夜間飛行
さてと、三章も大詰めに入ってきました。これから十話ぐらいでおわ……りたい。
「さて、そろそろですわね」
純白が支配する空間。どこを向いても白で覆いつくされている空間の中で、アイリスはクスクスと笑っていた。彼女の前には、鏡台のようなものが置かれており、その鏡面には、まるでテレビのように映像が流れていた。映っているのは、下界のとある場所。あの三つ子山だ。
「あと、数時間……早ければ、数十分で目覚めますわね。ふふふ、楽しみですわぁ」
心底楽しそうにアイリスは言葉をもらす。喜色で染まった顔。しかし、彼女の瞳の奥だけは、得体のしれないナニカが渦巻いていた。
「第一のゲーム、神話の目覚め。開幕の時間まで、あとわずかとなりました」
芝居がかった口調で楽しそうに言うアイリスは、鏡面に映る映像を切り替える。映し出されたのは白髪の少年……ネクロだ。
「ネクロ……いっぱいいっぱい、踊ってくださいね?そして、わたくしを楽しませてくださいな。あなたの輝きが汚された時、あなたはどんな風に鳴くのかしら?ふふふ、ふふふふふ、あははははははははははははははははっ!」
アイリスは笑う。嗤う。嘲笑う。
童女のように、悪魔のように、無邪気に、残酷に。
白く穢れなき世界は、アイリスの哄笑によって、侵されていくのであった…。
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夜の帳が下りて、街が静まり返っている時間。いわゆる丑三つ時ってやつ。そんな時間に僕は、オルドの町から抜け出していた。
星明りがほのかに照らす空を、[浮遊]で飛んでいる。ちょっとした夜のお散歩(飛行Version)である。
「ふわぁ……すごいねー」
「うん、きれいな景色。これを見ただけでも、こうやって抜け出してきた甲斐があったね」
もちろんのようにナルアは同伴している。最近は分体だけならほぼ毎日一緒にいられるようになった。三日に一度だけ、夜に数時間帰るだけでよくなったとナルア談だ。
僕の背中おぶさっているナルアは、星が散らばる夜空を見て、感嘆の声を上げている。確かに現代日本ではもう見れなくなった景色だ。山のてっぺんとかに行けば見れたかもしれないけど。
地上で見るよりみも、跳んでいるぶん空が近いからかもしれない。心奪われる景色とはまさにこのことだろう。……………だが。
背中に感じるナルアの柔らかな感触がヤバいッッツ……!!
そう、夜空とか気にしている場合じゃない。こんなことならお姫様抱っこのほうがよかったかもしれない。おんぶの状態だと、こう、密着感が半端じゃない。ギュッとつかまれると、背中にほのかに感じる幸せな柔らかさ。首筋にかかる吐息。耳をくすぐるエンジェルボイス。顔を見られていないから冷静な反応を返せているが、この状態で顔まで見られていたら……。
こうしてくっつかれていると、どうしてもあの朝のことを思い出してしまう。ナルアは気にしなくていいと言ってくれたが、僕としてはそんなに軽い問題でもないのだ。
あの時は、何というかこう、雰囲気に流されていたというか……甘い空気に酔っていたというか………。とにかく、正常な判断ができていた状態とはいいがたい。
そりゃ、僕だって男だ。ナルアとキスすれば舞い上がるほどにうれしくて興奮するし、それ以上のことがしたいかと言われれば、首を縦に振るに決まっている。
でも、だ。それを流れや勢いでやってしまうのは、どうしてもためらわれるのだ。ナルアが好きで、自分の思い通りにしたいという気持ちと同じくらいに、ナルアを大切に思っている。ナルアだって、あのままいたしてしまっていたら、絶対に後悔していただろう。
だから、僕は我慢する。キスやデートなら喜んでする。でも、それ以上はだめだ。するとするならば、今抱えている問題のすべてを解決して、ナルアを本当の意味で救ったらだ。
ま、それまでに僕がナルアに愛想つかされてなかったらの話なんだけどね。
「ネクロ、どうしたの?」
おっと、考えこみ過ぎたみたいだ。ナルアに心配されてしまった。
「何でもないよ、ちょっと、ナルアかわいいなーって思ってただけだから」
「むっ、なんか投げやりだよ」
「えー、心の底から思ってるのになぁ」
「ふんっ、テキトーに言ってもダメなんだからね!」
あれれ、これはほっときすぎて怒らせちゃったかな?でもまぁ、嘘は言ってない。本心も本心だ、ナルアかわいい。
「適当じゃないよ。今だって、こうやってナルアの暖かさを背中で感じて、すごくドキドキしてる」
「ふぇ?」
「ナルアの声を聴いただけで、ナルアと触れ合ってるだけで、ナルアを感じているだけで、僕はすごく幸せだって思うんだ。こんな可愛い娘が、僕に好きって言ってくれてるのが、たまらなくうれしい」
「ね、ネクロ!?」
慌てた声をだすナルア。でも、全部が全部本心だ。
「ナルア、可愛いよ」
「うぅ……」
「すっごくカワイイ。二度と離したくなくなるくらい、カワイイ」
「にゅぅううう……」
「ナルア、可愛いよナルア。超可愛いっ!」
「……も、もう、ゆるしてぇ……」
か細い声で言うナルア。たぶん背中で真っ赤になってるだろう。
「ふふっ、ほんとに可愛いね、ナルアは」
「うぅ……じゃ、じゃあ、ネクロだって、その……かっこいいよ」
「うぇ!?」
「うんとね?かっこいいだけじゃなくって、可愛い時もあるし、わたしをなでてくれる時の、優しいネクロも、好き。き、……キスするときのネクロは、ちょっといじわるだけど……でも、なんかドキドキする」
「え、な、う、あぁ……」
「えへへ、仕返しだよ、ネクロ。でも、ネクロがかっこよくて可愛くって優しくてちょっといじわるなのも、全部大好きだよ♪」
ナルアのささやくような賛辞の言葉が、僕の脳を犯す。今度は僕が真っ赤になる番でした。
「…………………」
「…………………」
そのあとは、互いに真っ赤になって無言という、なんとも言えない空気のなか、ふよふよと漂っているだけでした。
……あとあと冷静になると、すごく恥ずかしいことをしていたなと思いました、まる。
―――――その時、強烈すぎる力が、僕の体を貫いた。
攻撃性のない力は、威嚇目的で放たれたもの。そして、その力には覚えがあった。
急いであの三つ子山に目を向ける。頭はすでに警戒モードに切り替わっている。
その先にあったのは、驚くべき光景。表面がひび割れ、そこから光の漏れている三つ子山だった。まるで孵化寸前の卵のように、ぐらぐらと動いている。
ひび割れはどんどん大きさを増し、あと少しで割れてしまいそうだった。
……理解した。始まると。これが『合図』なのだと。
第一ゲーム、スタートだ。
はい、恒例のあれですね。もう飽きた方もいらっしゃるとお思いですが、ロリコン作者死ねと思いながら生暖かい目でご覧になってください。
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