たまにはこういうときもあるんです
はい、少し間が空いていしまい申し訳ございません。ちょっと正月の親戚周りとか学校の課題とかリゼロ見たりしてました。
昇りくる光の化身が夜闇を切り裂き、今日という日の開演を告げる時刻。人々の人生のサイクルを掌握している光の化身の放つ光線はが、僕の目を焼き、否応なしに意識を覚醒させられる。
具体的には六時くらいだ。徹夜明けのテンションって怖いね。太陽が昇ってきたよーって言うのをこれだけ大げさに言えるんだから。
今、僕がいるのは、オルドの外壁の上。そこから戦い終わって、昂ぶったままだったり泣き出したりしている人たちを見下ろしている。
長き夜の戦いは終わりを告げた。長きの封印から解き放たれた巨神は無事僕が倒したし、その巨神たちが呼び出した魔物たちは、リンネとノルン率いる冒険者たちに討伐されている。あれ?冒険者を率いてたのはおっさんだったっけ?……まぁ、どうでもいいか。
リンネとノルン、そして月夜叉は疲れて寝ている。体力気力魔力をほとんど使い果たしていたしね。リンネは正面門の魔物を古代魔法で殲滅。月夜叉は西門付近に集まっていた魔物をほぼ一人で壊滅させたらしい。ノルンに至っては、魔王を一体倒したみたいだしね。「相性がよかった」って言ってたから、魔法特化の魔王だったのかな?
冒険者たちは、やっぱり死人が結構出ている。今も仲間の死体のそばで泣き崩れている冒険者をちらほらと見かける。しかし、あの物量差でこの被害は大金星と言ってもいいそうだ。オッサンが聞いてもいないのに教えてくれた。
町の人たちも、次々と避難から日常に戻っていっている。彼らにとって、僕たちが戦っていたことはまるで別世界のことなのだろうか?なーんて、ほっとした表情で自宅へと帰る彼らを微妙な表情で見送る。
正直に言えば、今、少し気分が悪い。いや、別に能天気な町の住民にイライラしているわけではない。そんな八つ当たりみたいなことをするのは、全くのお門違いだからだ。さっきの無理やり感のあるハイテンションも、気がまぎれないかとやってみた。むなしさといら立ちが強まっただけだった。畜生……。
僕が何にイライラしているのかというと……………………僕自身に、だ。
巨神を全力全開の魔法でぶっ飛ばした後、あの白い空間で聖神アイリスと突然の再開をした。そこで聖神アイリスが言った『ゲーム』という言葉。それが僕の心に針のようにチクチクと刺激を与えてくる。聖神と話しているときは大して気にならなかったけど、こうして町を見ていると、その痛みはどんどん大きくなっていく。
僕にとって、この戦いは聖神アイリスとのゲームだった。そう、僕にとっては。でも、ここから見える彼らは違う。完全な被害者。ただ巻き込まれただけの不幸な人たち。彼らはそんなことを知らない。だから、仲間が死んだのは自分たちの実力不足だと思ってるだろうし、町の住民たちはいきなり災害に襲われたような気分だろう。
彼にとって、僕は死神以外の何物でもないだろう。僕がこうして視線を向けてくることだって許せることじゃない。でも、僕が何も言われず、恨みの一つも向けられないのは、彼らが何も知らないから。
「知らぬが仏……ってね。ははっ、笑えない」
思わず、そう自嘲気味に笑ってしまった。こんな疫病神は、とっととこの町からおさらばした方がいいだろう。そうだなぁ、僕の周りにいたら、皆不幸になるんじゃないか?だったらいっそ、みんな寝てるこの瞬間を狙って………。
「えいっ」
ぷにっ、と僕の頬を誰かの手が押しつぶした。そのままグニグニと好き放題いじくられる僕の頬っぺた。こねくり回されたり、伸ばされたり、つねられたり………って。
「………ナルア?」
「えへへ、そーだよ!」
僕の頬っぺたをおもちゃにしていたのは、後ろから抱き着くようにして密着してきたナルアだった。可愛いな畜生………。
「あれ?ナルアはリンネたちと一緒に休んでたんじゃないの?体、まだきついんでしょ」
「うん。でもネクロにくっついていた方が早く治ると思うんだ。だから、こうやってくっついてるの」
「………………そっすか」
「あ、ネクロ照れてるー!」
「テレテナイヨー」
嘘です。顔真っ赤です。
可愛すぎるわ今畜生!なんか悩みとか全部吹っ飛んでいきそうな……あ、だめだ。一過性のものだった。また心の中に暗雲が立ち込めている。ちょっとガチへこみかもです。うぅ……。
と、僕が生気のない目で乾いた笑いを浮かべていると、背中に、やさしく、包み込むようなぬくもりを感じた。僕の頬から離された手は、僕の手を包み込んでいる。
ナルアはそっと僕を抱きしめている。何か言葉を発するわけでもなく。ただ黙って抱きしめているだけだ。時折、僕の首筋にナルアの吐息がかかる。ナルアのすべてが僕を包み込んでくれているようで、すさんでいた心が少しだけ軽くなった気がした。
そうして、沈黙が場を支配した。そこに張り詰めた雰囲気はない。陽だまりでうとうとしているような、風の音しか聞こえないような、静寂。
朝の陽ざしが、僕を真正面から照り付ける。浄化の光を浴びているようだ。そんなことになったら存在が邪悪の塊みたいな僕が、大変なことになるけどね。それでも、その光は確かに僕の心の闇を少しだけ消してくれた。
「僕はさ、病気なんだよ」
気が付けば、言葉が口から滑り出ていた。
「誰もが一度は患ってしまう、そんなありふれた病気。ほとんどの人がかかってから一年くらいで治ってしまうような病気。でも、僕はまだその病から解放されてない」
そう、馬鹿でさえ死ねば治るというのに、僕の病は一度死んでも治っていない。
「どんな病気かって?難しいな………。症状は人によってさまざま。言動がおかしくなったり、記憶に齟齬が出たり、在りもしない妄言を吐いたり……まぁ、これだけ聞くと精神病見たく思われるか……。ここまでひどくなるのは、少数派だよ」
僕は………その少数派には入っていないと信じたい。さすがに前世でも指ぬきグローブとかマフラーとかはしてなかった。そんなん恥ずかしくてできるか。
「この病気の名前は、中二病。大体中学二年生……十四歳くらいの時にかかるからそういわれている。この病気の主な症状は、自分が特別な存在だと思ってしまうこと、自分だけの世界を作り出してしまうこと」
少なくとも、僕は中二病をそういうものだと認識している。僕は僕という一人だけの特別であり、この世界は自分視点で物事が起きていると、そう思っていた。
その思考に拍車をかけたのが、異世界への転生。
ラノベやアニメではさんざん読んだり見たりしていたこの出来事が、まさか直接降りかかってくるなんて、誰に想像できるだろう。そんな非現実な非日常に、僕は浮かれていた。
ゲームの中の勇者のような、おとぎ話の英雄のような、俺TUEEEEEE!系ラノベのチート主人公のような。そんな、何もかもがうまくいくご都合主義な存在だと、そう思っていたのだ。
「結局僕は、中二病が治っていない。駄目な奴ってことだよ」
そういって、また自嘲気味に笑う。
もちろん、中二病に完全に支配されていたわけではない。でも、そんな考えが僕の中にあったことは、まぎれもない事実だ。
でも、僕は特別でも何でもない。死ぬときは死ぬし、守れないものだってある。それを、この巨神との戦いで痛感した。
身の程を知れ、そういわれているように感じた。
「僕にできることって、何なんだろうね。こんなに愚かで、愚純で、馬鹿で、考えなしな僕に、何ができるというんだろう。……僕は、特別でも何でもない。ただ、持っている力が他人よりも大きいだけの子供。その子供のわがままに巻き込まれたのが、この町の人たち。……あと、リンネたちも」
しょうがないといえばしょうがない。僕だって聖神アイリスの悪ふざけでこちらの世界に引きずり込まれた、いわば被害者のようなものなのだから。だからと言って、オルドやリンネたちを巻き込んでいい理由にはならない。
……やっぱり僕は、こうやって人の中で生きていくのは不可能なのだろうか?魔物で、オルドの町なら簡単に滅ぼせる程度の力を持っている僕では……。
そうやってまた落ち込みかけていると、これまで黙って僕の話を聞いていたナルアが、「そっか……」と小さくつぶやくと。
「えいっ」
パッと僕から手を離し、そのまま外壁の上からなんのためらいもなく飛び降り……………って、えぇええええええええええええええええええええ!!!
何してるの!?という突っ込みより先に、体が動く。しかし、その動きは封印のせいで繊細を欠くものだ。加えて、ナルアは僕の称号を解放するためにかなりの力を使っている。このまま落ちたら、やばいことになる!
ナルアは地面に向けて落下しているというのに、僕のほうに眼差しを向け、その口元には変わらぬ笑みが張り付いている。
ならば、と重力魔法を発動。自分の重さを数倍に引き上げて、落下速度を上げて自分も落ちていく。間に合ってくれよ…っ!
ナルアに追いつき、その体を抱きしめるのにも成功した。あとは、落下をどうにかするだけだ。重力魔法の効果を反転。そして[浮遊]を発動させる。
そして………。
「っ、ぁあああああああああああああああ」
無事、着地に成功。それと同時に思いっきり安堵のため息を吐く。たぶん巨神との戦いよりも緊張した
……。
「ナルア!なんでこんなこと「やっぱり、そうだ」……え?」
僕の言葉を遮るようにして、ナルアがそう言った。そのまなざしはどこまでも清らかで、美しく、そして優し気だった。
「ネクロは、自分は特別じゃないって言ったよね?」
「う、うん……」
ナルアは僕の腕の中から身を乗り出すようにして、顔を僕に近づける。
「でも、私にとって、ネクロは特別。ネクロの代わりなんて絶対いないって思えるくらいには、特別だと思ってる。……確かに、ここにいる人たちがこの戦いに巻き込まれたのは、ネクロがここに来たからかもしれない。でも、ネクロだけに責任があるわけじゃないでしょ?こんなところに巨神を封印した人だって悪いし、そもそもゲームなんてものを始めたアイリスが悪い。ネクロだけがそうやって気にすることじゃないんだよ」
「だ、だけど……僕のせいで、皆を巻き込んでるのは、事実だし……」
「町の人たちは知らないとして……。リンネたちが、それを責めたことがある?ノルンも月夜叉も、ネクロのことを迷惑だなんて考えたことはないよ。それに、リンネとノルンがネクロと一緒にいるのが、『仲間だから』なんて理由だけじゃないのは知ってるでしょ?」
「そ、それは……」
確かに、リンネとノルンが僕に向けている感情が、ただの親愛じゃないことくらいは、とっくに気づいている。僕にはナルアがいるので二人とそういう関係になったりすることはない。こちらからも、仲間としての行動以上のことをしないように心掛けている。
「…………たぶん、わきまえてるから大丈夫みたいなこと考えてるんだと思うんだけど……。二人からしたら、自分のことを真剣に考えてくれてるっていうことになるんだけど……」
なぜかナルアから送られてくる視線がジト目になっていた。な、なんで……?う、浮気とかしてないよ、マジで!
「たとえネクロがリンネたちと離れようとしても、リンネたちはそれを許さない。泣かれるよ、絶対」
「そう……だね。それは、嫌だな」
「でしょ?それに、ネクロが私のことを遠ざけたとしても、私がそれを許さない。地の果てまで追いかけてやるんだから」
「はははっ、確かに、ナルアから逃げるのは無理かなー」
冗談っぽくそういうナルアに、思わず笑みが漏れた。ナルアが浮かべている笑顔、それを見ることができなくなるなんて、僕には耐えられないことだ。邪神様からは逃げられない。
結局、僕が考えてることは、どうしようもないことなのかもしれない。僕がいたから、そんな風に考えていたら、最終的には何もできなくなってしまう。何かをなすということは、その過程で何かしらの犠牲や被害が出る。それは仕方ないこと。でも、その仕方がないことを、最小限にする。それをすることが、ないよりも大切なんだろう。
僕がナルアを助けると決めた。ナルアを幸せにすると決めた。なら、それを拒むものには、犠牲になってもらうしかない。それが『赤竜の咆哮』のやつらだったり、この町の人々何だろう。
「巻き込んでしまったなら、犠牲が出てしまったら、それを後悔すればいい。後悔して、反省して、次に生かす。それがネクロのやらなくちゃいけないことなんだよ」
「ナルア……そうだね。そうするしかないか」
僕がそう言うと、ナルアは満面の笑みを浮かべて、うれしそうにうなずいた。うん、その笑顔を見るだけで、心に残っていた重石はどこかに吹き飛んでいった。やっぱり、僕の嫁(仮)は最高だぜ!
「そういえば、どうして外壁から飛び降りたの?すごいびっくりしたんだけど……」
「あー、えーっと……ネクロがあんまり落ち込んでて、どうやって慰めようかなーって考えてて、それで……」
「それで?」
「いいアイデアが思いつかなかったから、とりあえず驚かそうかと」
「確かに滅茶苦茶驚いたけどさぁ!危ないことはしないでください」
「えへへ、ごめんね?……でも、ネクロなら絶対助けてくれるって、信じてたもん」
「………………そっすか」
「あ、ネクロ、また照れてるー!」
「テレテナイヨー」
主人公はナルア至上主義ですが、他人のことをかんがえていないわけではありません。
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