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中二病幽霊が、異世界でおこす嵐、その物語です  作者: 原初
冒険者と第一ゲーム
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魔術師が語る拳の美学 2

うえーい、二日も休んじまったぜーい。テストはあんまだしぃ………。

「あー、まだ始まってなかったか……よかったぜ」


 草原で対峙するネクロと『赤竜の咆哮』たちに、冒険者ギルドから急いで駆け付けたグランドが近づく。『赤竜の咆哮』のクランメンバーはいきなり現れたギルドマスターの存在に驚きの表情を浮かべた。


 グランドは、幽鬼のように佇むネクロのほうを見て、盛大にため息をつく。一目見てネクロがもう止まらないことが分かったのだろう。グランドとしては、オルドを拠点とするクランの中でもトップクラスの実力を持つ『赤竜の咆哮』がなくなるのは避けたい事態だ。グランドはすでに『赤竜の咆哮』がネクロに勝てる、などという思考は捨て去っている。ネクロがその力を余すところなく開放すれば、確実に『赤竜の咆哮』のメンバーは滅びる。ネクロのいう通り、肉片の一つも残らないだろう。


 まぁ、『赤竜の咆哮』の面々がナルア(龍の逆鱗)に触れてしまったのが原因なのを考えると、完全に自業自得である。『赤竜の咆哮』はアレイスがSランクになったあたりから、規模も拡大していき、それと同時にクランの威を借りて威張り散らすクランメンバーが出てきたりもした。アレイス自身もSランクということで、どこか他人を見下しているような態度をとることが増えていた。だからあれほど態度を改めろといったのに……と、グランドは呆れを含んだ視線をアレイスに向けた。


「………おい、アレイス」

「なんですかグランドさん。言っておきますけど、これはクランの名誉をかけた聖なる決闘。あなたの言葉だろうと、止める気はありませんよ」

「あー、まぁ、俺も止めるつもりはねぇよ。決闘を見届けに来ただけだ。………………やりすぎるなよ?」

「ははっ、なぁに、殺しはしませんよ。少し痛めつけて格の違いというものを見せつけてやるだけです」


 アレイスは自信満々にそう言い放つが、グランドの言葉はアレイスに向けたものでなかった。今も無表情に『赤竜の咆哮』を見つめているネクロに対するものだ。


 ネクロはグランドのほうにちらりと視線を向けると、グランドにだけ聞こえるように声を魔力にのせてささやいた。


「……半殺しの、半殺し」


 ネクロのその返答に、グランドは半笑いを浮かべる。要するに四分の三は殺されるということである。仮に生きていても、弱者だと信じている相手にそこまでぼこぼこにされてアレイスの心が折れてしまわないかどうかが心配になる。


「……最低でも、心はへし折る」


 だが、続いて聞こえたネクロの声に、グランドはアレイスの死を悟った。冒険者として、アレイスは使い物にならなくなると、グレイスはほぼ確信していた。


「あー……まぁ、街に被害がなけりゃどーでもいいか……」


 投げやりにそういうと、グランドはもう観戦モードに入っていた。『赤竜の咆哮』についてはもうあきらめたらしい。


「さぁ、そろそろはじめようか、僕たちの聖戦を!」


 アレイスが芝居がかった口調で言い、腰に差していた剣を抜き放った。白銀に光り輝く刀身を持つツーハンドソード。華美な装飾はないが、名剣であることは疑いようもない。そして魔力を感じることができるものなら、その剣が放つ魔力の大きさに驚いただろう。アレイスが持つ剣は、神遺物アーティファクトであり、彼が倒したレッドドラゴンがため込んでいた財宝の中にあった魔剣である。


 アレイスが武器を構えたのに遅れて、『赤竜の咆哮』のメンバーも各々の武器を構える。だが、ネクロは両腕をだらりと垂らしたまま自然体で立っているだけである。


 緊張が漂う中、ネクロが左腕をすっと肩の高さまで上げた。そして、天を突くように、左手の中指をビシッと立てた。


 それが、開始の合図。


「舐めた真似しやがって、詐欺師野郎が!」


 ネクロのファックサインにいち早く反応したのは、相変わらずのイートだった。魔法武器マジックウェポンの長剣を振りかぶり、ネクロに突進する。踏み込みから突撃に入るまでの動作に淀みがなく、ネクロへと駆けるスピードもなかなかのものだ。


 ネクロはそれを、ただ見ているだけ。魔力を練ることも、よけるそぶりすら見せない。


「はっ、怖気づいたか!死ねぇえええええええええ!!!」


 突進の勢いをネクロの目の前で急停止することで上半身にのせ、さらに全身を使ったひねりが乗った斬撃。おまけとばかりに刀身に魔力がこもっている。イートは態度がでかいだけの男ではない。Dランクでありながら、その実力はBランクに届くといわれている。そしてイートはアレイスに師事しており、『赤竜の咆哮』の次期クランリーダーともいわれている。


 普通の冒険者が無防備に受けたら、確実に死ぬであろう一撃、それをネクロは……ぺしっと、素手で払いのけた。


 払われれた長剣は、剣筋を大きくそらされて地面に突き刺さる。かなり深く刺さった長剣は、イートが少し引っ張った程度では抜ける気配がない。完全な隙。イートは自分が攻撃を受け倒されるであろうことを直感で悟った。


 だが、ネクロは攻撃しなかった。イートが剣を地面から引き抜くのを、じっと見ているだけで、他は何もしなかった。


「て、てめぇ……馬鹿にしてんじゃねぇぞ、まぐれでオレの剣をはじいたくらいでいい気になんなよ?」


 イートは顔を真っ赤にして再度剣を構えた。そして今度は至近距離で連撃を放つ。息をつく暇もない連続攻撃。だが、ネクロはそれすらぺしぺしとはじいていく。片手で、魔力もなにも纏わりつかせずに。純粋な耐久ステでイートの斬撃をさばいていく。


 そして、イートの連撃ははじかれるごとに剣筋が荒くなり、隙が生まれてくる。その隙の一つをネクロは見逃さなかった。


 イートの袈裟斬りをネクロは手首をつかむことで止め、空いたもう片方の手をぐっと握りしめた。


 そして…………ズンッ!


「グハァッ………!!」


 イートの腹に、破城鎚のごとく拳が突き刺さった。ネクロの拳はイートの鎧を砕き、内臓に深く突き刺さる。


 さらに追い打ちを掛けるように手首をつかんでいた手をひねり、イートの体を無理やり浮かせる。そして空中で無防備になったイートの顔面に、ネクロの踵が突き刺さった。イートを宙に放り投げた後、自分も跳躍、そして宙で半回転するとともにその遠心力が加わった一撃をイートの顔面にぶち込んだだけである。


 鼻の骨が折れる音がしてイートの鼻から血潮が飛び散った。そしてそのまま地面に後頭部から激突する。下手したら死んでいる連撃。イートはぎりぎりなんとか生きていた。


 イートを瞬殺したネクロは、『赤竜の咆哮』のメンバーとアレイスに視線を向けた。





 ――――さあ、次の獲物をよこせ

はい、もうちょっとネクロの無双タイムが続きます。




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