オルドの戦線
今回は三人称視点。
時間は少しさかのぼり、ネクロがリンネたちに相互受信を使ったところまで戻る。
ネクロの通信があった後、急いで準備を終えたリンネとノルンは、冒険者ギルドへと向かっていた。その間も巨大な力の胎動は続き、刻一刻とその力を大きくしていく。
「あれがネクロが言っていた聖神とのゲームってやつなのかしら?」
「たぶん、そう。それより……リンネ、走るの遅い」
「しょ、しょうがないじゃない!私は後衛職、ノルンより足が遅いのは当り前よ!」
「しょうがない。時間短縮」
「へ、きゃ、きゃあ!」
リンネがかわいらしい悲鳴を上げる。ノルンがリンネの体を抱き上げたのだ。俗にいうお姫様抱っこの状態でノルンは夜のオルドを駆け抜ける。ランクSの脚力はすさまじく、あっという間に冒険者ギルドについてしまった。
冒険者ギルドの前には、既にグランドの姿があった。険しい顔で三つ子山の方向をにらみつけている。
「おっさん、来た」
「お、ノルンの嬢ちゃんちょうどよかった。いま呼びに行こうとしたところだって……。リンネの嬢ちゃんは大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ……」
少し青ざめているリンネにグランドは心配そうな目を向ける。たんに猛スピードのノルンに抱き上げられていることでダイレクトに振動をくらい、車酔いみたいな状態になっているだけである。
「それよりも、本題」
「ああ……で、あれはいったい何なんだ?魔王とかいうレベルじゃねぇ威圧感を感じるんだが……」
「あ、あれが……ネクロの言っていたやばいやつよ。確かに、恐ろしいくらいの力を感じる……」
「うん、『冥界回廊』で戦った魔王とかよりもずっと強い。あれでまだ封印状態」
「そいつはあんま聞きたくなかった情報だな……。目覚めたら、どうなるのやら……」
グランドが大きなため息を吐いて頭を押さえる。三人にもわかっているのだ。あの三つ子山に封じられた存在に、自分たちがかなわないということを。妙に冷静なのはそのためである。かなわないからこそ、どうするべきかを考えることが重要だと三人はわかっていた。
「とりあえず、ネクロが足止めをしてくれるみたいだから、その間に町中の冒険者をかき集めましょう。Cランク以上の冒険者は私たちと一緒に、あれが目覚めたら迎撃に打って出る。Dランク以下の冒険者には町の住人の避難をしてもらうわ。それでいいかしら?」
「おう、それで構わねぇぜ。じゃあ、ギルド職員に冒険者たちをかき集めさせるか……。おい、メリア!」
グランドがギルドに向かって叫ぶ。すぐにメリアが出てきた。若干髪が乱れているのは寝起きだからだろう。
「はい、なんでしょうか」
「今すぐギルドの寮に泊まり込んでる職員たたき起こして、住人の避難と冒険者たちの収集に当たらせろ。事態はかなり進んじまってる。行動は最速にしろ!」
「これがネクロ様のおっしゃっていたやばい事態ということですね……。わかりました、すぐに手配します」
メリアはすぐさまギルドに戻ると、奥にある寮で職員たちを文字通りたたき起こし(部屋のマスターキーはメリアが管理している)、寝ぼけ眼の職員たちにきびきびと支持を飛ばしていく。メリアの「とにかく大変なことが起きてるから、さっさと冒険者を集めるのと、住人を避難させろ」という適当な説明を受けて、訳が分からないまま町に繰り出していく職員たち。彼らは外にでて、そこでようやく日常とはかけ離れた空気を感じ、真剣な顔つきになっていく。
職員たちが三つ子山から放たれる力の奔流に気づかないのは、彼らと力の間に途方もない差があるからだ。蟻が龍の強大さを理解できないように、彼らでは膨大な力に触れても、大きすぎて恐怖を感じることができないのだ。
職員たちは夜のオルドを東奔西走し、宿で寝ている冒険者を起こし、街の住人に避難を呼びかけて回る。中には異変を察知し、自ら冒険者ギルドに集まる冒険者もいた。そういうものはたいてい高ランクの冒険者だが。
「よし、だんだんと冒険者たちも集まりだしたな。この調子なら、あと三十分くらいで大方集まるんじゃないか?」
「ええ。冒険者は有事の時には町を守護する戦力となる。これを破ったものは冒険者としての資格を剥奪するってルールはみんな覚えてるんでしょうね。そして、今がその有事だと理解している……。さすがは冒険者の町ね」
「おう、こいつらは荒くれだが、町のためとなりゃ一肌脱ぐやつらばかりだからな。期待してるぜ」
「……リンネ、おっさん、力が強くなってる」
三つ子山を監視していたノルンが、鋭い声を上げる。その声に促されてリンネとグランドもそちらを見た。確かに三つ子山から感じる圧力が上がっている。
「確かにそうね…………って、あれ?」
「ああ、こりゃあいよいよだな……って、ん?」
リンネとグランドが三つ子山のほうに向けていた視線を、ふと上に上げる、ノルンも同じように三つ子山の上空を見た。
「おいおい、なんか増えてねぇか?あっちからもかなりの力を感じるんだが……」
「あー……あれは大丈夫よ。ネクロだから」
「おー、ネクロ本気」
「はぁ!?ネクロぉ?あの下と負けず劣らずのがか?」
グランドが信じられないというように声を上げるが、リンネとノルンはネクロがいるであろうところに視線を向けたまま、あきれたような、でも信頼に溢れた表情をしていた。
もうちょっとでバトルだよ。
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