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中二病幽霊が、異世界でおこす嵐、その物語です  作者: 原初
冒険者と第一ゲーム
64/80

対格差が圧倒的な戦力の差にならないことを……

 夜空で繰り広げられるネクロと巨神の戦い。激しさを増すそれは、夜空に爆炎と魔力光の華を咲き乱れさせる。


「そらっ!」


 口元に笑みを浮かべているが、目には剣呑な光を宿しているネクロが[漆黒質(ダークマター)]で作り出した無数のナイフをスルトに向かって放つ。ナイフといっても巨神の大きさに合したものであり、一本の大きさは三十メートルほどだ。


 それを巨剣で打ち落とすスルト。大質量のそれが振るわれるだけで、大気がかき乱され、暴風が吹く。ネクロは暴風で体勢を崩さないように注意しながら、さらなる攻撃をスルトへと放つ。


『かかっ、ワシを忘れてもらっては困るぞ!』


 そういいながら、魔法陣を作り出すのは、ティフォンだ。外見からは考えられないほど緻密な魔力行使で、ありとあらゆる種類の魔法を叩き付けてくる。巨神って肉弾戦が主じゃないの?と素朴な疑問を浮かべるネクロは、飛来しる魔法を腕の一振りですべて砕く。ネクロに当たった瞬間に、すべての魔法は構成から砕け散っていく。精神ステ99999の理不尽さがいかんなく発揮されている。


 お得意の魔法をすべて砕かれたティフォンを見て、ネクロはにやりとした挑発的な笑みを向けた。小馬鹿にしているような、妙に腹立つ笑いである。それを向けられたティフォンは、一瞬激昂仕掛けるが、スルトの『落ち着け』という冷静な声に我を取り戻す。冷静さを欠かせることができなかったネクロが、ちっと舌打ちを一つ。


「ナルア、大丈夫?苦しかったりしない?」

「うん、ネクロが張ってくれた防御魔法もあるし、それに、この分体は耐久力に特化したやつだから、このくらいなら大丈夫だよ」

「それならよかった。正直なところ、ナルアには町のほうに行ってほしかったんだけどねぇ。危ないし。でも、タイミングがな~」


 スルトの巨剣を衝撃で跳ね返しながら、ネクロはそうぼやく。戦闘中であるのにも関わらず、この緊張感のなさ、これはネクロのダメージを受けたことがほとんどないことからの自信と言えるだろう。言い換えれば、慢心ともいえる。その慢心に溺れることがなければいいのだが……。それは、誰にも分らぬ先のことである。


 ネクロとナルアが会話をしている間も、巨神二柱の攻撃は続いている。それを的確に防御し続ける。会話をしながら巨神の攻撃を回避し、防御し続けるなど無謀の一言なのだが、ネクロはそれを涼しい顔でやってのける。


 ネクロの防御技術は、彼の戦闘技術の師匠であるリンネとノルンからもお墨付きをもらっている。では、なぜネクロはこうまで防御に優れているのか?


 確かに、耐久と精神のステータスがカンストしていることも一因だろう。しかし、それ以外の理由が実はあったりするのだ。


 それは、前世で身に着けたもの。地球でいじめにあうことが多かったネクロは、当然のように、複数人に囲まれて暴力を振るわれることもあった。しかし、ネクロはそれに暴力的な反抗をしたことはない。仕返しはいじめの証拠をそろえにそろえて、社会的に抹殺するというやり方をとっていた。リンチの現場をこっそりと隠していたカメラで撮影したり、投げかけられる暴言をレコーダーで録音したり。ある意味いじめっ子よりたちが悪い。


 しかし、暴言なら戯言と切って捨てることもできるが、暴力は違う。普通に痛いのだ。それが地味にストレスになっていたネクロは、その問題を解決すべく、近所にあった古武術の道場に相談しに行った。昔からの顔なじみであり、その道場の一人娘とは面識があったため、道場の師範(人間国宝)は、ネクロの相談に快く乗ってくれた。


 ネクロの話を聞いた後、師範は少し考え込んだ後、とてもいい笑顔で、こういったという。


 ――――――よろしい、ならば特訓だ、と。


 そこから始まった、一週間の地獄の日々。学校にすら行かず、ただひたすらに師範の攻撃を受け、流し、かわすだけの稽古(ごうもん)。開始当時はなすすべもなく滅多打ちにされていた。しかも、痛みはすごいのに、傷は外内関係なく一切ない、というバカみたいな殴られ方で。


 次第に回避できるようになったと思ったら、今度はフェイントを混ぜてくる始末。三日目くらいから、ネクロの目は人間のものではなくなっていた。光を反射しない、機械のような目で攻撃を察知、最適な防御を実行。それだけを追及していた。五日目以降は、不意打ちに対する対処の仕方まで。最終日には門下生総出でリンチにあうという正気を疑うような特訓の末、ネクロは防御と回避だけなら有段者を超える腕を手に入れていた。その地獄の特訓のあと、その道場の一人娘(師範の孫娘に当たる)との間にちょっとした事件があったのだが……。まぁ、それは追々。


 と、まあそんなわけで、熟練されているネクロの防御術は異世界でもいかんなく発揮されているのである。とはいえ、相手は全長五百メートルをゆうに超える化物だ。そのため、攻撃の一つ一つが重く、範囲も大きい。接近してみれば、もう壁としか思えないような有様なのだ。


「くっそ、でかいなぁ。攻撃も聞いてる感じがしないし……。まぁ、向こうの攻撃も聞いてないんだけど。このままじゃ千日手だよな。相手方の全力がこんなもんだとは考えにくいし……」


 ネクロはいらだったようにそういうと、使っていた魔法の種類を変える。今までは単体魔法を強化していたものを使っていたが、殲滅力の高い魔法を選択する。


 だが、単体魔法と比べると威力が乏しく、巨神たちは防御すらしない。この程度ならステータス差だけではじき返せるのだろう。魔法を受けてもびくともしなかったティフォンは、口の端をにやりと歪ませて、ネクロを見やる。さっきのお返しのようだ。ビキリ、とネクロの額に青筋が立った。


「ふ、ふふふ、くくくくくくく、いいだろう。そのデカさが圧倒的な戦力の差にならないことを、教えてやろうじゃないかっ!」

「ね、ネクロ?」


 どこかで聞いたことのあるようなセリフを吐きながら杖を振りかざすネクロに、ナルアが戸惑ったように名を呼んだ。心配そうな響きが含まれたそれに、ネクロは「大丈夫」と笑って返すと、巨神に向けて不敵な笑みを浮かべた。そして、切り札の一つを、解き放つ。


「――――――[移ろいゆく竜魂ドラゴンソウル・コンバージョン]」


 

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