月夜叉2
ホント誰得だよ回。お付き合いくださいお願いします。
冒険者たちを肉片と血だまりに変えた鬼は、故郷である森を出て、あてもなく各地をさまよい始めた。見つけた魔物や冒険者たちを手当たり次第に殺し、レベルをすさまじい勢いで上げていった。
かつての仲間を失った悲しみ、それを殺した人間への怒り、そして、大切だったものを守れなかった自分へのふがいなさは、鬼から感情というものを奪っていた。
ただ無感動に刃を振るい、血に染まった死体を量産していく日々。格下の魔物、同レベルの魔物、格上の魔物、冒険者、盗賊、商人、貴族、奴隷、村民……。そこに貴賤の区別もひとかけらのためらいもなかった。まさしく、殺戮兵器と呼ぶのにふさわしい有様になっていた。
気が付いた時には、鬼は、どんな相手でもさしたる苦労もなしに屠れるようになっていた。
そんな鬼は、さまよっている間に、とある山脈の奥地へと足を踏み入れていた。
そこにいたのは、一匹の龍。四強と呼ばれし、理不尽の化身とでも言うべき存在である。
鬼は、龍の姿を視界に収めるやいなや、それにむかって襲い掛かった。鬼の本能が叫んでいたのだ。こいつを殺せば、自分はさらなる高みに行けると。
そして、鬼と龍との死闘は、三日三晩続いた。鬼の腕がはじけ飛んだり、龍の角がへし折れたり、周りの山々が崩れ去ったりと、戦いは苛烈を極めた。
最終的に生き残っていたのは、鬼のほうだった。腕は両方なくなり、足は片方つぶれ、片目を失った状態ではあったが、鬼は死闘に勝利した。
その時だった。鬼が魔王となったのは。
積み重ねてきた経験は昇華され、鬼に新たなる力と、名を与えた。月夜叉。それが新たなる魔王の名前だった。
月夜叉は、龍の守っていた財宝の中から龍との戦いで折れてしまった武器の代わりを探し出すと、山脈を抜け、故郷の森へと帰ってきた。
久ぶりに故郷の地に足を踏み入れた月夜叉の心には、一つの想いしか存在していなかった。
―――もう一度、あの集落を作りたい。今度こそ、自分の手で大切なものを守りたい。
それから鬼は、各地に散らばるオーガ達をまとめ上げるために、また旅を始めた。様々な地でオーガを従え、自分が選んだ最高の環境であろう場所に、集落を作った。
新たなる魔の王の誕生に、オーガたちは畏怖するも、皆が感激に打ち震えていた。知能あるオーガにとって、魔王の存在とは自分たちの希望であるということなのだから。
そうして作り上げた、月夜叉の理想。かつてのあの集落。オーガ達が死なぬよう戦闘訓練を積ませ、さらってきた人間に農業をやらせるなど、理想をこえたものを実現しようとした。その矢先。
現れたのは、一匹の龍。人間の真似事をする、変わった龍だった。
その龍はありえないような魔法を使い、たったの一撃で月夜叉の集落を壊滅させた。すべてを死に追いやる影の龍。悪魔のような笑みを浮かべ、それを操る龍。
魔王となった月夜叉は、一目見て悟った。勝てないと。前戦った龍がかすんで見えるような、圧倒的な威圧感。根源の恐怖を湧き上がらせる何かを、月夜叉は龍から感じていた。
だが、月夜叉は、それでも挑みかかった。自分の作り上げたものを還付亡き者にされた怒りを原動力にして、激情に身をゆだねるようにして龍に飛びかかった。
渾身の一振りも、怒涛の連撃も、そのすべてを受けきられ、回避された。地の利を利用しようにも、宙に浮かぶことができる時点で、こちらに万一に勝ち目などなかった。しこたま魔法を打ち込まれ、地に伏せた。
もう、すべてが終わった。月夜叉は素直にそう考えた。体には力が入らず、刀はどこかに飛んで行ってしまっている。もう、抵抗するすべは残されていなかった。
死を待つだけの時。だが、いつまでたっても魔法が打ち付けられる痛みは来なかった。
月夜叉が閉じていた瞳を開くと、そこには、何やら考え込んでいる姿の龍がいた。
変わった格好をした龍は、納得したかのように大きくうなずくと、先ほどとは違う無邪気な笑みを浮かべ、月夜叉に向かってこう言った。
「ねぇ、君。僕と来ないかい?」
あー、やっとおにゃのこ出せるぞー。次かいから絶対おにゃのこ出すぞー!
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