セフィロト・オーバーライト
はい、七十話です。といっても説明回?みたいなもんです。
静かだ。ネクロはぽつりと、そんなことを考えた。何の脈絡もない。そもそもその思考に意味があるのかすらわからない。ついでに、体の感覚だどこかに行ってしまっている。
自分は今、何をしているのだろう。先ほどの思考を皮切りに、ネクロは思考の渦に飲み込まれていく。ここはどこなのか、どうして自分はここにいるのか、ここに来る前は何をしていたのか……。考えても考えても、なかなか答えは見えてこない。記憶すら、もやがかかったようにぼんやりとしている。それでも、考えて考え続けることで、だんだんと思考がクリアになっていく。
ネクロがうっすらと思い出したのは、巨神との戦い。規格外の巨体から放たれる攻撃は、回避一つにも気を遣う。耐久がカンストしていたとしても、攻撃を喰らっていたら、地の果てまでぶっ飛ばされていただろう。そして、巨体ゆえに計り知れない耐久力。いくら攻撃しても崩れない城壁のような堅牢さだった。
だから、切り札を切った。世界のリソースを無断借用して自分を強化する[移ろいゆく竜魂]。[中二病]で作り出した数々のスキル、魔法の中でも、最高峰だと思っている作品。そして、そんな最高傑作は、確かに巨神にダメージを与え、あと一息で滅ぼせるところまで追いつめた。
はずだった。
突然巨神を包み込む、純白の光。それは巨神の力を面白いぐらいに釣り上げた。炎を纏ったスルト、下半身の蛇が増え、蛇頭が増えたティフォン。[移ろいゆく竜魂]の力を混ぜた全力の魔法が、いとも簡単にはじかた。
そして喰らってしまった、神気交じりの砲撃。この世界きてから初めてといってもいい強烈な痛み。覚悟とか意地とか、そういったものを一切合切無視して、死ぬと思った。
慢心だな。ネクロはそう自嘲気味に思った。精神ステと耐久ステがカンスト。そしてこちらの世界に転生してきてから一度も攻撃で傷を負ったことがなかったからなのかもしれない。地球で身に着けた回避術と防御術も相まって、勘違いしていたのかもしれない。
死なない、そう思っていたのだ。この世界で、神なんてものがいて、魔物があふれ、人々が武器を手にそれと戦う。そんな平和だった日本とは比べ物にならないほどに危険な世界。そんな世界で、どうして死ぬことはないなんていう幻想を抱くことができたのだろう。
要するに、なめていた。甘く考えていた。覚悟が足りなかった。言葉にするのは簡単だが、そうしたところで、今の状況がどうにかなるわけではない。
今、自分は生きているのだろうか?それともすでに、二度目の死を体験しているのか。そんなことを考えていたネクロは、ふと、自分の中に何かが侵入してきたのを感じ取った。
魂に直接打ち込まれた神気とは違う、同じくらい強力なのに、まったく嫌な感じがしない。この力が自分を害することは絶対にないと、簡単に断言できる。
ナルア
ネクロの口が、自然とその名を紡いだ。いつの間にか、あやふやだった体の感覚も戻ってきている。ネクロは感じ取れるようになった自分の口で、もう一度、ナルア、と名を呼んだ。
口元に、思わず笑みが浮かんだ。さっきまで自分が考えていたことが馬鹿らしくなったのだ。
誓ったではないか。何があってもナルアの願いをかなえると、そのためなら、死すら超えてやろうと。立ちふさがるものすべてを破壊して、その近いを果たしてやろうと。
死なないと思ったのではない。ナルアの願いをかなえるなら、死なんて考える必要がなかったのだ。死なないではない。死ねない、のだ。
そうだ、何をしている。少しばかり、強い敵が表れただけだ。地球ではそういうものを、頭からつぶすのが特技だったではないか。いじめっ子を彼らには干渉できない領域の力で打ち倒す。法律や警察といった一個人ではどうしようもない力で。
さぁ、考えろ。どうすればあいつらを倒せる。あいつらを跡形もなく消し去る方法はなにか。ネクロは再度思考の渦に沈んでく。
ネクロが思考の渦に沈んでいると、彼のなかで何かが解放されたのが分かった。思考に身を沈めながら、その解放された何かを確認する。解放されたのは、[邪神の眷属神]。ナルアの初眷属である証拠。そして、その称号が持つ力に目を通したネクロは、にやりと嗤った。
ネクロの力が膨張していく。この感覚は、進化の感覚だ。ネクロはその力の増大に意識を向ける。この進化は解放された力の一つ。『対象の強制的な特異進化』。邪神の眷属となったものは、例外なく邪族へと進化する。邪族になった時の影響の情報が一切なく、ナルアも解放をためらっていたものだ。
ネクロはその進化に、自分の意志を介入させる。ふつうならそんなことはできない。だが、それを可能にするスキルをネクロは持っている。[中二病]だ。
ネクロは[邪神の眷属神]の力である『対象の強制的な特異進化』を対象として[中二病]を発動させた。効果を想像しながら、名前を創造する。ネクロが望むのは、進化に自分の意志を介入させること。自分で進化先を選べないとは何事かと、ネクロは全力で[中二病]を発動させる。
そして、[中二病]によって一つのスキルが創り出された。
その名は、[改竄されし系統樹]。
本来なら手を出せないはずの領域である魔物の進化に介入するスキル。
ネクロはそのスキルの力を存分に振るう。進化とは、因子の昇華と変貌。生命の持つ情報の書き換え。ネクロは、因子の操作と生命情報の書き換えの二つの力をすでに手に入れている。[反逆許さぬ支配力]で自分の因子を操作。[改竄されし系統樹]がその情報を書き換えていく。
ネクロに宿る因子は、転生の出発点である霊。黄金龍から奪い取った龍。この進化で追加される邪。そして、ネクロの前世である人。この四つが中心となり、ネクロという存在は創り出されている。
だが、人、霊、龍。種族を司る因子が三つもあることによって、バランスが取れていない。因子を奪うなど、神でもためらう禁忌。それを実行したネクロという存在はとても危ういものとなっている。
[改竄されし系統樹]によってそれを知ったネクロは、その三つの因子のバランスを慎重に整えていく。進化する存在を思い浮かべながら、邪の因子を潤滑油のように使い、自分をこねくり回していく。
ネクロにとっては膨大な、しかし現実ではほんの数十秒の時間をかけ、ネクロの進化は行われた。最後に、ネクロが作り上げた自分の進化後の種族に、軽い気持ちで名をつけた。
そして、闇の卵ははじき飛び、たった一人の邪神の眷属が姿を現した。
つっこみどころだらけだろ。作者も進化の仕組みとかよくわかってないからこうなった。後でしっかりと設定固めておきます……。
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