目覚めの胎動
いやほんとマジですみません。全然一日一話できてないですねはい。精進します。
「せやっ!」
そんな掛け声とともに、用意しておいた魔法を目の前の魔物に向けて放つ。使うのは雷撃を叩き付けるというシンプルな効果を持つ『雷神球撃』。
「ギィヤァアアアアアアアアアアッ!!」
苦し気な悲鳴を上げながら墜落していったのは、本日の獲物こと、火炎飛竜。緋色の鱗が特徴的である。結構きれいだから記念に持って帰りたい。
火炎飛竜は、胸や前足を雷撃の球で打ち据えられ、地上に落ちる。今頃は雷撃のしびれで麻痺しているので、ろくに体が動かせないだろう。
そして、紅き飛竜が落ちていく落下地点には、二本の刀を構えた月夜叉が立っていた。両手に持った刀を構えるその姿はどうに入っており、なかなか絵になっている。てか、本人がイケメンだから、何やっても大体絵になっちゃうんだよね。
月夜叉は瞑想するようにすっと瞳を閉じると、次の瞬間には刀を振りぬいた状態で静止していた。一拍遅れて大気がかき乱され、そして飛竜の一対の翼が切り落とされ、飛竜はさらに悲痛な叫びをあげる。なんか聞いてるこっちが痛い思いをしそう。
こうやって地に落ちてしまえば、いかにランク8の飛竜とはいえ、でかいだけの爬虫類である。痛みでブレスとかも吐いてきそうにない。吐いてきたところで僕や月夜叉にダメージが入るかどうか……。とりあえず、僕は無傷かな。
さてと、じゃあとどめを刺しましょうか。討伐依頼だから素材のことは特に考えなくてもいいし、結構はっちゃけてもいいよね?
[浮遊]で浮いている上空からの攻撃魔法……。うん、あんまり使ったことのない地属性の魔法にしてみようかな。
選ばれたのは、烈岩砲でした。これまた大質量の大岩をぶっ放すという魔法である。質量攻撃か、最近はバニッシュメントも使ってないな。アンデットやら悪魔って普通にはあんまりでないんだね。
そんなどうでもいいことを考えているうちに、魔法は完成した。それを下でもがいている飛竜に向けて放つ。魔法的な推進力と重力にひかれて、大岩は飛竜へと高速で落ちていく。
ぐちゅり。
そんな音とともに、地面に赤いしみが広がる。大岩は見事に飛竜を押しつぶした、押しつぶしたのだが……。
「………………………………………王よ」
「や、ごめん。ホントごめん」
上空にいる僕にジト目を向けてくるのは、真っ赤に染まってしまっている月夜叉。まだ飛竜の近くにいた月夜叉は、大岩には巻き込まれなかったものの、飛び散った飛竜の血肉がべっとりと付着してしまっている。汚い。いや、やったのは僕なんだけどね?
月夜叉のところまで戻って、洗浄の魔法をかける。これは生活魔法というもので、スキルがなくとも使える魔法の一つである。あれだ、鑑定とか分析とかと同じ部類のもの。火種を出したり、飲み水を用意するくらいの効力しかないが、大体誰でも使えるので(一部例外あり)覚えている人は多いらしい。
「……魔法を使うなら、その魔法が起こす効果や被害を考えて使うことをお勧めしよう。出ないと王は致命的なことをやらかしそうで怖い」
「はははは………気をつけます」
一応、月夜叉って僕の下僕って扱いだったと思うんだけど………。まぁ、アドバイスをくれる分には問題ないか。若干イラっと来るのは否定しないが。
「ネクロ、お疲れ様。結局、私たちの出番はなかったわね……」
「欲求不満。ネクロ、あとで相手して?」
僕と月夜叉の戦闘を少し離れたところで見ていたリンネとノルンがこちらに来た。今回の火炎飛竜の討伐依頼は、ナルアも含五人で来ていたのだが、しょせんはランク8。四人でやったら十秒ほどで終わってしまう。そこで、僕と月夜叉だけで相手をすることにしたのだ。僕は中級の黒魔法だけ、月夜叉は身体能力強化を封印した縛りプレイ状態で。結果は楽勝だったけどね。
「ネクロ!お疲れー!」
さらに離れたところで見ていたナルアが、トテトテと駆けよってきた。なにこれなごむ。少しずつ後退してずっと見ていたい気持ちがあるが、ぐっと我慢してナルアを抱きとめる。えへへと緩んだ顔がかわいらしいです。
『赤竜の咆哮』をぶっ潰してから今日でちょうど二週間。その間に僕たちが何をしていたかというと……『赤竜の咆哮』の尻ぬぐいである。
なんでもあのクランはオルドの町でも最上位に位置するギルドだったらしい。そして僕との決闘で心も体もボッコボコにされたのは、クランの中でも上位の実力者ばかり。中でもSランク冒険者の自意識メンが壊れたのは結構困った事態だったらしい。『赤竜の咆哮』が請け負っていた高ランクの依頼を受ける冒険者がいなくなってしまったことで、難易度の高い依頼ばかりが残ってしまったらしい。らしいらしい言っているのは自意識メンをぶっ飛ばした三日後ぐらいにアイラさんから延々と愚痴を聞かされたからである。いやホント申し訳ないよ。
で、そのたまった依頼を、僕たちが責任もってかたずけているというわけだ。……いなくなってからも僕たちに迷惑をかけるとか、『赤竜の咆哮』まじ害悪。
「ネクロ、今日のお仕事はもう終わり?」
「そうだね、採集依頼のほうも終わってるし、今日はもう終わりだね」
「そっか!じゃあ、帰ったら遊びに行こう?アイラにいろいろ教えてもらったんだ!」
「いつの間に…。まぁ、いいよ」
「残念ナルア。ネクロはわたしと訓練する先約がある」
「えぇ!?そ、そうなの……?」
「僕も初耳かな!?まったく……言ってくれれば、ちゃんと付き合うよ、ノルン。明日は特に何もなかったと思うから、明日にしよっか?」
「うん、リンネも一緒。そしてナルアはお留守番」
「えー!?仲間外れは嫌ー!」
「なんで私も行くことになってるのかしら……。で、でもネクロと手取り足取り……えへへ」
「………どうでもいいが、早く帰らないと時間が無くなるぞ、王よ」
そんな風に、にぎやかに騒ぎながら、オルドの町を目指す。今のところは、こんな風に平和に過ごせている。そう、今のところは。
ふと視線を、あの三つ子山がある方向に向ける。そして感じる。押さえつけられている強大な力が、胎動しているのを。殻を破ろうとしているのが風に乗って感じられた。
目覚めの時が近い。
――――――波乱の幕開けまで、それほど時間は残されていない。
さてここから三章のクライマックスに入っていきます!たぶん!
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