殺意の波動が漏れてしまったようだ……
すみません、この話のあと、更新が一日一回できなくなる可能性があります。
あのあと、顔を真っ赤にしたリンネに、ナルアと二人でものすごい説教を受けた。婚前交渉はリンネのなかでは完全NGらしい。まぁ、あのまま流されまくっていたら、きっと後悔していたから、止めてくれたことは感謝している。いや、もったいなかったとか思ってないですよ?本当ですよ?
説教中はずっとナルアと二人先ほどのことを思い出していたから、説教している側もされている側も赤面中というとてもシュールな光景が広がっていた。
で、二時間にわたる説教が終わったのは、つい先ほどのこと。リンネはまだ寝ていたノルンの隣でふて寝をしていたので、今日はもう起きてこないかもしれない。昨日町に着いたばかりだというのに、いろいろあったから疲れもあるんだろう。
まぁ、それは置いておいて…。
「…………………………」
「…………………………」
き、気まずい。あんなことがあった後なので、ナルアの顔がまともに見れない。それはどうやらナルアも同じなようで、さっきからナルアのほうをみようとすると、ちょうどこちらに視線を向けていたナルアと視線がばっちりとぶつかってしまい、互いに顔を赤くして目をそらす。というまるで付き合いたての中学生のような状態に陥っていた。
あ、でも今の僕の恰好とナルアの恰好なら、周りからはそう見えるのかな?あ、そうやって自覚すると、なんか周りから生暖かい視線が向けられているような気がするんだけど………。うわぁああ、恥ずかしい……。
まぁ、そんな思春期全開な感じで、今日もギルドに依頼を受けに来た。ギルドの入る一歩手前で、一度大きく深呼吸。ここからはネクロじゃなくて、魔術師ネクロとしていかないといけないからね。今のままだと素が漏れそうで怖い。
「……よし」
意を決してギルドの扉を開く。また冒険者がたくさんいるんだろうなーと思いながらちらりと見たギルドの中には……。
「………あれ?」
なんか、空気が重いっていうか、いつもと雰囲気が違う。冒険者たちもなんか見覚えのない人たちばかりだ。
まぁ、不思議には思うが、そういう日もあるだろうと思い、依頼書のところまで行こうとして、その行く手を、数人の冒険者に阻まれた。
「おっと、ここから先は通行止めだぜ?」
「ははっ、お前に受けさせる依頼はねぇんだよぉ!」
「……ショックインパクト」
「「あばぇっ!」」
うん、なんかいた気がするけど、気のせいだよね!さぁて、今日はどんな依頼にしようかなっと。まぁ、採取系の情報集めがまだできてないし、ここはまた討伐系にしますか。
「て、てめぇ、よくもハンスとオクトウを!」
「くそ、何のためらいもなしだと?悪魔かお前は!」
「ショックインパクト」
「「ぐひぁ!」」
えーっと、ど・れ・に・し・よ・う・か・なっと……。うん、この『ルビービーストの群れの討伐』にしてみましょうか。なんか綺麗そうじゃないかな、ルビービースト。さてと、あとはこれをカウンターにもっていけばヨシッと。
と、思ったら、また数人の冒険者に行く手を阻まれてしまう。
「よくも、俺らの仲間を!やっちまうぞおめえら!」
「ああ、こいつは人じゃない。人の皮をかぶった何かだ!」
「我々の正義を示すんだ!」
「ショックインパクト!」
「「「あぎゃん!」」」
その後も、数歩進むごとに冒険者が僕の前に立ちふさがっていく。それをショックインパクトの一撃で撃退していく。なんか楽しくなってきたぞ、これ。
ちょうど十五人目の冒険者をボコったあたりで、もう僕の前に立ちはだかる冒険者はいなくなっていた。やっと終わりかい。まったく、依頼前に無駄な体力を使わせないでほしいんだが……。
そう思っていたら、また一人が僕の前に立つ。
「やれやれ、どうやら彼らでは相手にもならないようだな」
「……?誰だお前」
「なっ!き、昨日会っただろう!?」
「いや、記憶にない」
「…………というか、なぜこの町で冒険者をしているのに、僕のことを知らないのがおかしい!この私、『赤竜の咆哮』のクランリーダーである僕のことを!」
「………ああ、そういえばそんなダサい名前のクランを聞いた気がするが……。で?そのダサいクランのリーダーさんが私に何の用だ?」
ああ、だんだん思い出してきた、こいつ自意識メンだ。自意識過剰すぎて気持ち悪いイケメンくん。
「だ、ダサい……。い、いや、今はそれよりも……。今日は、貴様に忠告に来たのだ」
「忠告?私に忠告する前に、私の忠告を聞いて、クラン名を改名したらどうだ?」
「う、うるさい!というかお前、そろそろダサいって言うのをやめろ!僕のクランはダサくない!」
「そうか、お前の中ではそうなんだろうな」
「~~~~~~~~っ!!」
なんかもう怒りで声も出せないような状態になってる。顔も真っ赤だし……。『赤面の癇癪』とかにクラン名変えたら?
さて、でもSランク冒険者の……えっと、名前なんだったっけ?もう自意識メンでいいや。Sランク冒険者の自意識メンが忠告って何だろうか?
「……まぁいい、まずは先に忠告をしなければいけないからな」
大きく深呼吸をして落ち着く自意識メン。そして、怒りといら立ちの混ざり合った顔でこちらをにらみつけると、ビシッと人差し指をこちらに向けてきた。
「いいか、貴様はコード嬢とブリンガー嬢にふさわしくない!」
…………………はい?
「何を言っているんだ、お前は」
「言葉の通りだ!貴様のような低ランク冒険者に、あの二人はふさわしくないといったのだ。コード嬢とブリンガー嬢にふさわしいのは、この僕のようなSランクだけ!貴様はお呼びではないのだよ!」
あ、うん。そういうことね。
つまり、リンネとノルンに断られたから、僕に八つ当たりをしているってことか。うわ、なっさけない。
だいたい、ふさわしくないとかふさわしいとか、そういうことを決めるのは、二人自身であって僕でも自意識メンでもない。あの二人が選んだ人が、二人のふさわしい人なんだから。周りがいくら叫ぼうが騒ごうが、それは戯言以外の何物でもない。
そう考えると、今目の前でいかに自分がリンネとノルンにふさわしいかを延々と語っている自意識メンが哀れに思えてきた。
「……ということだ、わかったか貴様!」
「あぁ、やっと終わったか。話は聞いてやったんだから、どけ」
「な、なんだと貴様!」
「私は依頼を受けに来たのであって、貴様のダダを聞きに来たわけでもない。そもそも、リンネたちを引き抜きたいなら、本人に直接交渉するのが筋というものだろう?それができない臆病者は、家に帰って布団にくるまって震えていろ」
突き放すようにそう正論をぶつけてやると、固まって何も言えなくなってしまった自意識メン。さて、これでこの茶番も終わりかな、と思ったその瞬間。
「てめぇ、詐欺師野郎が!リーダーに逆らってんじゃねぇよ!」
そう叫んで、イートくんが中身の入ったジョッキを投げつけてきた。それは狙いが甘かったのか、僕からそれて、僕の後ろにいたナルアにぶつかった。
「ふぇ……」
ジョッキの中身がナルアの頭上からぶちまけられる。中身は蜂蜜酒のようで、甘ったるい匂いが漂ってきた。
ナルアは蜂蜜酒でべとべとになった自分の体を見下ろすと、ジワリと涙を浮かべて……。
「ナルア!」
ナルアが泣き出してしまう前に、その体を抱き寄せる。せっかくもらった服を台無しにされたナルアは、僕の胸に顔をうずめて、静かに嗚咽を漏らし始めた。
「あうぅ……ネクロぉ……」
「大丈夫だよ……ナルア、ごめんね。とっさに守れなくて、ごめん」
「ネクロ……うぅ……」
……ナルアも、僕と同じで、寂しかったのかもしれない。僕がナルアと一日だけだったけど、会えなくて寂しかったように。だから、今朝あんないたずらを仕掛けたのかも。そうやって精神が不安定になっていたところに、この仕打ち。抑えていたものがあふれてしまったんだと思う。
ナルアをあやしながら、自分の中に、抑えることのできそうにない殺意がわいてくるのが分かった。炎よりも熱く、氷よりも冷たい殺意が。
殺意は魔力に乗って外に漏れ出る。『赤竜の咆哮』のクランメンバーどもが震えて動けなくなっているのが端目に映る。自意識メンも例外ではない。
僕は漏れ出た殺気を、意図的なものに変える。すなわち、こいつらを殺しつくすと、心に決めたのだ。
さぁ、どれから壊そうか?
前書きでも言った通り、わたしの都合(学校のテスト週間)で、更新が遅れるかもしれません。この小説を楽しみに読んでくださっている方には、大変申し訳ないことをしてしまうかもしれないことを、深くお詫びします。そして、できる限り更新できるように頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします。




