巨神の本性と女神の悪戯
いや、すみません。ちょっと追試とかの関係で更新が滞るかも……。できる限り頑張りますが、あまり期待はしないでください。
杖を構えたネクロの周りに、何やら名状しがたい色をした渦が作り出される。そして、そこから勢いよく出てきたのは、漆黒の鱗を持った、中型の竜。
竜は渦から這い出てくると、まるで大気に溶けるようにその姿を粒子へと崩しながら天に昇っていく。そして体を完全に粒子状に変えると、天から降りてきてネクロの周りにまとわりつく。それが何度も繰り返される。渦から出てきた竜は数十匹ほどだ。
竜が変形した粒子は、ネクロの周りを流動している。魔力とも龍脈のエネルギーとも違う、しかし全く違うとは言えないその粒子を、ティフォンとスルトは警戒した目つきでにらみつける。
『なんじゃ、それは。生成に似とるが、そんなものをワシは知らんぞ』
「はははっ、まるで世界のすべてを知っているかのような言い草だね?身の程を知りなよ」
『……蛇モドキが、その妙なものをまとった程度で、こうも増長するか。身の程を知るのはそちらの方じゃ……何ッ!?』
ティフォンが話し終えるとほぼ同時に放たれたネクロの攻撃魔法。今までなら大したダメージを与えなかった……それどころか、攻撃の余波だけで吹き散らされていたであろう魔法が、見た目以上の威力をもって、ティフォンに直撃したからである。ティフォンの上半身に当たったそれは、その体に確かな傷をつけた。巨神の再生力をもってすれば、数秒で治るような傷だが、それでも今までの何十倍かの威力になっているのだ。そのことにさらに警戒心を強める巨神たち。
巨神に傷をつけた魔法に使われていた力、それは[漆黒質]、そしてネクロが聖神アイリスとのゲームを見越して用意していた切り札、[移ろいゆく竜魂]だ。
[移ろいゆく竜魂]は、ネクロが魔帝死霊龍に進化したときに取得したスキル、[下級竜生成・邪]と[生殺与奪は我が手中に]の二つから要素を取り出し、[中二病]で名づけ、そして強化したものである。この力を簡単に説明すれば、世界を構築する力をネコババするスキル、となる。
もう少し詳しく説明しよう。まず、[下級竜生成・邪]などの生成系スキルは、魔物特有のものであり、一般的な認識は、『対応した種の魔物を呼び出すスキル』である。しかし、これは間違いだ。そもそも生成系のスキルを持っているのは、基本的にランク10以上の魔物だけ。呼び出すだけなら、召喚魔法を使えばいい。それなのに、なぜそこまで高位の魔物しか使えないかというと、それはこのスキルが『世界のシステムの一部にハッキングして、そこからリソースを吸い出し、それを魔物にする』というとんでもないスキルだからだ。
もちろん、創り出すといっても、そのスペックはオリジナルにはおとり、寿命も長くて数か月と短い。それでも魔物は魔物である。
話は変わるが、ネクロが霊龍に進化したときのことを覚えているだろうか?そう、黄金龍の存在そのものを喰らいつくし、己の糧としたあの出来事。このスキルは、それの応用である。人間も魔物も、その存在を構成するのは因子だ。その因子を取り込んだネクロは、レベル上限とかいろいろとふっ飛ばして霊龍へと進化した。つまり、因子にはユニークモンスターとはいえ普通の魔物だったネクロを、四強である龍族に変貌させるほどの力があるということだ。そして、因子とは世界構成の力から作り出されるもの。このスキルは、[生殺与奪は我が手中に]で生成された下級竜を因子の状態まで崩し、そしてそれを自らの強化に充てるというもの。それはある意味この世界の禁忌ともいえる力だ。
その禁忌の力を、ネクロは何のためらいもなく振るう。竜魂を配合された[漆黒質]は、その深淵よりも暗い闇の中に、わずかな光を混ぜ合わせ、巨神に襲い掛かる。それは堅牢だった巨神の耐久をやすやすと凌駕し、その体に傷を刻む。
「ね、ネクロ。これって大丈夫なの!?」
「うん、リソース事態は循環するものみたいだから、本当に借りてるだけって感じかな?それでも十分なんだけど……ねっと!」
ネクロが巨神に向かって魔法を放ちながらそう答える。ナルアの心配事は、ナルアが神族であるから起こること。ネクロはそれに問題ないと笑いかける。基本的に、世界を構成する力とは、水の循環のようなもの。姿かたちは変われど、その総量が変化することはまずありえない。
その切り札をもってして、ネクロは巨神を滅ぼしにかかる。放つ魔法が巨神の肉をえぐり、骨をすりつぶす。そのたびに苦悶の叫びをあげる巨神。彼らの苦し紛れの反撃も、ネクロには届かない。あざ笑うようにすべてを打ち落とし、逆にその身を削っていく。
「さて、そろそろ限界も近いし……。終わらせるとするか!」
そうつぶやくと、ネクロは身にまとっていた[移ろいゆく竜魂]をすべて突き出した右手に収束させ始める。それと同時に、[漆黒質]を練り上げ、同じように集め、混ぜ合わせる。
「龍の血脈を冒すもの 魔帝死霊龍が命じる
あまたの竜の命の輝き それは夜空を埋め尽くす流星
その輝きは今 命を終えて最後の極煌へと変貌する
終わりの光よ ここに収束せよ そして常闇を打ち払え
竜の死を弔う焔となりて 現世に確かなる爪痕を刻め
『絶竜火葬」
唱えられた詠唱は、いつもよりも短いもの。だが、撃ちだされる魔法の威力は計り知れない。
ネクロの右手に収束されたそれに、魔法陣が絡みつく。そして放たれるは、太陽が臨界したのではないかと思われるほどの熱量。押さえつけられていたものが解放され、膨張しながら突き進む。それは滅殺の意志をもって巨神に襲い掛かった。
ネクロの放った魔法は、確かに今の巨神を滅ぼしうる威力を持っていた。それに加え、巨神二柱は、ネクロの攻撃によってとっさの防御が不可能な状態だった。これで決着、ネクロはそう確信した。
だが、それを覗き見ていた純白の女神が、そのようなことを許すはずがなかった。口元に悪戯っぽい笑みを浮かべ、その白魚のような指を静かに一振り。
それとほぼ同時に、砲撃が巨神を飲み込み、その身を焼き滅ぼす……かに思われた。
轟っ!と何かが膨れ上がる音とともに、巨神が内包する力が膨れ上がる。それに伴って砲撃はかき消される。
「なっ」
そして起こった現象に、思わずネクロが驚きの声を上げる。砲撃をかき消した巨神が純白の光をまといながら、その姿を変えていったからだ。
ティフォンは、下半身から蛇の頭が三匹分生え、尾もそれと同じだけ増えた。スルトは全身から煌々とした火炎を吹きあがらせている。
「あの光……聖光?まさか……加護を与えたの!?くそ、あの性悪女がぁ~」
巨神の変貌の理由をいち早く察したネクロが、そうぼやく。だが、その瞳には最大限の警戒が含まれ、杖を握る手には力がこもる。先ほどまでとは明らかに違う気配、それは強化というより、進化に近いものだったかもしれない。
ネクロが警戒を高め、意識を切り替えようとしたその瞬間、ネクロの本能が最大級の警鐘を鳴らした。それに従い、高速でその場を退避するネクロ。一瞬前までネクロがいた場所に、スルトが振るった巨剣が振り下ろされる。直撃は回避したものの、その一撃が生み出す暴風によって吹き飛ばされたネクロ。飛ばされたネクロを待っていたのは、ティフォンが作り出した無数の魔法弾。音速を超える速度で打ち出された、神気交じりの魔法弾は、体勢を崩し、回避行動のとれないネクロに雨あられのように直撃した。
次回はリンネたちの防衛線です。
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