月夜叉1
短めです。
これは、のちに魔王となった、ある一匹の鬼の物語。
その鬼は、オーガキング率いるオーガの集落で生まれた。生まれたてのオーガは、まだ力も弱く、ゴブリンにさえ殺されてしまうことがある。
だが、オーガの成長は早い。三日ほどで歩けるようになり、一週間もすれば、自分で獲物を捕りに狩りに出かける。
だが、その鬼だけは、歩くのに五日かかり、狩りもうまくできなかった。どこかどんくさく、一緒に生まれた同世代のオーガ達からも、馬鹿にされ続けていた。周りの大人オーガたちも、馬鹿にすることはなかったが、同時に、鬼に期待をかけることもなかった。
それが鬼には、たまらなく悔しいことだった。自分が誰からも認められず、馬鹿にされ続けるだけの存在であることを、心から嫌悪していた。
だから、その鬼は戦うための技を磨くことにした。集落があった森に訪れる人間を観察し、その戦い方を学ぼうとしたのだ。
鬼は、人間というひ弱な存在が、どうして自分たちのようなオーガや、それ以上の存在すら狩れるのかを追い求めたのだ。弱い自分を、変えるために。
そう決めた時から、鬼は集落に返らなくなった。人間の行動を観察し、それ模倣して狩りを行う。それを繰り返し繰り返し続けて行くことで、鬼の実力はどんどん上がっていった。もう、集落周辺で、鬼にかなうものはいなくなっていた。鬼は、自分よりのランクの高い魔物とも戦い、確実に強くなっていった。
そうして修行のようなことをし続けること数か月。鬼は、進化の時を迎える。
鬼は進化が終わった時、自分の目を疑った。なぜなら、自分の体が、元のオーガのものとはかけ離れた……そう、見慣れた人間のものになっていたからだ。
戸惑った鬼だが、自分のステータスと、進化前に聞いた声から、自分が鬼人種になっていることを知った。
新しい鬼人の体は、オーガの時よりも小さな体躯だったが、内側からあふれてくるエネルギーが段違いだった。それが、魔力や闘気であることを知った鬼は、それを使いこなそうと訓練を始める。
森の魔物を駆逐する勢いで倒し続けた鬼は思った。これで、役立たずじゃなくなる。集落のみんなの役に立てる、と。
鬼は、口惜しさと同時に、申し訳なさを感じていたのだ。集落の一員であるのに、ただただ迷惑をかけるだけ。それが嫌だったから、こうして強くなろうと思ったのだった。
だが、鬼が求めたものは、すでにばらばらに壊れていた。
鬼が集落に戻ると、そこには死に絶え、腐虫が群がる、かつての仲間だったものが転がっていた。
鬼は、それが人間の仕業であることをすぐに見破った。剣で切り裂かれたような死体、魔法で焼き払われた倒壊した家屋。証拠となるものはすぐに見つかった。
鬼は、壊れた集落の中心で慟哭した。うちから湧き上がる悲しみや怒り、そして人間に対する殺意。そして、自分に対する責の念。
どうして自分がこの場にいなかったのか。なぜ、仲間と一緒に戦えなかったのかと。そう、自分を責め続けた。
そうしているうちに、集落の中に、複数の人間が入ってきたことを察知した鬼は、勇気のような足取りで、そちらに向かっていった。
そして見たものは、仲間のオーガの死体を足蹴にし、得意げに笑う人間の姿…………。
気が付いた時には、その場には血の赤以外、なにも残っていなかった。すべて、鬼がつぶしたのだ。屠殺、圧死。肉片すら残さずに人間を殺した鬼は、その人間が持っていた二本の変わった形の剣を持ち、他の人間がいるであろう場所まで向かった。
そこで起こったのは、大虐殺。オーガの集落を壊滅させるために集められた冒険者たちは、依頼の成功を祝う宴会の最中だった。そこに現れる、復讐心にとらわれた鬼。銀閃がきらめくたびに、冒険者たちは、物言わぬ肉になり果てていく。その肉さえ踏みつぶし、原型を残さぬほどにぐちゃぐちゃにする。
鬼は、自分が狂ったように人間を殺し続けるのを、頭の片隅で見ていた。
――――――――ああ、小生の力は、このようなことのためにあるわけではないのに……。
誰得だよこれ。早くロリを出したいんだが…。




