恋人からの宗教の勧め
朝日が差し込む礼拝堂で、今日もまた神に祈りを捧げる麗しき娘がいる。昨日、命の恩人にして最愛の人にキスをした彼女が祈りを捧げている間、眠そうにあくびをして礼拝堂の外で彼女を待っているのはその最愛の人である。
とその時、奥から、黒髪をオールバックにしていかにもな服装で娘に話しかけたのは、何を隠そうファルソ・ディオ教の現教祖様だ。
「エレナよ。其方の命の恩人リターはこの宗教に入らないのかね?」
「よろしいのですか!?彼はつい先日この村に来たばかりの身元の分からぬ不審者ですよ!」
「構わんよ。身元不明不明の不審者だとしても、彼は愛する人のために命を懸けた。それは正しい心を持っている証拠だ。彼の様な人は是非とも我等が宗教にて歓迎したい。」
「はい!外で待っているので連れてまいります!」
「頼んだよ」
「はい!」
突然、すごい勢いで開いたドアは、よたれかかっていたリターを突き飛ばし、リターは階段から落ちてしまった。エレナは焦りながらリターに駆け寄った。
「ファルソ・ディオ教に入らない!?」
するとリターはエレナの二の腕をガッシリと掴んで言った。
「ゴメンが先だろ!俺!怪我人!わかる?体中包帯グルグルで、打撲と切り傷とその他諸々の負傷でいっぱいなの!今日で18才だよね?そこに気付こうよ!?」
「ゴ…ゴメンゴメン!そんな怒んないで!ね?んで?入るわよね?」
「ん〜いや…入んねーわ」
「何で!?」
「宗教もそうだが、何かしらの大きなグループに入ったりするのはこりごりでね!もちろん、ファルソ・ディオ教の教えは凄くいいと思うよ。互いに優しく愛を持って人に接する。人の立場に立って物事を考える。とっても大事な道徳的精神だ。けど、その正しさを知っているなら、わざわざ宗教に入って学ぶこともねーと思うんだよね。」
「そんな〜。せっかく毎日リターとお祈りに行けると思ったのに〜。」
「いやいや!こんな早起き毎日なんて無理無理、出来ない‼︎それにさ。俺は神様よりもエレナを信じてるから、そんな俺が宗教入っても意味ないと思うんだ。」
「またぁ〜、そんな適当なこと言ってぇ!リターはいつもそうなんだから!」
朝の白い光に照らされて青みがかってきた礼拝堂の前で、二人は結局惚気ている。
「いヤァー二人とも熱々だね〜」
「教祖様!」
「あはは〜、えっと〜どうも!リターです」
「きみにその気がないなら仕方ない。気が向いたらで良いぞ。」
「はぁ…」