どこからどう見ても地獄絵図
昨日はすみません。風邪で死んでました。
オルドの町の中心にある、冒険者ギルド。そこには、この町を拠点としている冒険者たちがほとんど全員集合していた。いないのは、すでに仕事に入っている数人だけだ。ここに集められた冒険者は、いまこのオルドのすぐそばで起きている異常事態に対処するために集められた者たちである。
総勢、千人ほどの冒険者たちが武装した姿で立ち並ぶその姿は、なかなか威圧的だ。しかし、彼らの顔には、そんな威圧感に似つかわしくない怯えと混乱が入り混じったような表情が浮かんでいる。
それは、これから対処しようとしている異常事態が原因である。なぜなら、先ほどから震えあがるような力の奔流が彼らに叩き付けられているからである。その力の奔流は、次第に大きくなっており、今にも形をもって襲い掛かってきそうな雰囲気である。
中にはそんな力の発生源の方向を見て、険しい表情を浮かべている冒険者もいる。彼らは高ランクの冒険者であり、幾度となく修羅場を潜り抜けてきた猛者たちである。そんな猛者たちでも今の状況は厳しいものだと判断しているようだ。それを見た新米冒険者たちがさらに怯えを強くしているのも仕方がないだろう。
そんな冒険者たちが集まる冒険者ギルドの前の広場、そこをすべて見渡せる、ギルドの二階のバルコニーから、巨大な戦斧を背負った大柄な男、ギルドマスターのグランドが姿を見せた。そのことに少しだけ安堵の表情を浮かべる冒険者たち。グランドは元Sランク冒険者にして魔王の討伐経験もある歴戦の強者である。そのため冒険者たちからの憧れ的な存在なのである。まぁ、その実態がいい加減なオッサンであることは、一般的には知られていないことである。
グランドは広場に集まった冒険者たちを見渡すと、一瞬だけ険しい表情を浮かべた。想像よりもずっと士気が低いことが気になっているらしい。いまだに詳細はまるで分っていないが、今がオルドの町の一大事であることは皆、理解しているようだ。だが、絶えなく冒険者たちを襲う力の奔流が、その気力をどんどんそいでいっているのだ。
「くっそ……気合が足らねぇんだよ、最近の若いやつらは」
「そんなセリフを言っていると、自分が年寄りだと認めているようなものですよ。それに、ギルドマスターだって彼らとあまり変わらないじゃないですか。眉間にしわ、寄ってますよ」
「……うるせぇ。あいつらは、なにかヤバ気なことが起こっているってことを、漠然と理解してるだけなんだよ。そんなやつらを、この戦いに参加させてもいいのか、すこし不安になっただけだ。てか、メリア。お前は怖くねぇのかよ」
「いざという時は、女のほうが強いんです。ほら、彼女たちだってそうですよ?」
メリアが視線を向けた先には、ちょうどバルコニーに登場しようとしているリンネとナルアの姿があった。二人とも自身の武装である杖と双大剣を装備して、毅然とした表情で冒険者たちを見下ろしていた。二人の登場に、冒険者たちから驚きと歓声が上がった。最年少Sランクであり、目麗しい少女でもあるリンネとノルン。冒険者の間では、アイドルのような扱いを受けている二人の登場に、冒険者たちは興奮した叫びをあげた。余計な情報だが、二人とも緻密な計算のもとに立ち位置を決めているので、下の冒険者たちからスカートの中を除かれるようなことはない。
二人は、視線を冒険者たちから外し、三つ子山の方向。彼女たちの想い人がいるであろう方向を見た。いまだに力は強まり続けている。それとは別に、何やら二人は認識のある力が上空で渦巻いているのだ。ああ、またネクロが何かやるんだろうな、と確信めいた予想をする二人。
「ネクロ、大丈夫かしら」
「ネクロなら大丈夫。わたしたちの好きな人は、この程度でどうにかなる人じゃない。でしょ?」
「……そうね。この調子じゃ魔法の腕で抜かれちゃいそうだし……。私たちもやれるんだぞってところを、ネクロに見てもらおうじゃない!」
明るく言うリンネに、ノルンは微笑みを浮かべながら、うん、とうなずいた。そんな二人の親密なやり取りに、状況も忘れて見ほれる冒険者の男たち。なお、会話の内容は聞こえていなかったようである。もし聞こえていたとしたら、彼らの足元には目から流れ出た赤い液体で、水たまりができていただろう。
二人のおかげ(?)で士気がだいぶ回復した冒険者たちを見て、グランドが広場全体に向けて、大きく息を吸い込んだ。
「よく集まってくれたな、諸君!突然の収集でも集まってくれたことを、まずは感謝するぜ!」
グランドの声に、冒険者たちは一斉に真剣な顔つきになった。本題に入ることを瞬時に理解したのだ。
グランドは自分に注目が集まったのを確認すると、魂に直接叩き込むかのような声で、言葉をつづける。
「いいか!今、俺たちのこの町、オルドがかなり危険な状態にさらされている!お前らもさっきから感じてるだろ!?この押しつぶされそうな力の奔流を!ここにいるリンネとノルンの情報から、この力の発生源は、俺たちの敵であると判断した!お前ら!この町が敵の危険にさらされているこの状況、どうするかはわかってるだろうな!」
その問いかけに、冒険者たちは行動で答えを示した。広場にいた冒険者たちは、剣士なら剣を、弓士なら弓を、魔法使いなら杖を、一斉に構えた。
それを見たグランドは、にやり、と力強い笑みを浮かべ、さらに声を張り上げる。
「その通りだ!何があっても、守る!敵なんざにこの町を欠片でも壊されてたまるか!絶対に守り抜くぞ、野郎どもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」
冒険者たちの声が、一丸となって夜空を揺らした。その先日を聞いて大丈夫だと判断したグランドは、いったん後ろに下がる。リンネとノルンはその光景にあっけにとられていたが、すぐに自分たちの役目である作戦説明に入ろうと一歩前に出た、その瞬間である。
感じていた力の奔流が、まるで縛られていた何かから解き放たれるように大きくなったのは。
はじかれるように三つ子山に視線を向けるリンネたち。冒険者たちも困惑の表情を浮かべながらも、そちらに視線を向ける。そして、その場にいるすべての人間が、そろいもそろって絶句した。
三つ子山があったはずの場所、そこに、見たこともないような巨大な何かが三体、立っていた。暗くてシルエットしかわからないが、人の形をしていることはかろうじてわかる。なぜか行動には出ないが、そこに立っているだけで、離れたところにあるオルドまでその威圧感が送られてきている。冒険者の中には、それを見ただけで気を失ってしまうものも現れた。それほどまでに強烈で、強大な存在感。
だが、衝撃の出来事はこれで終わりではなかった。
現れた三体の巨大生物。そのうちの一体が、突然体を消滅させながらもがき苦しみ始めたのだ。なんだなんだと冒険者たちが目を白黒させるが、消滅はとまらず、気が付けば巨大な影が二つに減っていた。
「な、なにが起こってんだよ……」
冒険者のうち、誰かがつぶやいたその言葉は、この場にいる全員の気持ちを弁解したものだった。
はい、今回はオルドの町からお送りしました!あと、三章は十話以内に終わる可能性が低くなってまいりました。
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