広場からクールスターの方向へ線を引いてその先には…………!クソが!」
リターは毒づき走り出す。その顔は怒り一色といったものだ。眉間にシワがより歯をむき出し走り出す。
「Kohlenstoff」“クーレムシュトフ”
ドイツ語で炭素を表します。