誕生日と置き手紙
誕生日
帰り道、リターはふとエレナにきいた。
「お店の名前なんだっけ?」
「ん?なんのお店?」
「宿屋兼料理屋にしてエレナの実家」
「もしかして今まで知らなかったの?」
「だってさ…考えてみるとエレナが俺を運んでくれた時は目覚めたの自体店内で…でその翌日、朝は妙にドキドキして看板見てなくて…帰ってくる時には子供達とのゴタゴタで疲れて少し下向きながら歩いてて…その後、森での稚竜事件の帰りは…その…エレナばっか見てて看板見てなくて…いやぁ考えてみると出会ってまだ3日なんだよね?」
「そうなのよねぇ…で、えっと、うちの店の名前は〈クールスター〉よ!」
「えっ?もっかい言って?」
「クールスター」
「マジでか⁉︎」
「なに驚いてんの?」
「いや別に、俺の帰って来る場所の名前なんだなぁと思ってね」
「そうねぇ」
朝の賑わいがある商店街の中で、しみじみと考える二人の空気を読まずにぶち壊した男がいた。
「ヨォォォォウちと悪いが尋ねたい!クールスターってどこか分かるン?いやなに怪しいもんじゃァァァナイッ!ただただ単に頼まれごとさァネ!」
「うちです」
「オォォォウッマイッッッッッガァッ‼︎なんてこったい!こりゃ運命さネェッ‼︎是非招いてくれ」
「どなたですか?」
リターは先程から、その男に疑いの目をジトリと向けたまま瞬き一つせずに抑揚なく言葉を発している。それを気にせず、いや気付かずに男は名乗り出した。
「オットォこりゃ失礼!俺の名前はァアランだ!『アラン・V・ドラクル』クールスターの旦那の親戚さァネ!」
「えっ⁉︎」
これに驚いたのはエレナである。
「どう言った親戚でしょう?」
「甥っ子さァネ!」
「えっ!てことは私の叔父さん?てことですか?」
「ほぉ!てこたぁつまり君がエレナちゃんダァネェ!」
と、男が急に真顔になった。目の奥がほんの一瞬赤く光る。
「さっそくで悪いが、ゼアルズさん…君のお父さんに合わせて欲しい。頼みごとがあってね。」
「わかりました。」
エレナは先導して先を進んでいる。その後ろを付いていこうとするアランの腕をリターが掴んで止める。
「テメェ、人じゃねェな?今一瞬目の奥が赤くなったぞ?吸血鬼か?」
「そうだが秘密だァゼ?」
「エレナには手出しさせねえからな?」
「しないよ」
リターの疑心と殺意の篭った目は流石のアランにも伝わった。その上でしないよと言ったのだから、それは本心と考えて問題ないだろう。
二人が帰ってからアランを紹介した後に突然火薬の炸裂音がクールスターの中を駆け巡った。そして、エレナには金や銀や赤色のひらひらとした紙がかかる。その発射口をエレナに向けているのはリターと父のゼアルズだ。
「「誕生日おめでとう‼️18歳だね!」」
二人は放った後のクラッカーを手に、エレナを祝う。誕生日会の始まりだ。
結局その日は夜遅くまで…途中から村中の人々が集まって騒ぎまくっていた。
人々が帰りリターとエレナが眠った後の灯りの消えたクールスターの一室から、小さな灯りが漏れていた。その光源は、一本の蝋燭だ。その灯りに映し出される人影は二人。アランとゼアルズだ。蝋燭の灯りは二人の表情を照らすにはあまりにも弱く、二人の顔はほとんど見えない。ただ、二人の赤く光る目だけは、闇の中でやけにハッキリとしていた。密談というに相応しい二人の会話は、二人にしか聞こえない声量で、他の誰にも聞こえない。
翌日、朝日の出る前にゼアルズとアランは置き手紙を残して村を出た。