第壱章 リターとエレナの出逢い篇
ー第壱章ー
自称剣士リターと教徒エレナの出逢い篇
メンシェンベルトとその宗教について
王都からだいぶ離れた森の奥に《メンシェンベルト》という村がある。この村は、古くからある《ファルソ・ディオ教》という宗教が根付いている。そのファルソ・ディオ教はメンシェンベルトの成り立ちや人々が日々どういうふうに振舞うべきか、自分とどう向き合うべきかといった教えである。メンシェンベルトの人々全員がこの宗教の信徒だが、この村以外では全く知られぬ宗教でもある。
ファルソ・ディオ教徒エレナ
朝早くから男達が教会に群がっている。この 村の週一の光景だ。この村のマドンナにして信仰深きファルソ・ディオ教徒のエレナが、日曜日の朝のお祈りに来ている。それを見に来ている、あるいはお祈りに来たふりして近づこうとする輩である。エレナはエレナで自分がモテていることに全く気付いていない。従ってエレナはスケベどものことを自分と同じ信仰深き信徒だと信じている。
その日は、エレナの家の料理屋兼宿屋〈クールスター〉のマスターにしてエレナの父親が薬草やつまものがないと言ってエレナを森に行かせた。エレナが森に入ってから一時間と少しした頃、森の北側、王都の近くで一人の男が森に入っていった。
「腹減った。何か食べ物…」
男は虚ろな目でふらつきながら森に入っていった。
それから数時間後、エレナは薬草やつまものになりそうな葉っぱを摘めるだけ摘んで籠はいっぱいになった。
「さってっとぉ〜、そろそろ帰ろうかな!」
エレナは帰ろうとして辺りを見回す。と、紅い生地で、肩から袖まで紺のラインの入ったロングコートを着た若い男が倒れている。エレナは怪しんだがそれ以上に心配した。
「あ…あのぉ?大丈夫ですか?」
「はりゃふぇったゃぁ〜〜」
「へっ?なんて?」
「ミ…ルク⁉︎」
「え………っと?…………」
しばらく悩んでから気付いて顔を真っ赤にして拳に〈痴漢撃退〉の呪文を込めて放った。
「変態‼️サイッッッテーーー‼️」
「ぎゃぶろっふぁ!!」
男は変な断末魔の叫びを上げて気を失った。先程の目的を思い出したエレナは、不愉快極まりないがその男を村まで運んだ。
エレナは自宅の料理屋兼宿屋クールスターまで運び込むと叩き起こして父親の料理を食べさせた。
「ありがとう!ご馳走さまー!」
男は明るくそう言うと席を立ち扉に向かった。
「ちょっと!どこか行く宛でもあるの?」
「ん〜〜まぁ!どうにかするよ!」
男は少年のような笑顔でエレナに笑いかけ、ドアノブに手をかける。するとエレナが少し悩みながらもいった。
「ここ、二階で宿屋やってるんだけど?…」