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中二病幽霊が、異世界でおこす嵐、その物語です  作者: 原初
冒険者と第一ゲーム
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オルドの町の防衛線1

遅くなりまして申し訳ございません。

 オルドの町は、比較的近い場所にいくつもの迷宮がある町だ。そのおかげで冒険者たちが集まり町にも活気があるのだが、危険ではないのかと言われれば、それは否である。


 基本的に迷宮の中にいる魔物は、迷宮の外に出てくることはない。だが、まれに迷宮内の魔物の数が増えすぎて、外にあふれ出す『氾濫』という現象が起こることがある。氾濫した魔物たちは、基本的に集団で動く。数百から数万もの魔物が集団で移動するだけで、それはもう一種の災害である。オルドは周囲にある迷宮の多さから、この氾濫が起こる確率も高い。つい十年前にも『絡繰り仕掛けの塔』が氾濫し、魔物があふれ出したことがある。『絡繰り仕掛けの塔』に出現する魔物は機械系。耐久力の高い魔物が数千体はオルドに攻めてきた。その時は町の冒険者たちが必死に魔物を討伐し、多数の犠牲を出しながらも、オルドの町を守り切ったという。


 そして、今。十年前の氾濫をはるかに超える規模の魔物の群れがオルドの町へと襲い掛かっていた。


 ティフォンが召喚した魔物の軍団は、最低ランクが5。中には魔王級の力を持つ魔物もいる。オルドの町にいる冒険者たちの数は千に届くか届かないか。その中で、今回の戦いに参加する資格があるのは半分ほど。つまり、冒険者たちは五百人弱の戦力で、数万はいるであろう魔物の軍団を相手どらなければいけないのだ。無謀にもほどがあると思われる。


 だが、オルドの外壁前で魔物を迎え撃とうとしている前衛職の冒険者、外壁の上で魔法や弓の準備をする後衛職の冒険者たちの顔に、悲壮感は浮かんでいない。あるのは、絶対に町を守ってやるという強い意志だけだ。剣を、盾を、槍を、斧を、杖を、弓を、各々の武器を構え、魔物の軍団を迎え撃つ準備をする。


 極限まで張り詰めた緊張感の中、ついに、魔物の軍団が、後衛職の射程に入った。


「開戦だ!うてぇえええええええええええええ!!」


 グランドの叫びとともに、後衛職の冒険者から、魔物たちに向かって魔法や矢が無数に降り注ぐ。付与魔法使いは、前衛職たちに魔法を付与いていき、衝突に備える。


 そして、魔物の先頭集団と、魔法で強化された前衛集団が衝突した。冒険者同士に、パーティー単位より多い連携は難しい。ひとりひとりが思い思いに武器を振るい、それでもほかの冒険者の邪魔にならないように立ち回る。このあたりは、冒険者の中でもかなりの経験を積まないとできないことだ。


 魔物たちもただ黙って殺されることはない。獣型ならその牙や爪、人型なら武器、不定型なら魔法で、冒険者たちの命を奪おうとしてくる。戦いはすぐに乱戦となった。血と肉が舞い、悲鳴と怒号が響き渡る戦場が、そこにはあった。


 当然、冒険者側にも被害はでる。魔物の攻撃を受け、倒れてしまう冒険者もいる。後衛から回復魔法が飛ぶが、それでもカバーしきれないところが出てきてしまう。


「うわぁっ!」


 一人の冒険者が転がっていた魔物の死体に足を取られ、転んでしまう。まだ若い男の冒険者だ。それを好機とみた魔物が一斉に襲い掛かる。冒険者の男はとっさに剣を構えるが、それで多方位の攻撃を防げるはずもなく、魔物の凶刃に倒れる……と、本人すらそう思った瞬間、冒険者の男に襲い掛かった魔物たちが、一瞬でこま切れとなった。


「はぇ?」


 冒険者の男が間の抜けた声を上げる。その表情は、「わたし、夢でも見ているのかしら?」とでも言いたげである。冒険者の男がそうしているうちにも、魔物は一匹、また一匹と細切れになって死んでいく。冒険者の男はどうにか魔物が細切れになっている原因を探ろうと懸命に目を凝らす。すると、なにやら黒い影のようなものが、魔物たちの隙間を縫うように動いているのがかろうじてわかった。その影が通り過ぎるたびに、魔物は切り裂かれ死んでいく。反応することすら許さない神速の斬撃は、瞬く間に冒険者の男を中心とした半径三十メートルほどの魔物を殲滅してしまった。


「な、なにが……」

「ふん、何をしている。さっさと戦線に戻らんか」

「へ?」


 冒険者の男は、いきなりかけられた声に、またまた間の抜けた声を上げた。そして慌てて声がした方を見やる。そこに立っていたのは、両手に刀を装備した月夜叉だった。二本の刀は魔物の血で濡れており、この光景が月夜叉によって作り出されたものだと理解した冒険者の男は、慌てて立ち上がると、月夜叉に頭を下げた。


「すまん、助かった!」

「礼はいい。さっさと戦いに戻れ。小生たちがこの魔物どもを殲滅しなければ、町はなくなるのだぞ?」

「わかってる、全力を出し尽くすさ。本当にありがとうな!」


 冒険者の男は月夜叉に再度礼を言うと、剣を振りかざして魔物へと向かっていった。それを見送った月夜叉は冒険者の男にかけられた言葉を、胸の中で反芻していた。


(ありがとう……か。なるほど、これが守るということに対する見返りなのだな。そうか……悪くない)


 月夜叉は静かに瞑想し、胸にほのかに、されど、確かに宿った熱を感じ取る。そして、力強く瞳を広くと、右手に握った刀、【夜月守童 ジュウニシンショウ】を眼前に掲げる。主から授かった刀を構え、そして、解放の言霊を紡ぎあげる。


「来たれ、来たれよ、都を守護する護鬼。来たれ、来たれよ、敵軍屠る羅刹。我こそは鬼王。鬼の頂に立つもの。我が命により顕現せよ、『十二神将』!」


 月夜叉の鍵言が響き渡り、その周りを囲うように陣が表れる。そこから出現するのは、十二体の鬼。一体一体がかなりの力を秘めている鬼たちは、月夜叉に付き従うように、ひざをつき、頭を垂れている。


「さて、小生の忠実なるしもべたちよ。主より創り出されたその力、小生に示して見せよ!」


 鬼たちは月夜叉の言葉にうなずきを返すと、思い思いの武器を構え、魔物の軍団へと襲い掛かった。

次もオルド、今度はリンネとノルンです。



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