テンプレの親分はやっぱりテンプレだった
うん、タイトルは突っ込まないでいただけると……。
月夜叉を仲間にして、リンネとノルンと再開した僕は、とりあえず依頼達成の報告のため、殺したオーガの中から一番強いやつの首を持っていくことにした。月夜叉が渋るかと思ったけど、少し悲しそうな顔をしただけで、なにも言わなかった。弱肉強食の世界で生きてきたからこその価値観だろう。
選んだのは、ランク10であるオーガエンペラー。オーガが正統進化を重ねた結果、この種族になるらしい。月夜叉の鬼人族は、特異進化した結果らしい。リンネが教えてくれた。
オーガエンペラーの首を切り取り、アイテムボックスにいれ、ほかのオーガたちの死体は、ひとまとめにして燃やした。火葬というにはちょっと適当だけど、しっかりと手を合わせてきた。
「…………王よ」
「なんだい、月夜叉」
「感謝する」
「そう、どういたしまして」
燃え上がる炎を一番近くで見ていた月夜叉が、唐突にそんなことを言った。ただジッと炎を見つめているだけの月夜叉。炎に照らされた彼の顔に、光る筋が見えたことは、黙っていよう。
オーガの死体を燃やし尽くしたら、あとは帰るだけだ。
「じゃあ三人とも、ちょっと動かないでね」
そういってから、[反逆許さぬ支配力]を発動。三人の体を宙に浮かせる。
「え、な、なんで!?」
「おー、たかい」
「お、王よ、一体何を……」
「時間短縮、いっくよー!」
僕は[浮遊]で飛び上がり、ググッと前傾姿勢をとる。
「ま、まさか……」
リンネの震え声が聞こえる気がするけど、意識の外に追いやる。さぁて、帰りますか!
「「わぁあああああああああああああああああ!!!!」」
「はやいー、たのしー」
絶叫を上げる二人と、楽し気に笑うノルンを引っ張りながらオルドの町めがけて飛行する。
「はやいはやいたかいたかいこわいこわいぃーーー!!」
「王よーーーーーー!!!」
「うーわーーー」
「あははははは!それそれ、十分で町に着くぞー!」
「「やめてくださいぃいいいいい!!!」」
「ネクロ、もっと上を目指そう」
「いいね、じゃあスピードアップだ。疾風伝来 来たれ狂風 我に加速の加護を [風伝烈脚]!」
「「ひゃぁああああああああああ!!!」」
「ふふふ、楽しい。ネクロ、ガンガンいこうぜ」
「了解だよ!」
「「了解するな!!」」
スピードあげあげで町の近くまで飛んで行った僕とノルンは、着陸した後、リンネと月夜叉にめちゃくちゃ怒られるのであった…。
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冒険者ギルドの扉を開くと、中にいた冒険者たちが一斉にこちらを振り返った。そして僕を一目見たとたん、歓声が響き渡った。
「うぉおおおおおおお!!帰ってきたぞーー!!」
「ネクロだ!やつが戻ってきたーー!!」
「なにっ!まさかあの依頼を完遂してきたというのか!!」
「よく生きて帰ってきたよ、お前!」
なんだこれ、と一瞬思ったが、そういえば依頼に出る前にものっそい啖呵を切ってきてしまったことを思い出した。ノリとは言え一時のテンションって怖い。なんせ、超有名人であるはずのリンネとノルンが視界に入っていない。どんだけ興奮してんだよ。
このままじゃらちが明かないので、[魔覇]を発動、強制的に黙らせる。
「貴様ら、何をそんなに騒いでいる?まさか、私が敗れ去るとでも考えていたのか?」
そしてこの魔術師モード。一芝居打とうじゃないか。
僕はアイテムボックスから、オーガエンペラーの首を取り出す。凶悪な鬼の顔が、苦痛に歪んだそれは、見たものにそれだけで恐怖を与えそうな感じだ。
「私、ネクロは、確か元凶を打ち取った!これが証拠だ!」
「「「「「ッ、う、うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
オーガエンペラーの首を高らかに掲げると、一拍おいて、大歓声が巻き起こった。
「す、すげぇ……あれって、オーガエンペラーじゃねぇのか!?」
「オーガエンペラーって……ランク10の!?」
「まじか……。しかも見ろ!ネクロには傷どころか汚れすらないぞ!」
「さすがネクロだ……。俺たちにはできないことを平然とやってのける」
「「「そこにしびれる。憧れるぅ!」」」
君たち、その言い回しはどこで知ったの?と突っ込みたいのを我慢。空気がぶっ壊れるからね。
「さぁ、道を開けろ。私は少しギルドマスターに用があってな。あまり時間がないのだ。いくぞリンネ、ノルン、月夜叉」
「ふえ、あ、はい…」
「うん」
「わかった、王よ」
冒険者たちが左右に分かれ、受付までの道ができる。なんかモーゼみたいで楽しい。
冒険者たちはこの時点でリンネとノルンの存在に気付いたようで、顎が外れるんじゃないかってくらい口を開けて驚いていた。
「さて、依頼の報告に来たぞ、アイラ」
「あ、ハイ」
思考のキャパシティをオーバーしたのか、無表情になっているアイラさん。気つけに威力を最小にしたショックインパクトを放つ。
ぺしっという音がして、アイラさんがはっ!となった。
「はっ、……え、えっと、ネクロさん……そちらのお二人は、もしかしてもしかすると、『暴威の剣王』と『叡智の賢者』でしょうか……?」
「そうだが?」
「…………………………え、ええええええええええええ!!!ネクロさん、『暴威の剣王』と『叡智の賢者』と知り合いだったんですか!?」
「ああ、二人は仲間だが……。それより、依頼の報告をしたいのだが…」
「あ、はい。えーっと、確かオーがジェネラルの討伐依頼でしたよね…。でもこれ、オーガエンペラーなんですけど……」
「たぶん原因はこれではないかと思っている」
僕はアイテムボックスから、一振りの大剣を取り出した。それをカウンターに置き、アイラさんに見せる。
「これは……魔法武器ですか?なるほど、これを装備したオーガジェネラルが進化してこのエンペラーになったというわけですね」
「私はそう予想している」
「確かに、それならば今までこの依頼が達成されなかったのもうなずけます。しかし……。これ、ネクロさん一人でやったんですか?後ろの二人の力を借りずに?」
「そうだが?」
「………………………はい、ネクロさんについては、そういうものだと思っておきます」
その納得のされ方は解せぬ。
「それで、少しギルドマスターに通しておきたい話があるのだが……」
「おや、そこにいるのはもしかしてコード嬢にブリンガー嬢では?」
後ろからいきなりかけられた声に、そちらを振り返る。そこにいたのは、神遺物と思われる全身鎧に身を包んだ、騎士風のイケメン。
「あ、てめぇは、詐欺師野郎!」
そして…………えーっと、なんだったっけ?
「ネクロさん、イートさんです。イート」
「ああ、そういえばそんな名前だったな」
「てめぇ、どこまでも人をおちょくりやがって!」
「うるさい、黙れ」
お、うまくいった。月夜叉がやってた声に魔力を乗せるあれ。あれを ちょっと応用して、魔力と一緒に恐怖を付与してみた。名付けるなら[怨鳴]かな?ぶるぶると震えちゃって、無様だねぇ。
「で、私の仲間になんの用だ?そこの……まぁいい」
「…………僕のことを知らないんですか?いけませんね、この町で冒険者をやるなら、僕の名前は知ってないと」
「自意識過剰すぎて気持ち悪いんだが。リンネ、知り合いか?」
「いいえ、知らない人よ」
リンネがばっさりと否定する。それに若干、傷ついたような反応をみせるイケメン。
「ふ、ふふ………さすがはコード嬢。僕なんて眼中にないということですか……。最年少ランクS冒険者は、やはり格が違う……」
何言ってんだこいつという僕たちの視線を受けながらも、イケメンはめげずに言葉をつづける。
「だが、そこがいい!コード嬢、そしてブリンガー嬢。お二人はぜひ僕のクラン、『赤竜の咆哮』に入ってもらいたい!」
あ、めんどくさいやつだな。素直にそう思った。
で、イケメンのキラキラスマイル(笑)を向けられた二人はというと……。
「無理」
「死んでもヤダ」
あらま、容赦ねぇ。
イートくん書きやすいわー。どこに出してもぶれないから。
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